Fortune teller
メリダに連れられ乗り込んだ馬車の中の空気は最悪なものだった。
ルークの隣にはメリダ、正面にはバルド。
フィリアはバルドの隣、言うなればルークから最も遠い位置に座っている。
「ルーク様、宝石はどれぐらい集まりましたの?」
相変わらずルークの腕を胸に抱き込んだまま、メリダが問いかける。
「あぁ……今のところオパールとエメラルド、ルビーの3つが集まってるよ」
「まあ!それでは我が領のトパーズを手にいれればあとひとつですのね」
「そうだね…」
「そう言えば以前私の…」
二人以外は終始無言。
バルドは気まずそうに目をそらし、フィリアは馬車の床を見つめたまま動かない。
それは馬車が止まるまで続いた。
「…なんですの?
まだ街には着かないはずですが」
突然止まった馬車に、メリダが眉をよせる。
御者が扉を開けた。
「申し訳ありません皆様。
どうやら馬の調子が悪いようでして、明日になれば街から代わりの馬を連れてこれるんですが、なにぶんこうも暗いと…」
「なんですって?
貴方、この私にこんなところで寝ろと言うの?」
メリダの言葉に御者は縮こまった。
「メリダ、無茶を言うものじゃないよ。
大体、もう夕方だったのに馬を走らせたのは君だろう?」
「でもルーク様…」
「僕達は野宿には慣れているから、君はこの馬車で眠って。
怖いならフィリアもいるし」
ルークの気遣いに、メリダは嬉しそうに頬を染めたが、続く言葉には顔をしかめた。
「嫌ですわ、こんな女と寝るなんて」
「メリダ、」
「私、外でいいわ。
ルークが彼女と馬車にいればいいでしょ」
フィリアは感情を感じさせない平坦な声で言って、そのまま扉から外に出た。
御者はどうすればいいか分からずにキョロキョロしている。
「ほら!あの人もそう言っていることですし、そうしましょうルーク様」
嬉しそうに抱きつくメリダと、フィリアを追いかけたそうにしているルークを見て、バルドはため息をついた。
そのまま彼も立ち上がる。
「そうだな、それじゃあ俺も外にいこう。
ルーク、メリダ嬢の事は頼んだぞ」
「バルド…!」
裏切り者、とでも言いたそうな目線に気づかないふりをして、外に出た。
立ち尽くしたままの御者には戻っていいと伝える。
彼はあからさまにホッとしたような顔をして去っていった。
「さて…フィリアはどこに行ったんだ?」
辺りを見回しても彼女の姿はない。
この辺りには林が広がっているようだし、その中にいるのだろうか。
そう思い、バルドの足は林へと向かった。
やっと一人になれたフィリアはふぅ、と息をついた。
「疲れた…」
そう呟くと近くの手頃な木の根本に座り込む。
全く、あの空気はどうすればいいのか。
フィリアは混乱していた。
なぜああもメリダから嫌われるのか。
特になにかした気もしない。
やはり森育ちというのが悪いのだろうか。
いや、というか、今はそんなことではなく―――
「ルーク様がなーんで自分に隠し事してたか、考えなきゃね?」
「!?」
突然聞こえた声、しかもまるで自分の考えを読んだかのような。
それに驚き、フィリアは腰の刀に手をかける。
「ヤだなあー、そんな驚かせるつもりはなかったんだ。
ささ、その刀に添えた手ぇ離しなよ」
声の主は真っ白な髪に青みがかった黒の瞳を持つ怪しげな青年だった。
彼はヘラリとフィリアに笑いかけると、未だ警戒を解かないフィリアに近づき、しゃがみこむ。
「俺は旅の占い師だよー。
あっはっは、スッゴい嘘臭いって顔に書いてあるよ、フィリアちゃん」
「…なんで、私の名前」
「んん?
そりゃ俺占い師だし。
なんでも知ってるよー。
フィリアちゃんが今怒ってるコトとかねー」
「……」
「そんで、親切な占い師な俺はフィリアちゃんに助言してあげようと思ってさー。
ルーク様がフィリアちゃんに、ほんとのコト黙ってたワケ、とか。
フィリアちゃんは記憶ないからー、そういう人の心の機微に疎いしねー」
「そんなことも、知ってるのね」
「おっ!信用してくれたー?」
「木々が、貴方は悪い人じゃないって言っているし…」
「ありがとぉー」
青年は嬉しそうに笑った。
「で、助言ってなんなの?」
「ンッフッフー
気になる?気になるんだね?
よしよし、お兄さんが教えてあげましょー」
「…私、貴方と話していると疲れるわ」
「うわーフィリアちゃんてば正直だなーもう。
んじゃま、取り敢えず話始めるよ?
ちゃんと聞いててね?」
はいはい、と適当に返事をするフィリアに、フィリアちゃんてばこんな短時間で俺の扱いが…、と青年は泣き真似を披露した。
フィリアの目線はもはや完璧に変なものを見る目だ。
それにも挫けず、青年は話を続けた。
「あのね、フィリアちゃんにルーク様達が隠し事してたのは、怖かったからなんだよ」
「怖かった?」
「そう、怖かったの。
ルーク様ってば臆病者だからさー。
フィリアちゃんに自分が王太子だってばらしたら、フィリアちゃんの態度変わっちゃうんじゃないかーって思ったわけ。
わかってないよねー。
しかもロイ君との一件でそんなことにはならないってわかったくせにさ。
ほんと彼には困っちゃうよ」
「ふーん」
「あれ?
フィリアちゃんもしかしてあんま興味ない?」
「いや、別にそういう訳じゃないけど、そうなんだぁと思って」
「うわぁ、カンペキ脈なしじゃん。
ルーク様カワイソー」
「脈?」
「いんや、こっちの話。
でさ、理由も分かったことだし、フィリアちゃんどーすんの?」
そう問いかけてきた青年に、フィリアはその緑の瞳を瞬かせた。
「どうする、って?」
「いや、だからさ、このままじゃマズイでしょ?
仲直りしなきゃじゃん」
「仲直り……」
「え!?しないの!?
フィリアちゃんもしかして仲直りする気ない!?」
「そうじゃないけれど」
「だよね…よかったぁー」
あからさまにホッとした様子を見せる青年。
それにフィリアは首をかしげた。
「貴方は私とルークを仲直りさせたいの?」
「そりゃあね。
なんてったって二人に王国の未来がかかってるんだもん」
「…?」
「今は詳しいことは秘密。
そのうちわかるよー。
そんじゃ、ちゃんと仲直りしてね?
あと、豊穣の街では気を付けて。
自分を見失わないように、ね?」
「え、ちょっと…」
立ち上がる青年に、フィリアが驚く。
「中途半端でごめんねー。
でもバルド君が今こっちに向かってるからさー。
あ、これ二人で食べて。
美味しいから」
どっさりと渡された果物にフィリアが慌てているうちに、青年はこの場から離れていく。
「俺の事は他のみんなには内緒ね?
そんじゃフィリアちゃん、またねー」
手を振りながら立ち去っていく姿に、フィリアは呆気にとられて振り返すことしかできないのだった。
暫くそこに突っ立っていると、青年の言った通りにバルドが現れる。
「ここにいたのかフィリア、探したぞ。
……その大量の果物はどうしたんだ?」
「……拾ったの」
「は?」
「バルド、一緒に食べましょ」
何となくそうした方がいい気がして、彼の事は話さなかった。
謎の青年登場!
お気楽そうな奴ですね。
でもそんな彼だからこそ、フィリアちゃんは心穏やかになれたんでしょう。
そうでもないとバルドに話しかけられてもそっぽ向いてたはずです(笑)




