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ツインムーン  作者: 共鳴
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第1話 南江に浮かぶ二つの月

挿絵(By みてみん)


晋州の夜は、灯りでできていた。


青い絹を敷いたような川面に、無数の灯籠が流れていく。


蓮の花。

月を抱いた魚。

長い尾を揺らす龍。

子どもの手のひらほどの、小さな星の灯籠。


和紙の薄い皮膚の奥で、炎がゆらりと息をしている。


色とりどりの光の中に、願いが滲んでいた。

整った文字。

歪んだ文字。

どちらも、等しく揺れていた。


十月の夜風は冷えているはずだった。

なのに、空気は重かった。

人の熱が、川面にまで降りてきていた。


祭りは、頂点に向かっていた。


その中心に、ハナとナラが立っていた。


二人は、同じ日に、同じ時刻に生まれた双子の姉妹だった。


同じ目元。同じ唇の形。

考え込むとき、少し眉を寄せる癖さえ、そっくりだった。


それでも、少し注意して見れば、誰でも気づく。

二人は、まとう空気がまるで違っていた。


妹のハナは、ジーンズに白いTシャツ。

軽い格好なのに、その存在感には刃がある。

人混みの中でも、彼女の視線だけが止まらなかった。


探しているのではない。

――もう知っている者の目だった。


姉のナラは、清楚なブラウスにロングスカート。

川を見つめたまま、動かない。


ぼんやりしているように見えた。

でも、それは違う。


ナラはこの場所の感情を、すべて受け取っていた。

歓声。期待。苛立ち。不安。

それらが空気の奥で、静かに絡まり合っている。


同じ顔をした二人が、まったく違う空気をまとっている。

その姿は、華やかな祭りの中で、どこか異質に見えた。


「わあ……思ったより多い」


ハナが小さく息を吐いた。


しばらく、二人は人の波を見つめていた。


「……変」


ナラが、ぽつりと言った。


「何が?」


ハナがすぐに顔を向けた。


「人たちのこと」


ナラの視線が、ゆっくりと人の波をなぞる。


子どもをあやす母親。

笑いながら写真を撮るカップル。

屋台の前で騒ぐ学生たち。


どこを見ても、平和で、完璧な祭りの一場面だった。


「普通に見えるけど。いつもと何も変わらないじゃない」


ハナは眉をひそめ、もう一度、人の波を見渡した。


けれど、ナラは静かに首を横に振った。


「表面は、ね」


ナラは静かに続けた。


「でも、その下が違う。底のほうから、何かがせり上がってきてる。まとわりつくような、暗い不安」


ナラの声が、わずかに震えた。


「誰か一人の感情じゃない。この中にいる何万人もの人たちの、小さな感情が、少しずつ絡まり合って、大きな塊になってる」


ナラはゆっくりと息を吸った。


「この場所、もう限界に近い」


ハナの表情が変わった。


「どれくらい深刻なの?」


ナラは目を閉じた。

ほんの、一瞬。


「……息が、苦しい」


その言葉と同時だった。


ハナの視界が、歪んだ。


灯りが赤く染まる。

誰かが、倒れる。

悲鳴。

押し寄せる人の波。

また一人。

また一人。

止まらない。


踏みつけられる手。

重なる身体。

炎。

煙。


息が、できない。


――まだ、起きていないはずだった。


なのに。

あまりにも、鮮明だった。


ハナの指先が、冷たくなる。


「ナラ」


「うん」


「今、見えた」


ナラが顔を上げる。

ハナの瞳が、揺れていた。


「人が倒れる。転ぶんじゃない」


短く、切り出す。


「連鎖して、押し潰される」


一瞬、息を止める。


「火も見えた」


静かに、言い切る。


「どれくらい時間が残ってるかはわからない。でも、もうすぐ起きる」


ナラの視線が、再び人混みへ向いた。


見えない不安の濃度を測るように。

恐怖の重さを量るように。

ナラの目が鋭く光った。


「すぐではないと思う。感情が物理的な爆発に変わるまでには、少しだけ時間がある」


ナラは低く言った。


「でも、私たちに残された時間は多くない」


「どこ?」


ハナが鋭く問い返した。


「どこが始まりなの?」


ナラが右へ顔を向けた。


川沿いの土手。

急な階段。

よりよい場所を取ろうと、人々が肩を押し合いながら、最も密集している場所。


「あそこ」


言葉が終わるより早く、ハナは走り出していた。


人波を切り裂くように。


悲劇を止めるための時間は、もうすでに、始まっていた。


著:ジンファ・ジンギョン

(姉妹による共著)


※本作はnote「創作大賞2026」応募作品としても掲載しています。

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