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第二話 事故は、まだ終わっていない

ハナは人波をかき分けて走った。


肩がぶつかり、誰かの肘が脇腹をかすめる。

足元では、灯籠の影が砕けるように揺れていた。

川沿いの堤防に近づくほど、人の密度はさらに高くなっていく。


笑い声。


写真を撮ろうと呼びかける声。


子どもを呼ぶ声。


まだ、すべては祭りの喧騒の一部のように聞こえていた。


けれどハナの耳には、すでに別の音が重なっていた。


悲鳴。


倒れる体。


踏みつけられる手。


「すみません、通してください!」


ハナは人々の間に体をねじ込んだ。


そして、その瞬間。


悲鳴が上がった。


最初から一斉に爆発したわけではなかった。

群衆のざわめきに紛れた、短く鋭い声が一つ。


けれどその一つの破裂音は、恐ろしい速さで空気を伝って広がっていった。


人々が本能的に振り返ったときには、すでに列の前方が崩れ始めていた。


一人が、バランスを失う。


隣の人が傾く。


傾いた体が、さらに別の人を押し倒す。


それは、残酷な物理法則に支配されたドミノ倒しだった。

止める隙も、手を伸ばして支える時間もなかった。


華やかな灯籠の光の下で、人々の手足が絡まり合った。

ついさっきまで喜びに満ちていた祭りの会場は、一瞬にして阿鼻叫喚の場へと変わった。


ハナの足が、その場に縫いとめられたように止まった。


見た。


たしかに、見た。


それなのに、止められなかった。


頭の中で見た残酷な残像が、現実という鏡の上にそのまま重なっていく。

人々が倒れていく角度。

悲鳴が上がる方向。

群衆が押し流されていく流れまで。


ぞっとするほど同じだった。


胃の奥がねじれるような吐き気が込み上げた。


予言者が最初に覚える感覚は、神秘などではなかった。


無力感だった。


「ハナ!」


冷たい手が、ハナの腕をつかんだ。


ナラだった。


ナラの顔は青ざめていた。

それでも、その目だけは揺れていなかった。


「しっかりして。今ここで止まったら、もっと人が傷つく」


ハナは荒く息を吸い込んだ。


「私、見たのに……」


「後悔はあとでして」


ナラの声が、低く、強く突き刺さった。


「今この瞬間にも、もっと人が怪我をするかもしれない」


その言葉に、ハナの瞳が揺れた。


そして、焦点が戻った。


「……うん」


そのとき、混乱の中心を切り裂くような声が響いた。


「下がってください! これ以上押さないでください!」


低く、硬い声だった。


ハナは顔を上げた。


その混乱の中で、一人だけ後ろに下がらない男がいた。


警察官の制服を着た男だった。


群衆の上にそびえるような長身と、広い肩。

彼の顔には表情がなかった。


ただ感情が乏しい顔ではなかった。

阿鼻叫喚の現場で、自分の感情を外に出す方法を、ずっと前に畳んでしまった人のように見えた。


彼はすでに、人波の中へ身を投げていた。


倒れた子どもを真っ先に引き抜くように抱え上げると、子どもの目線に合わせて短く尋ねた。


「大丈夫か。どこか痛いところは?」


恐怖に震えた子どもの泣き声が弾けた。


子どもが息をしていることを確認したその瞬間、男の目つきが鋭く変わった。

安心する時間さえ惜しいとでもいうように、彼はすぐ次の危険へ視線を走らせた。


現場全体の流れを同時に計算する目。


冷たく、正確なレンズのような目だった。


「そこ! これ以上押すな!」


喉が裂けるほどの声で、彼が叫んだ。


「後ろへ下がれ!」


ナラは、群衆の感情の波を読み取っていた。


恐怖がどこから始まるのか。


どの方向へ押し流されているのか。


どこで再び爆発するのか。


目には見えない感情の水流が、ナラの体を荒々しく打ちつけていた。

彼女は乱れる呼吸を無理やり押さえ込み、堤防の端へ手を伸ばした。


「右端が危ない」


ナラが早口で言った。


「あっちに圧力が偏ってる。隅に子どもたちが閉じ込められてる」


「私が行く」


ハナが再び動こうとした、その瞬間だった。


ナラの体が、ぴたりと止まった。


彼女の顔が、これまでにないほど青白くこわばった。


「ハナ」


「どうしたの?」


「もっと大きいのが来る」


ナラの声が低く割れた。


「これはさっきと質が違う。ただの群衆圧迫じゃない」


ナラはゆっくりと顔を上げた。


「熱くて、鋭い。何かが物理的に点火するような感じがする」


その言葉が終わるより早く、ハナの視界の端で赤い光がにじんだ。


いや。


まだ、火ではなかった。


一つの灯籠が、風に揺れていた。


大きすぎるほどに。


危険すぎるほどに。


川風に押された灯籠が、不自然なほど大きく傾いた。

韓紙で作られた脆い灯りが支柱から外れ、空中で一度、ぐらりと傾く。


ハナは息を止めた。


頭の中に、新しい光景が刻み込まれた。


