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緑の柱  作者: 美羽
Ruby
21/182

Lord

領主の館の門には、見張りなのだろう屈強な兵士達がいた。

彼等はフィリア達を見ると、不審そうに睨み付けてくる。



「なんだ、お前達は」


「赤の族長殿に用があってな」


「…領主様は今日は誰ともお会いになる予定はないはずだ」


「この手紙を見せればわかる」



バルドが差し出した手紙を、怪しげに眺める。

しかしバルドの目線に負けたのか、彼は手紙をもって館のなかに消えていった。

しばらくすると慌てて門番が戻ってくる。



「失礼しましたっ!領主様がお会いになられるそうです。

案内しますので、中へどうぞ。」



先程とはうって変わった態度の門番にルークとバルドは苦笑いしながら、フィリアは首をかしげながら館へと入っていった。



「あの手紙、なんだったの?」



赤い絨毯が引かれた廊下を歩きつつ、門番に聞こえないようにこっそりとフィリアが問いかける。



「僕達が宝石を探してるってことを伝える手紙だよ」


「じゃあ急に敬語になったのは?」


「…あー、僕達は一応貴族だからね」


「貴族ってあの、王都に住んでる偉い人達?」


「そう。と言っても大して偉い訳でもないよ」


「確か貴族って一括りに言っても色々あるのよね?」


「お、よく覚えていたな。

その通りだ。

ちなみに俺の家は伯爵位を頂いている」


フィリアは旅の道すがら、バルドに常識を習っていた。

その内容を思い出しつつ口を開く。



「伯爵って、ちょうど真ん中よね?

結構バルドって偉いのね。

ルークの家は?」


「え、僕は、えーっと…」


「こちらです」



ルークが答えかけたとき、門番が立ち止まり扉を示した。

三人は顔を見合わせると、気持ちを切り替える。

門番が扉を開き、フィリア達は部屋の中へと向かった。


「ようこそ、砂漠の月へ」


三人を出迎えた領主は、白い髪に、琥珀色の瞳をもつ高齢の男性だった。



「年でな、座ったままで勘弁してくだされ。

いやはや、遠いところよくおいで下さったな、ルークおうた


「グレイ殿!僕はただの!貴族ですから!!」



領主――グレイの言葉を遮ってルークが叫んだ。

グレイは一瞬キョトンとして、フィリアの姿を認めると、納得したように頷いた。



「…あぁ、そうだな、ルーク殿。

バルド殿も、久しいな」


「前回の会議以来ですな。

お元気そうで何より」


「なに、わしも年には勝てんよ。

最近は立つことも難しい。

ときに、そちらのお嬢さんは初めて見る顔じゃな」



顔を向けられ、フィリアは姿勢を正した。

まるでこちらを見定めるような視線に、少したじろぐ。

自然に、体が動いた。



「お初に御目にかかります。

フィリア、と申します」



片足を引き、スカートの裾を片手で掴むと反対の手は胸にあてる。

そうして膝を曲げ、腰をおとして一礼すると、グレイだけでなくルーク達も目を見張った。



「…これは、これは。

わしはこの砂漠の月の領主、赤の族長がグレイと申す。

ゆっくりしていかれよ」



グレイの楽しげな返答に、フィリアは胸を撫で下ろした。

どうやらあの動きで正解だったようだ。

だが。


(―体が、勝手に動いた)


フィリアはあんな礼など今までしたこともない。

あれも、無くした記憶に関係があるのだろうか。

考え込むフィリアをよそに、男達は話を進めていった。



「グレイ殿、手紙にも書いたことだが――」


「あぁ、聞き及んでおるよ。

確かに最近、この街の近くに闇の者が現れ始めている。

特にこの街から少し西にむかったところにある遺跡に、一匹でかいのがいるらしくてな。

恐らくそこに、ルビーもあるのだろう」


「やはりか。

では、俺達にそちらは任せてくださるか?」


「勿論じゃ。

集めた人員は街の警備と砂漠に現れる方の討伐に回そう。

あまり人がいても邪魔であろうしな。

そうと決まれば、今宵はこの館に泊まっていかれよ」


「…いいのかい?」


「わしは孫と二人暮らしでのう。

召使いはいるが、やはり寂しいものでな。

退屈しておるのだよ。

老人の酔狂に付き合ってくれんか?」


「いや、感謝する。ありがとうグレイ殿」


「ハッハッハ。

ルーク殿にそう思って貰えれば重畳。

さ、部屋に案内させよう。

夕食までゆっくりしていって下され。

そちらの、フィリア嬢もな」


「え、あ、はい!」



声をかけられて慌てて返事をする。

グレイは何か企んでいるのか、ニヤリと笑った。



「楽しまれよ」



それに首を傾げつつ、現れたメイドに三人でついていく。



「フィリア、あの礼どこで覚えたの?」



部屋から出た瞬間、ルークが囁いた。



「俺も驚いたぞ。貴族の女がする最高礼だぞ、あれは」


「そうなの?なんだか、体が勝手に動いて。

私もよくわからないわ…」


「そんな顔するな。

これももしかしたら記憶の手懸かりになるかもしれんしな。

それに、これから出会う地位の高い人物にはあれをしておけば大丈夫だ。

よかったな、難癖つけられなくて」


「グレイ殿はこういった作法に厳しい方だからね。

気に入られてよかった」


「あれ、気に入られたの…?」



そうこう話しているうちに、部屋に着いたようだ。

メイドが立ち止まる。


「フィリア様はこちらへ」


「…私だけ?」


「はい、御召し替えをしていただきますので」



不安そうにルーク達を見つめるフィリアを、ルークはその頭を撫でて宥めた。



「大丈夫だよ。

怖いことはされないし、みんないい人だから」


「…うん」



しぶしぶ従って、フィリアは二人とは別の部屋へと入っていった。



「…大丈夫かな」


「お前が大丈夫と行ったんだろうが」


「いやぁ……ほら、ここの人達は…独特だからさ」



あぁ、とバルドも遠い目をした。



「そうだったな…」


「ルーク様、バルド様、お二方はこちらになります」



二人はまるで扉の向こうに敵がいるかのように、お互いに目を見交わした。

その様子を見てメイドが一言添える。



「…それと、僭越ながら今回はご自分でご用意をしていただくことになります」


「えっ?」



ルーク達の顔が一気に輝く。



「何しろお二方を越える逸材がいらっしゃいますので、私達メイド一同、そちらの準備にあたらせて頂きたいのです」


「………あぁ、フィリアか」


「はい!あんなに可愛らしい方のお世話ができるなんて、光栄ですわ。

それでは私はこれで」



心なしかキラキラしている彼女の背中を見送って、二人は呟く。



「フィリア……大変だね」


「あぁ…だが、助かったな」



うんうん頷いて、二人は部屋に入って行った。




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