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ツインムーン  作者: 共鳴
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第二話 事故は、まだ終わっていない

挿絵(By みてみん)

悲鳴は、一度に弾けなかった。


最初はただの雑音だった。

祭りの喧騒に紛れた、短くて鋭い音。


でも、それは空気を伝った。

見えない亀裂が、人混みの中を走った。


気づいたときには、もう前列が崩れていた。


一人が倒れる。

隣の人が傾く。

傾いた体が、次の人を巻き込む。


止められない。

手を伸ばす間もない。


華やかな灯りの下で、腕と脚が絡まった。

笑い声だった場所が、悲鳴に変わった。


「後ろへ下がれ。今すぐ」


人混みを裂くように、低い声が響いた。


大柄だった。

広い肩。

警察の制服。


表情がなかった。


感情を失ったのではない。

この場で感情を出すことを、とうに忘れた人間の顔だった。


彼はすでに人波の中へ入っていた。

倒れた子どもを、迷わず引き抜いた。


「怪我は。どこか痛いか」


子どもが泣き出した。


意識を確認した。

次の脅威へ、視線が動く。


「そこ。押すな。下がれ」


ハナは、動けなかった。


さっきまで頭の中にあった光景が、今、目の前で起きていた。


倒れる角度。

悲鳴の重なり方。

警察が飛び込むタイミング。


すべて、一致していた。


胃の底が、ねじれた。


――見えていた。

――わかっていた。

――なのに。


指一本、動かせなかった。


「ハナ」


冷たい手が、腕をつかんだ。


ナラだった。


「自分を責めるのは後で」


声は低かった。

でも、逃げられない響きがあった。


「今もまだ、誰かが危ない」


ハナは浅く息を吸った。


「……うん」


「あの警察、一人で抑えてる。私たちにしかできないことがある」


ナラはすでに、空気を読んでいた。


人が発する感情の波。

どこに次の圧力がかかるか。

どこで次に崩れるか。


眉間に、深い皺が刻まれた。


「右側の土手の端が危ない。あっちへ」


二人が動こうとした瞬間。

ナラが止まった。


「ハナ」


「何?」


「大きいのが来る」


声が、滲んだ。


「さっきとは違う。群衆の圧力じゃない。もっと……物理的な何かが点火される。熱くて、鋭い。凝縮されてきてる」


言葉が終わる前に。

ハナの視界に、映像が落ちてきた。


川風に、灯籠が揺れる。

大きく。

不自然に。


支柱が折れた。


和紙の薄い体が、弧を描いて落ちる。

仮設テントの上に。


炎が、空を裂いた。


今度の幻視は、鮮明すぎた。

炎の温度まで感じた。

布が焦げる匂いまで、した。


「火が出る」


ハナの唇が震えた。


「灯籠の方……火事になる」


その言葉が、警察の男に届いた。


近くで見た顔は、若かった。

でも目の下が深くえぐれていた。


長く現場に立ってきた人間の、疲労と集中が混在する顔。


「根拠は」


「ない。でも必ず起きる」


男は、ハナをまっすぐ見た。


短い沈黙。


目の中の恐怖が、嘘かどうかを見極めようとしていた。


ナラが一歩前に出た。


「今は証明を求めている時間はないと思いますが」


静かに、しかし確実に言った。


「外れたら、ただの騒ぎで済む。でも当たっていたら、人が助かる」


男の視線が、ナラへ向いた。


ナラは揺れなかった。


男が川の方を見た、その瞬間だった。


灯籠が、傾いた。

大きく。

弧を描いて。


テントの上に、落ちた。


炎が上がった。


「火事だ!」


誰かが叫んだ。


秋の乾いた風が、火を育てた。

テントの素材が、あっという間に燃えた。


人が逆方向へ、狂ったように流れ出した。


「全員下がれ! 炎から離れろ!」


男は、もう走っていた。


躊躇がなかった。

ためらいがなかった。


ただ、動いた。


ナラは立ったまま、群衆の感情を受け取っていた。


恐怖。

混乱。

絶望。


一つ一つではない。

全部が、一度に来た。


目を閉じなかった。


――慣れると決めたわけじゃない。

――ただ、耐えると決めた。


「左に圧力が集まってる。あの角に子どもたちが閉じ込められてる」


「私が行く」


ハナが動いた。


混乱は、大きくなった。


人が一方向へ流れるほど、密度が増した。

逃げるほど、危うくなった。


ナラはその波を正面から受けながら、目を開け続けた。


「ハナ」


隣に来た妹に、ナラは静かに言った。


「これ、偶然じゃない気がする」


「……わかってる」


ハナの口が、固く閉じた。


頭の中を走る断片が、すでにその答えを指していた。


誰かが、これを作った。


著:ジンファ・ジンギョン

(姉妹による共著)



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