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緑の柱  作者: 美羽
Ruby
26/182

Scorpion


「あれは……蠍?」



元は扉であった瓦礫を踏み越え中に入ると、そこには予想通り闇の者が待ち構えていた。

漆黒の外皮、爛々と光る赤い目、左右に一対の鋏を持ち、おそらく毒を含むのだろう、針のように先端の尖った尾を振り上げている。

その大きさは人間のものを遥かに超え、今一行がいる部屋よりも二回りほど小さいのみである。



「特徴的に言えばそうでしょう。

さすがに大きすぎるとは思いますが」


「ルビーはどこにあるのかしらね」


「見当たらないな…

かなりの大きさだし、あいつを倒してからじゃないと探すのは難しそうだね」



頷くと、それぞれ身構えた。

蠍が向かってくる。



振り下ろされた鋏を、ルークとフィリア、バルドとロイの組み合わせでそれぞれ左右によけた。



「なかなか速いですね」


「でかいくせに、小回りの利くやつだ」



そのまま反撃に移る。


―――キンッ



「……やはり硬いか」



「斬るのは難しそうですね。

ならば、これならどうでしょう」



再度襲いくる鋏をよけ、そのままそれにこぶしを突き出す。



ピシリと小さくヒビが入った。

即座に距離をとる。



「……これだけですか。

一応、石の壁ぐらいは粉砕できるのですが」



ロイはさも愉しそうに嗤った。



「…声と表情が一致してないぞ」


「そうですか?

すみません、つい」


「フィリア、何する気なんだ!?」



そう軽口を叩いていた二人も、ルークの声に何事かとそちらを見た。

蠍越しで、しかもその攻撃をよけつつ見ているため定かではないが、何やら揉めているようだ。



「いいから、お願いねルーク」


「……わかったよ!」



ルークが蠍の攻撃をかいくぐりバルド達のもとへ来る。



「…なにをするんだ?」


「いいから、あいつの注意をこっちに向けて欲しいんだ」


「何をする気かはわかりませんが、まあいいでしょう」



三人で蠍を攻撃する。

蠍はまんまとそれに乗り、フィリアに完全に背を向ける形となった。


フィリアがにやりと笑う。

刀を鞘へとしまうと、毒をまき散らす蠍の尾へと高く跳躍した。



「弾かれるぞ!」



バルドの言葉も無視し、そのまま刀を抜き放つ。


一瞬後には蠍の絶叫が響いていた。


ドサリと地に落ちた尾を横目に、華麗に着地したフィリアは再度刀を仕舞う。



「こういうのは繋ぎ目を斬ればいいのよ」



唖然とするルークとバルド。

ロイは素晴らしい、と拍手を送った。



「…ともかく、そうと分かればあの鋏も切り落とせるが」


「でも尾と違って気づかれて反撃されるから少し難しいね」


「そう言うことなら任せてください。

私が奴の目をくらましましょう」


「できるの?」


「ええ、貴女にばかりいいところを見せられては赤の民の名が廃りますからね。

フィリアはそこで見ていてください。

それでは二人とも、よろしいですか?

私の合図で行ってください」


「わかった」



蠍は尾を斬られたことで怒りを露にしている。

生き物とは思えない叫び声をあげると、そのままこちらに突進してきた。


ロイが一歩前に出る。

スゥッと息を吸い込むと、地面にその拳を入れた。



「今です!」



ルークとバルドが走り出す。

蠍は気づいて鋏を振り上げようとするが、突如として手前の地面がひび割れ、そこから礫が襲った。

蠍が怯む。


その隙を突き、二人はそれぞれ左右の鋏を斬りおとした。



蠍は絶叫した。



「まだ、生きてるのね」


「しぶといですね。

いっそ輪切りにしますか。

私はその間に顔を潰します」


「いいかもしれないわ」



ルークとバルドは未だ蠍の傍にいるため、突っ込み役がいない。



誰も止めるものがいなかったため、その計画は残念ながら実行された。






綺麗に輪切りにされ、顔を潰された蠍が灰になって消える。

その姿を一同は感慨深げに見つめた。



「…最後は、なんていうか、弱いものいじめを見ている気持ちになったよ」


「そうだな…」


「なによ、二人だって一緒にやったくせに」


「全く心外ですね。

強き者が弱き者にその強さを示して何が悪いのですか」


「…まあ、ルビーを探すとしよう」



しかし探してみてもルビーは全く見当たらない。



「ないわね…」


「ルーク、宝石の反応はどうだ?」


「ちゃんと強く反応してるよ。

近くにあるはずだけど…」


「もしかして、隠し部屋の中にあるのかもしれません」


「隠し部屋?」



ロイの言葉に、残りの二人を代表してフィリアが尋ねる。



「ええ、ここは赤の民が暮らしていた場所です。

私も詳しくは知りませんが、歴代の族長の財宝が眠る隠し部屋があると聞いたことがあります」


「その隠し部屋にはどうやって行くんだい?」


「赤の族長となった者のみが知るからくりなので、私もそこまでは…」


「一度戻ってグレイ殿に聞くしかない、と言う訳か」


「また、あの罠だらけの道を往復するのか…」



申し訳ありません、と謝罪するロイに、ルーク達は慌てて気にしなくていいと伝えた。



「それじゃあ砂漠の月に行こう。

フレイも待ちぼうけているだろうしね。

…フィリア?どうかした?」



ぼんやりと立ち尽くすフィリアを、三人が何事かと窺う。



「ううん…

なんだか、頭が痛くて」


「大丈夫ですか?

蠍の毒か何かに触れたりなどしたのでしょうか」


「そうじゃないわ。

ただ、今までは気づかなかったけど……なんだかここ、懐かしいの……」


「懐かしい?」


「うん…

前にも、誰かとここに来た…」



ズキリ、と頭が鈍く痛む。

それと同時に、誰かの面影がよぎった。



「そう、あの時も…誰にも秘密の場所があるからって…

そこに探し物があるかもしれないって、言ってた…」



燃え盛る炎のような、あの人。

彼は、どうしていた?



フラフラと歩きだす。



「フィリア?」



戦いでボロボロになった空間の、ある壁に近づくと、そっと触れた。



「ここを触って…

そう、それで」






―――アンタ、強えな。負けたのは久しぶりだぜ。

そうだ!アンタにいいこと教えてやるよ。

ホントは、あれだけ渡して追っ払おうかと思ったが、アンタのこと、気に入った!!

俺の一族の秘密でな。これはあいつにも教えてない。

だから、これであいつのことを―――



彼の頼みに、当然だと返して。

そうして聞いた、秘密。



―――ハハッ、そりゃそうだ!

頼むぜ?アンタだけが頼りなんだからな。

それじゃいいか?開けるのは簡単なんだ。

ここに手を触れて、こう言やいい。






「……ファル サヤ」






――瞬間、地が揺れた。



「なんだ!?」



フィリアが触れていた壁がパックリと割れる。


ルーク達は言葉を失った。



新たに表れた部屋の中にはそこかしこに宝石や金、装飾のなされた武器などが並んでいる。

しかしそれをものともせずに、フィリアは何かに手を引かれるように奥へ奥へと進んでいった。



部屋の最奥、まるで王の玉座のような場所に、それはあった。


まさに、血をのような紅。



「ルビー…こんな場所に」



フィリアがそっと手に取る。



「フィリア、貴女は何故この場所を………フィリア?」



ロイの問いかけに答えることなく。

フィリアの体は地へと崩れ落ちた。




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