Fly
「よろしくお願いしますね」
目の前でにこやかに微笑むロイに、ルークは絶句した。
闇の者が現れるという遺跡へ向かう朝、なぜかそこには旅支度をしたロイが待っていた。
「なに、ルーク殿達は遺跡への道を知らんだろう?
案内が必要だと思ってな。
心配はいらん、こやつも赤の民じゃ。
足手まといにはならんよ」
見送りに出たグレイが明らかに面白がった口調で言う。
「そうか、ロイ殿よろしく頼む」
「ロイで構いません。
私もバルドとお呼びしても?」
「あぁ、勿論だ」
「またロイに驚かされたわ」
「それなら私の目的は半分果たされたようなものですね。
よろしくお願いします、フィリア」
ルーク以外の二人はロイを歓迎している。
裏切り者、とルークは胸中でバルドに呟いた。
こうなった以上、ロイの同行は認めるしかないだろう。
何より案内の存在はありがたい。
「…よろしく、ロイ殿」
「えぇ、お願いしますね。
昨晩も言いましたが、ロイでいいですよ?ルーク」
「ああ、そうだったね」
「なにやら面白いことになりそうじゃな。
本当にお主達が来てから愉快なことが多いわい。
わしもこの年じゃなければのう…」
「駄目に決まっていますよ、お祖父様。
館で私達の帰りを大人しく待っていて下さいね?」
「わかっておる。
それでは皆、気をつけられよ」
そうして、少々連携に不安の残るパーティーは領主の館を出発した。
「…さて、そろそろ良いだろう。
フィリア、大丈夫そうか?」
「えぇ、それじゃ呼ぶわね」
「……どうしたのですか?」
街を出てから少し経ち、周りに人の姿が見られないことを確認すると、バルドがそうきりだした。
フィリアも頷き、残りの三人から距離をとる。
その様子にロイは不思議そうだ。
「見ていればわかるよ」
ルークがそう言い切らないうちに、何処からか羽音が聞こえてくる。
それは段々と大きくなり、地面に影が射す。
グリフォンのフレイだ。
「遺跡まで、この子に乗っていく予定なの。
ロイは高いところは大丈夫?」
「……昨日の話に出てきた貴女の友人ですね?
乗せていただけるなんて光栄です」
「そう言えば、四人も乗せられるのかい?」
ルークの問いかけにフィリアは勿論、と返す。
「フレイはとっても力持ちだもの。
それに、さすがにドラゴンだと目立っちゃうだろうしね」
グリフォンも十分目立つ。
男達の心がひとつになった瞬間である。
フィリアが今になってフレイを呼んだのにはそう言った理由がある。
街で呼び、そのまま遺跡に向かうにはフレイは人目につきすぎるのだ。
しかし出来れば早く遺跡に着きたいのは事実。
そこで、人の姿がなくなる砂漠でフレイを呼び、そこから乗っていくと言うことになったのだ。
「フィリア、飛ぶと歩いているときより太陽に近くなるから、フードを被った方がいいよ」
そう言ってルークがフィリアにフードを被せる。
「暑いだろうけど、我慢してね」
「ありがとうルーク」
「では、早速乗らせて頂きましょうか」
「あ、そうね」
二人を裂くように、柔らかく声がかかる。
ルークは渋々手を離した。
案内の必要があるため、フレイにはフィリア、ロイ、ルーク、バルドの順で乗ることとなった。
そのままフレイが力強く飛び立つ。
「…初めて、空を飛びましたよ」
「ふふっ、なかなか出来ない経験よね。
フレイに初めて乗った人はみんなそう言うわ」
「貴女の友人はすごいですね。
人が四人乗っても、びくともしない」
ロイがそっとフレイの背を撫でる。
フレイは答えるように一鳴きした。
「それに、街から出るのも初めてです」
「そう言えばグレイ殿もそんなことを言っていたな。
何か理由でもあるのか?」
「…そうですね、私もこの街にばかり目を向けるのではなく、他の場所にも赴き見聞を広めることも必要だとわかっています。
しかし、私はまだこの街を知り尽くしていない」
「知り尽くす?」
「えぇ。
自らの街を知らぬものが、他の知識を持っていてもうまくそれを自分の街に置き換えることは出来ない。
だからこそ、私はこの街をもっと深く知ろうと思うのです」
「なるほど、素晴らしい心掛けだな」
「いえ…そのせいかお祖父様には引きこもりなどと言われていますし、この年になっても王都に顔を出したこともありません。
なかなか上手くいかないものです」
ロイは苦笑した。
「…でも、思ってもそれを実行出来るものが少ないなかで、きちんと思った通りに動けることは凄いことだと思うよ。
…僕にはまだそれが出来ていないから、余計にね」
ルークの言葉にロイとバルドが目を見開く。
「とんでもない。
まだ至らないところばかりですよ。
しかし、貴方にそう言っていただけるとは思いませんでした」
「ルーク、大人になったな」
「……君達の日頃の僕に対する見方がよくわかったよ」
最初はどうなることかと思いきや、どうやらなかなか上手くいきそうである。
そうバルドは胸を撫で下ろしたが。
「まあだからと言って、私は譲る気はありませんがね」
「…奇遇だね、僕もだよ」
―――やはり前途多難であった。
「――ねぇ、あそこに見えるの、遺跡じゃないかしら」
先程から黙っていたフィリアは、どうやら地面を見て遺跡をさがしていたらしい。
この二人にも見習ってほしいものだ、とバルドは思ったが、よく考えてみるとフィリアがこの空気の原因だった。
人生は上手くいかないものだ。
バルドが黄昏ている間にも遺跡らしきものはぐんぐん近づいてくる。
「確かに、あれがそうです。
降りましょう」
「わかったわ」




