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緑の柱  作者: 美羽
Ruby
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Lose sight

翌日、無事砂漠の月についた頃にはすでに時刻は昼を回っていた。



「昨日のオアシスよりももっと人が多い…」



フィリアが驚く。


砂漠の月は王国の南の中心地で、他の地方からも様々なものが集まる場所だ。

その為大通りなどは人の往来が激しく、簡単にはぐれてしまう。



「フィリア、はぐれないようにね」


「き、気をつけるわ」



少し疑わしそうである。



「さて、取り敢えず領主の館へと向かうか。

二人とも、行くぞ。

それとフィリア、あの一際大きな赤い屋根の建物が領主の館だから、もしもはぐれたらともかくあそこを目指せ」


「わかったわ」



フィリアが頷いたのを確認して、一行は歩を進めた。











「……で、やっぱりはぐれたか」



額に手を当てて、バルドが呟く。



「バルド、やっぱり探しに行った方が…」



隣に立つルークは心配そうに辺りを見回している。



「だから大丈夫だと言ってるだろうルーク。

お前、本当に過保護だな…

向こうにいたときはそんなことはなかったはずだが?」


「フィリアはこんなに人が多い場所に来たことないし、もしも変な男に絡まれてたら」


「…そんなに心配するなら手を繋げばよかったじゃないか。

聞いたぞ?

オアシスで繋いでいたんだろう?」


「何でそれを…」


「その場にいた者達がこぞって話してくれたが。

次からイチャつくなら周りを気をつけてやるんだな」


「別にそういう訳じゃないって!」


「そうかそうか、わかったわかった。

……ところでルーク、いつになったらフィリアに話すんだ?」



バルドの問いに、ルークが眉をよせる。



「僕達のこと?」


「と言うか、主にお前の方だな。

俺は別に問題はない」


「……本当のことを言って、距離を置かれたらって思うと、どうしてもね。

今までも仲良くなった人が離れていったことは、もう何度もあるし」


「…まあ、確かにな。

だが俺は、フィリアなら問題ないと思うがな」



ルークはその言葉に顔を上げた。



「何しろあの世間知らずだからな。

…それに、こういったことは早めに言っておいた方がいいぞ。

後々、後悔することになる」


「…そうだね。

でも今はまだ、ただのルークでいたいんだ」







一方そのころフィリアは。



「完璧にはぐれちゃった」



案外冷静だった。



「えーっと、赤い屋根の建物よね…」



キョロキョロと辺りを見回す。



「まぁ、真っ直ぐ行けば着くわよね」



そう言って、館とは逆方向に歩き出す。

森でなら彼女が迷うことは無いのだが、何故か街ではそうもいかないようだ。


取り敢えず真っ直ぐ道を突きみ、曲がり角に差し掛かったその時。




――ドンッ



「きゃっ!」



誰かにぶつかった。

衝撃に尻餅をつく。



「大丈夫ですか!?」


「あ、はい」



つい目の前の手をとって立ち上がる。

フィリアが手を離し顔をあげると、そこには一人の青年が立っていた。

赤みがかった金の髪に、琥珀色の瞳をもつ穏やかそうな彼は、にっこりと微笑んだ。



「申し訳ありません、急いでいたもので」


「いいえ、こちらこそごめんなさい。

仲間とはぐれてあせっていたから」



おや、と少し眉を上げた青年は、心配そうにフィリアを見つめた。



「それは大変だ。

この街は今人を多く集めていて、その分荒くれ者も多いんです。

女性の一人歩きは危険ですよ。

…どこか集合場所は決めているのですか?」


「えーっと、領主の館に」


「おや、奇遇ですね。

私もそこに行くところだったんですよ。

よろしければ一緒に行きませんか?」


「え、いいの…いいんですか?」



慌てて言い直したフィリアに、青年はクスリと笑った。



「そのままで構いませんよ。

私のこれは、癖のようなものですから。

では行きましょうか、お嬢さん」


「それじゃお言葉に甘えさせてもらうわ。

あ、私フィリアというの」


「私はロイと言います。

それでは、行きましょうかフィリア」



改めて差し出された手に、フィリアが首をかしげた。



「手を繋ぎましょう。

はぐれては元も子もありませんしね。

それに、貴女が向かおうとしていた方向は領主の館とは正反対ですよ」



クスクスと声を立てて笑ったロイに、フィリアは真っ赤になった。






「それじゃあロイは、この街に住んでるの?」


「えぇ、そうですよ。

生まれも育ちもこの街です。

フィリアは旅をしているんですか?」


「そうよ。

でもその前は森に住んでいたの」


「…森に、ですか?」



フィリアの返答が意外だったのか、ロイは軽く目を見開いた。



「ええ、案外住みやすいんだから」


「森ですか…この南の地は砂漠ばかりなので、見たことがないですね」


「そうなの!?」


「えぇ、少し事情がありまして、私はここから出たことが無いのですよ」


「ふぅん、でもこの街も素敵よね。

人がいっぱいいて、初めて見たときは驚いて気づかなかったけど、みんな楽しそうだわ。」



そう言ったフィリアに、今度こそロイは驚きを露にした。



「どうしたの?」


「貴女は、私を哀れまないのですか?」


「なぜ?」


「大抵の人は私がこの街から出た事がないと言うと、さもそれが可哀想な事だとでもいうように他の地の事を話すのですよ。

あそこがこう素晴らしい、そこが素敵だと。

そして最後にはここから出た事がないなんて退屈だろうと言う」



ロイは諦めたような顔をしていた。

それをじっと見て、フィリアが言う。



「ロイはこの街が大好きなのね」


「……ック、ハハハハハ!」


「え?え?」



急に腹を抱えて笑い出したロイにフィリアは慌てた。



「ククッ、フィリアは面白いですね」


「…私、変なこと言った?」


「いいえ、私は嬉しかったのですよ。

今度、貴女が過ごした森の話を聞かせてくださいね」



ロイは目尻に溜まった涙を拭い、柔らかく笑った。



「え?そんなの今話すわよ?」


「残念ながら、もう時間切れの様ですから。

さ、領主の館に着きましたよ」


「本当!」



嬉しくなってついつい手を離し走り出す。



「あ、ルークとバルド!

待っててくれたのね。

ロイ、本当にありが―――?」



フィリアが振り返ると、そこにロイの姿はなかった。

どこに行ったのだろうかと、探しているうちにルーク達が気づいたらしい。



「フィリア!

心配してたんだよ?」


「まさか行ったそばからはぐれるとはな」


「あ…ごめんなさい。

でも親切な人が案内してくれたの。

もう行ってしまったみたいだけど」



(ちゃんとお礼、言いたかったのに)




「親切な人がいてよかったね。

さ、館に入ろう」



ルークに促され、フィリアは後ろ髪を引かれつつ館に向かった。





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