Remain
地面へ降り立ってみると、遺跡はかなりの大きさを誇っていた。
「大きい…」
「この遺跡は我々赤の民が昔暮らしていたものなんです。
今はもう砂漠の月という名の街をつくり移り住みましたが、以前は赤の民がより集まって各々の武を磨いていたのですよ。
私達が別名武の民と呼ばれているのもそれが一因です」
「ほう…しかしそんなところに闇の者が現れるとはな」
「ええ、遺憾なことです。
だからこそ、私も同行を願ったのですよ。
さ、行きましょう」
遺跡は暗く、どこか陰鬱な空気を纏っていた。
すかさずロイが近くの壁に触れる。
すると、その壁がロイの手に押されるまま凹んだ。
途端に室内が明るくなる。
「わっ」
「驚かせましたか?
この遺跡には赤の民にしか伝えられていないからくりが沢山あるんです。
これもその内のひとつです。
ただ―――」
「きゃっ」
ロイがフィリアを抱き寄せる。
すると先程までフィリアがいた場所に弓矢が刺さっていた。
「「「………」」」
「こうして、訪問者を試す仕掛けがあるのですよ」
怪我はないですか?とにっこり微笑む。
フィリアはこくこくと頷いた。
「…どうにか仕掛けを止める手立てはないのかい!?」
「難しいですね。
これは赤の民を訪ねる、腕のたつ冒険者達を試すためのもので、最深部からでなければ解除は出来ません」
「…さすが、武の民と言ったところか!」
「お褒めに頂き光栄です」
「ロイ、褒めてないわ…」
今四人は後から後から現れる、振り子のように揺れる剣や斧などの刃物を走ってかわしながら先を急いでいた。
その最中にも、
「ルーク、その三歩先に罠がありますので二歩で進んでください」
「なっ!」
「バルドはそのままいくと落とし穴に落ちますよ。
左に2.5歩ずれてください」
「に、2.5!?」
「フィリアはそのまま進んで構いませんよ。
何かあっても私が対処しますので」
「え、悪いわ…」
「いえいえ、役得ですよ」
「「おい!!」」
始終この様な具合である。
「この先に開けている場所があります。
そこでひとまず休憩しましょう」
その言葉に、やっと休める、と走り通しの一同は息をついた。
「ここには罠はありませんので、安心して休んでください」
「や、やっと座れる…」
「さすがにキツいな…」
休憩場所に着いたときには、ルークとバルドは肩で息をしていた。
「二人とも、水飲む?」
「ありがとう…」
同じ距離を走ったはずなのだが、フィリアとロイは至って平常通りだ。
「フィリアは平気ですか?」
「一応森で生活してたから、身軽さはあるのよ?
それに私はロイのお陰で罠を気にしないで済んだし…
ロイの方こそ大丈夫?」
「ええ、平気です。
ここの仕掛けは頭に入っていますし、これでも次期族長なのでね」
「確か赤の民は代々最も強い者を族長に選ぶんだったな」
「はい、私も数年前の選定の儀で次期族長を拝命しました」
「大変なのね」
貴族達が代々世襲制なのに対し、五色族の長の選定は厳しい。
「いえ、これは我々赤の民だけでなく他の族長も行っていることですから。
確か青はその時最も魔力が強い者、黄は守りの力が表れた者、白は予言の力を持つ者がそれぞれ選ばれるはずです」
「……一般人でよかったわ」
「さて十分休息もとれたことだし、そろそろ行くか。
ロイ、最深部まではあとどれくらいだ?」
「残り3分の1といったところでしょうか?」
「ルビーも多分そこにあるんだろうな。
進むほどオパールとエメラルドの反応が強くなってる」
「行きましょう」
一行は先を急いだ。
その後残る罠をかいくぐり、いよいよ最深部に続く扉の前までたどり着いた。
「この先が最深部になります。
今までに敵も現れませんでしたし、恐らくここで我々を待ち受けているのでしょうね。
ふふっ、腕がなります」
「…さっきからなんだか生き生きしてないか?」
「おや、こうでなければ赤の族長は務まりませんよ?」
「あぁそう…」
「でもロイは武器を何も持ってないわよね?」
フィリアの疑問にバルドが答える。
「赤の民、特に族長は武器を使わないんだ」
「己の肉体のみで戦うのが我が一族の美徳とされているのですよ。
もちろん、闇の者にはそれだけでは敵いませんのでこれを使います」
そう言って両手につけられたグローブを見せる。
「これは魔術師が魔力を込めたもので、破魔の力を宿しているんですよ」
「…さわってみてもいい?」
「勿論構いませんよ」
手に取ってみると普通のグローブのようだ。
「あまり変わったところはないのね」
「いえいえ、これは特別製なので戦闘時には鋼のように固くなるんです。
少し離れていてください。
この最後の扉は、あることをしないと開かないようになっているんです」
意味深に笑うと、ロイは最深部に続く扉に向き直った。
そして、スッと構えをとると、自らの拳を扉へとつきだした。
――ドッ
およそ拳をぶつけたとは思えない音が響く。
次いで扉全体にヒビが入り、そのまま全てが崩れ落ちる。
もはや扉は見る影もなく、ただの瓦礫がその場に積まれた。
振り返り、何事もなかったかのように笑う。
「この扉は拳で破壊しなければ開かないんです」
いやそれ開いたって言わない…
賢明にも三人は心の呟きを口に出すことはしなかった。
赤の民:肉弾戦に凄まじい力を発揮する戦闘民族。戦闘大好き。昔は魔術に肉弾戦で勝てるか、という挑戦心のもと、青の民に喧嘩を吹っ掛けたりしていたちょっとはた迷惑な人たち。所謂戦闘バカ。
今も他の民族からはその血気盛んな民族性に、「あぁ、あの赤の…」とちょっと厄介者扱いされることも。
ロイも穏やかな方だけどやっぱり闘いになると血が騒ぐ。でも今時の赤の民は頭も使わないと、と思っているので普段は穏やかさん。




