Dinner
ところ変わってフィリアは。
部屋に入った瞬間、大勢のメイドに取り囲まれた。
「お待ちしておりましたわ!」
「まあ、なんてお可愛らしい」
「肌も真っ白ですのね」
「磨きがいがありますわー」
「まずは湯浴みですわね」
「え?え?」
あれよあれよという間に、服が脱がされていく。
気がついたときにはフィリアは丸裸にされていた。
「ふぇ?な、な……」
さ、お入りください、とメイドに風呂へと押し込まれる。
勿論、中にも数人のメイド。
部屋からは服をどうするか話し合う声が聞こえている。
先にも後にも進めず、フィリアは顔をひきつらせた。
湯浴みを済ませ、ぐったりとしたフィリアは次いで鏡の前へと運ばれた。
そのまま化粧を施され、髪を結われていく。
勿論その合間もメイドのお喋りはノンストップた。
「あの、ほんとにもう…」
「本当にお可愛らしいわ」
「頬はやっぱりピンクよね」
「髪もさらさらね」
「ちょっと、この方にはそっちよりこっちの紅のほうが合うわ!」
「髪飾りはどうしようかしら?」
フィリアの話は誰も聞いていなかった。
化粧と髪を終えると、次は衣装だ。
フィリアはもう抵抗する気力もなくされるがまま。
「………」
「やっぱり瞳のお色に合わせて緑よ!」
「なにいってるの?白に決まってるじゃない!」
「いいえ、ここはやっぱり赤ね!」
「わかってないわね、黒を着るからこそ肌の白さが際立つんだから!」
衣装が決まるのはまだまだ先になりそうだ。
メイド達の声は廊下にまで響いており、夕食の時間になりそろそろかとフィリアを呼びにきたルーク達は、声をかけるのは諦めよう、と扉から離れた。
今近づけば巻き込まれるのは確実である。
二人を案内していた執事は恥じ入るように目をそらした。
「家の者が申し訳ありません…」
「あぁ、いや、気にしないで大丈夫……たぶん」
「フィリアには先に行っていると伝えておいてくれ」
「かしこまりました。
それでは一足先にお二人をご案内させていただきます」
ガンバレ、と心のなかで無責任に応援して、二人は部屋から離れていった。
「おや、二人だけかの?」
夕食が用意されている部屋へ入ると、面白そうにグレイが声をかけてくる。
「貴方の仕業でしょう、グレイ殿」
「いやいや、確かにわしはフィリア嬢を磨けと言ったが、さすがにここまでとは思っておらんかったよ。
誠に、女はかしましいな」
話しながら席につく。
長方形の机の先――俗にいうお誕生日席である――にグレイ、そこからグレイに近い位置にルーク、その隣にバルドが座る。
二人の机を挟んだ反対側に空いている椅子が二つあり、片方にはフィリア、もう片方には恐らくグレイの孫が座るのだろう。
「すまんな、孫の方も支度に時間がかかっておるようで、まだ来んのだよ」
空席を見ていたのが分かったのだろう、グレイがルークに申し訳なさそうに声をかけてきた。
「いえ、僕達も急な訪問でしたから。
そういえば、お孫さんに会うのは初めてですね」
「そうじゃな、奴は引きこもりでのう。
なかなかこの街から出ようとせん。
その点では奴が客人と食事を共にする事は珍しい。
……フィリア嬢の準備が整ったようじゃな」
扉の側に控えた執事が、フィリアの到着を伝えた。
「お、終わった……」
「とてもお似合いですわ!」
「皆さんの驚く顔が楽しみですわね」
「私達も皆様の驚く顔が見られたらよかったのに」
キャッキャとざわめくメイド達をよそに、フィリアはこれでもかと飾り立てられた自分の姿を鏡で見る。
「変じゃないかしら」
こんな時だけフィリアの言葉を聞きとめたメイドが、まぁ、と呆れた目線を寄越した。
「私達、こんなに飾りがいのある方を初めて見ましたわ」
「フィリア様は私達の最高傑作ですのよ」
「心配せずとも、とてもお可愛らしく美しいですわ」
「まさに可憐という言葉がぴったりの出来栄えです」
「自信を持ってくださいませ」
口々に褒め称えられ、苦笑が漏れる。
「こういうときは、周りの反応を見せるのが一番ですわ!
さぁ、参りましょうフィリア様!」
意気込んだメイド達に促されるまま、フィリアは皆が待っている部屋へと向かった。
扉を開いて入ってきたのは、白いドレスを着た美しい少女だった。
漆黒の髪は結い上げられ、所々に南の特産である真珠が編み込まれている。
顔にはうっすらと化粧が施され、咲き初めの花を思わせた。
各所に薔薇が飾られた純白のドレスは体の線をハッキリとさせ、二の腕から指先までを覆う黒の手袋は肌の白さを際立たせている。
思わず、見惚れる。
静まり返った部屋に、拍手が響いた。
「よく似合っていますよ、フィリア」
その声の主は。
「……ロイ!?」
フィリアは目を見開いた。
彼はにっこりと笑ってフィリアに近づくと、跪いて手を取り口づけた。
ガタッとテーブルの方から何か物音が聞こえたが、ロイは意に介さずそのままフィリアを席までエスコートする。
フィリアの隣に座ったロイがルークとバルドに対して一礼した。
「初めまして。
グレイの孫の、ロイと申します。
以後、お見知りおきを」
「なんじゃお前、フィリア嬢と知り合いだったか」
「ええ、お祖父様。
街で彼女がお二人とはぐれているときにたまたま知り合いましてね。
ここまで案内したのですよ」
「あのときはありがとう、ロイ。
お礼を言いたかったのに、貴方突然いなくなるんだもの」
唇を尖らせたフィリアに、ロイが苦笑を返す。
「すみません。
後で会うことが分かったので、貴方を驚かせたいと思いまして」
「…確かに驚いたけど」
「なるほど、ロイはフィリア嬢を気に入ったようじゃな。
今回客人との食事に珍しく同席すると思ったら、そういうことか」
「ええ、私達は良い友人になれたのでね、フィリア」
「ええ」
「……ロイ殿は、どうしてフィリアとまた会うと?」
仲良さげな二人に、堪らずルークが口を挟んだ。
「ルーク様達がみえたので。
私は直接お会いしたことはありませんでしたが、話には聞いていましたのでね。
それと、私のことはロイで大丈夫ですよ」
「では、僕のこともルークと」
「さて、そろそろ食事にするとしよう。
給仕が今か今かと待ち構えておるでな」
グレイの言葉と共に、何処かピリピリとした緊張を孕んだ空気は解け、表面上は和やかに食事が始まった。
「ところでフィリア、後で私と二人で庭を散歩しませんか?」
「いいの?さっき部屋から見えて、気になってたの」
「勿論ですよ。その時に、約束していた森の話をして下さい」
フィリアは喜んで了承した。
フィリアとロイが話すほど、テーブルの一角からは禍々しい空気があふれ出てくるのだが、残念ながらその場にそれを宥める者はいない。
ロイは時折ルークの方をチラリと見てフッと笑い彼の怒りを増長させるし、グレイは孫の行動を面白そうに眺めるのみ。
バルドはやれやれとでも言うように傍観の態度をとり続け、フィリアに至ってはルークの態度に気づいてもいなかった。
そのようにして、ルークにとっては面白くない、他の面々にとってはこの上なく有意義な夕食の時間は過ぎて行ったのだった。