灯籠が、天幕の上に落ちる。


火がつく。


乾いた布を伝って、炎が広がる。


人々が炎から逃げようと、反対方向へ押し寄せる。


すでに倒れた人々の上へ、さらに多くの人が流れ込む。


「火だ」


ハナの唇が震えた。


「灯籠のほう……火が出る」


そのときだった。


人々を統制していた警察官の視線が、ハナを捉えた。


近くで向き合うと、その顔は若かった。

けれど目の下には、深い疲労が刻まれていた。

長く現場を見てきた者だけが持つ集中力と疲れが、同時に宿っている顔だった。


彼が尋ねた。


「そう言う根拠は何ですか」


「根拠なんてありません」


ハナは息を切らしたまま言った。


「でも、必ず起きます」


警察官はハナをまっすぐに見据えた。


ごく短い沈黙が、二人の間に落ちた。

彼は、ハナの瞳に宿る恐怖が嘘かどうかを読み取ろうとしているようだった。


ナラが一歩前に出た。


「警察の方」


落ち着いているが、断固とした声だった。


「この緊迫した状況で、証明を求めている時間はないと思います」


警察官の視線がナラへ向かった。


ナラは引かなかった。


「私たちの言葉が間違っていたなら、ただ一度、変なことを聞いたと思えばいい。でも、もし当たっていたら、人を救えます」


その瞬間、川風が強く吹いた。


警察官は反射的に顔を向けた。


ハナの予言どおり、一つの灯籠が強い風にあおられ、大きく揺れた。

支柱の折れた灯りが、弧を描くように乾いた天幕の上へ落ちていく。


警察官の目が変わった。


「全員、下がれ!」


彼が叫んだ。


「天幕の周辺を空けろ!」


だが、叫びよりも火のほうが早かった。


「火事だ!」


群衆の中から、誰かが悲鳴を上げた。


炎が広がる速度は、想像を超えていた。

乾いた秋風と燃えやすい天幕の布が合わさり、小さな火種は瞬く間に巨大な火柱へと変わった。


炎が噴き上がる。


人々は今度、火から逃れようと反対方向へ狂ったように押し寄せ始めた。


「後ろへ下がってください!」


警察官が再び叫んだ。


「火の出たほうから離れろ!」


彼はもう迷わなかった。


そのまま火の始まった場所へ向かって飛び込んだ。


ハナは奥歯を噛みしめて動いた。


幻視の中では、もっと多くの人が倒れていた。


けれど今は、まだ違う。


まだ変えられる。


「左!」


ナラが叫んだ。


「左に圧力が集まってる。あの隅!」


ナラの言葉が終わるより先に、ハナは方向を変えた。


人波の間に閉じ込められた子どもが二人、見えた。

恐怖で泣くことすらできず、大人たちの足の間で小さくうずくまっている。


ハナは身を低くした。


「手を出して!」


一人の子どもが震える手を差し出した。


ハナはその手をつかみ、引き寄せた。

もう一人の子どもは、ナラが抱き寄せるようにして引き抜いた。


その瞬間、背後でまた群衆が大きく揺れた。


ハナの背中へ、誰かの体が押し寄せてくる。


「ハナ!」


ナラが叫んだ。


ハナは反射的に体をひねった。

ついさっきまで自分が立っていた場所へ、人々がなだれ込んだ。


紙一重だった。


本当に、一瞬の差だった。


ハナは荒く息を吐いた。


警察官は、その一連の動きを遠くから一つも見逃さずに見ていた。


さっきの警告。


続いて起きた火災。


人々が押し寄せる場所を読み取ったナラ。


まるで初めから知っていたかのように動いたハナ。


彼の目が冷たく沈んだ。


これは、ただの勘ではない。


そう片づけるには、あまりにも正確すぎた。


消火器を持ったスタッフや警察官たちが、天幕のほうへ走っていく。

誰かが消火器を噴射し、誰かが人々を規制線の外へ押し戻した。


祭りの会場は、もはや祭りではなかった。


光はまだ美しかった。

けれど、その美しさの下で、人々は泣いていた。


ナラはハナの隣に立ち、呼吸を整えることさえできずにいた。


群衆が吐き出す恐怖の波が、彼女の体の内側を何度も引っかいていく。

それでもナラは、目を閉じなかった。


まるでこの地獄のような光景に慣れると決めた人のように。

いや、必ず耐え抜くと決めた人のように。


「ハナ」


ナラが低く言った。


「これ……ただの偶然じゃない気がする」


ハナは答えられなかった。


すでに頭の中をかすめていった無数の断片が、その冷たい可能性を指し示していた。


ナラの声が、さらに低くなった。


「誰かが、意図的に起こした事故みたい」


その言葉が終わった瞬間、ハナの視界の端で、また別の光が弾けた。


今度は、赤い光ではなかった。


青白く、鋭い光。


肌を裂くような音。


床を這う電線。


悲鳴を上げながら倒れる通行人。


ハナは息を呑んだ。


まだ終わっていない。


今度は、火ではなかった。


電気だった。


著:ジンファ・ジンギョン

(姉妹による共著)


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