Girl
庭園に案内されたフィリアは、時間になったら呼んでほしいとメイドに伝えて、一人に散策を始めた。
多肉植物や南国の花々が多かった赤の領主の館と違い、豊穣の街は農業の街であるため、庭にも木々が多く植えられていた。
それらを楽しみながら奥へ奥へと進む。
すると、ある木がこの先に女の子がいる、と教えてくれた。
一瞬メリダだろうか、と思ったが、即座に木に否定される。
メリダではないとすれば、一体誰だろうか?
疑問に思ったフィリアは、その少女がいるという方向に向かって歩き始めた。
グスッと鼻をすする音が聞こえる。
押し殺した泣き声も。
フィリアはそっと、茂みから様子を伺った。
小さな少女が座り込んでいる。
後ろ姿しか見えないが、間違いなく彼女が声の主だろう。
なぜ、泣いているのだろうか。
考えても分からないので、フィリアは直接聞いてみることにした。
「ねえ」
びくりと、その背中が震える。
フィリアは構わず近づいて、前に回り込んだ。
「どうして泣いているの?」
顔を上げた少女は、フィリアと目を合わせるとビックリしたように呟いた。
「女神さま……?」
「?」
フィリアはキョトンとした。
女神さまとは何だろう。
自分はそんな存在ではない。
しかし、少女は驚いたことにより泣くのを止めたようだ。
「あ、あの…貴女は…?」
びくつきながらこちらを窺ってくる彼女に、フィリアは生まれたての雛を思い出した。
金の髪がそれを一層助長する。
「私はフィリア。
旅をしていて、今はちょっとここの主にお世話になっているの」
貴女は?と首をかしげたフィリアに、少女は慌てて答える。
「あ、私はユナといいます…」
「ユナね。よろしく」
差し出した手に、おずおずとユナは自らの手を添えた。
握手した手を離さず、フィリアはそのままユナを立ち上がらせた。
「ねえユナ、貴女はこの庭園に詳しい?」
「え?はい、それなりに…」
「それじゃあ、ここを案内して貰いたいんだけど、いいかしら?」
「はい、大丈夫です…」
「よかった、ありがとうユナ」
にっこりと笑ったフィリアに、ユナも小さく笑みをこぼした。
「そう言えば、何故あんなところで泣いていたの?」
散策を始めて暫くして、馴れてきたらしいユナに問いかける。
それにユナは俯いて答えた。
「私、駄目な子なんです」
「駄目?」
「はい。
私は平民で、礼儀作法もなっていないから、メリダさまを苛立たせてしまうんです」
「あ、じゃあ私と一緒ね」
「え?」
フィリアの言葉に、ユナは顔を上げた。
「私なんて森育ちだもの。
それに何故かわからないけどメリダにはすごく嫌われてるわ」
「フィリアさんは貴族じゃないんですか?
そんなに綺麗なのに?」
「違うわ。
というか、そんな理由で貴族にはならないわよ」
クスクス笑うフィリアに、ユナは恥ずかしそうに赤面した。
「そ、その…あまりに美しかったから…」
「そんなに誉めなくても…」
居心地悪そうにするフィリアに、ユナは興奮したように言葉を重ねた。
「本当です!
初めて見たとき、女神さまかと思いましたもの」
「さっきも言っていたけど、その女神さまって何?」
「え、もしかして知らないんですか…?」
頷くフィリアに、ユナは驚きながらも女神の存在について説明してくれた。
「この国に、昔から伝わるものなのですが……
この国は昔から闇の者の脅威にさらされていました。
闇の者に襲われる人々は段々と心を病んで、元気が無くなっていったんです。
そんな様子に、一人の男が立ち上がりました。
それがこの国の初代国王です。
初代は森に住むという、緑の瞳に銀の髪をもつ美しい女神に助力を求め、そうして彼女と共に各地を旅して、各地の族長の協力を求め、1つのオルアースという国を作ったのです。
その後彼は力をもつ5つの宝石を集め、それに女神が力を込めることでこの国を闇の者から守るための結界を張りました。
しかし、闇の者はそれに対抗し、軍勢となって城を襲いました。
各族長と女神、初代はそれらと戦って勝利しましたが、初代はその戦いで命を落としてしまいました。
王国に平和は訪れましたが、女神は嘆き悲しみ姿を消して、その後二度と人間の前に姿を現すことはなかったのです。
これが、女神さまの伝説です」
話し終えてから、ユナはギョッとした。
「フィリアさん、どうしたんですか!?」
フィリアは涙を流していた。
自分自身、ユナに言われて気づいたため、慌てて拭う。
「……わからない。
でも、とても悲しくなったの…」
「フィリアさん…?」
「…もう大丈夫。
教えてくれてありがとう、ユナ」
「いいえ、むしろ話したせいで気分を害してしまってごめんなさい」
ユナはすまなそうに視線を下ろす。
「そんなことないわ!
嫌な気分になんてなってないもの」
「でも…」
「本当に気にしないで」
「なら、いいんですが…」
「フィリア様、そろそろ夕食が……まあ、ユナ様もご一緒だったのですね」
メイドがフィリアを呼んだ。
どうやら夕食の時間のようだ。
「もう時間?」
「はい。
そうだ、今日はユナ様もご一緒に夕食をとられては?
お客様がいらっしゃっていますので、お話を色々と聞くことが出来ますよ」
「いえ、私はいいです…」
「ユナはいつも一緒に食べないの?」
申し出を断ったユナを疑問に思って、フィリアが問いかける。
「はい、私は平民ですし…」
「そんな、身分など関係ありませんわ!
ユナ様はれっきとした次期黄の族長ですのに」
「え、そうなの?」
「はい…」
気まずそうに俯くユナに、それじゃあ、とフィリアは1つの提案をした。
「ユナ、二人で食べない?」
「…え?」
「一人で食べるのは寂しいし、私もメリダには嫌われているから、一緒に食べない方がいいと思うの。
あ、でも迷惑?一人で食べる方が好きなら…」
「いいえ、嬉しいです!」
「それじゃあ決まりね!
私、同じ年くらいの女の子の友達って初めてだから、すごく嬉しい。
メイドさん、お願いしてもいいかしら?」
「…わかりました。
アードルト様方に伝えておきます。
食事はどこに用意いたしましょう?」
「……私の部屋に、二人分お願いします」
ユナの言葉に少し驚いて、けれどすぐにフワリと笑って、メイドは了承した。
ユナが部屋に誰かを招くのは初めてのことだ。
次期黄の族長として選出されこの屋敷に来たユナは、メリダのこともあり塞ぎがちで、メイドたちも心配していた。
けれどフィリアとの関わりで、彼女がまた明るくなってくれるといい。
そう思いメイドは、二人が一緒に食事をとる旨を、同じくユナの心配をしているアードルトに伝えにいくのだった。
あんまり物怖じしないフィリアちゃん。
分からなかったら直で聞きます。
遠慮も何もせずユナに泣いていた理由を聞きに行ったところを占い師さんが見たら
「あーもうホント、フィリアちゃんてば正直なんだから全く」とか言いそうですね。




