第1話 南江に浮かぶ二つの月
人々が、倒れていた。
最初は、たった一人だった。
誰かの肩がぐらりと傾き、その体に、隣にいた人が巻き込まれた。
傾いた体はさらに別の人を押し倒し、その上に、また誰かの膝が崩れ落ちた。
悲鳴が上がった。
一度弾けた悲鳴は、瞬く間に広がっていった。
楽しかったはずの祭りのざわめきが裂け、人々の顔から笑みが消える。
ドミノのように。
いや、大きな波にさらわれる砂の城のように。
人の上に、人が幾重にも重なっていった。
倒れた誰かの手の甲を、別の誰かの足が容赦なく踏みつけていく。
「押さないで!」
「人が倒れています!」
誰かが泣き叫んだ。
赤い灯籠の光が、血の色のように滲んだ。
川面で美しく揺れていた光たちが、一瞬にして不吉な兆しのように震え始める。
次の瞬間、天幕に火がついた。
真っ赤な炎が空気を裂くように噴き上がり、焦げた煙が肺を刺した。
子どもの泣き声。
大人たちの怒号。
足元で押しつぶされる人々の、切羽詰まった呻き声。
すべてが一度に絡まり合った。
ハナは、息ができなかった。
指先が、氷のように冷たくなっていく。
そして、次の瞬間。
すべてが消えた。
悲鳴も。
炎も。
崩れ落ちていく人々の体も。
ハナの目の前には、再び穏やかな祭りの風景が広がっていた。
青い絹を敷いたような晋州の南江に、数え切れないほどの灯籠が浮かんでいた。
韓紙で丁寧に作られた蓮の花。
優美な姿で十本の指に指輪をはめた論介。
鋭い錐で倭敵を威嚇する亀甲船。
色とりどりの灯籠には、端正に、あるいは少し不器用な文字で願いごとが書かれていた。
それらは揺れる灯りに合わせて、明滅を繰り返している。
十月の冷たい夜風が川面を渡って吹いてきた。
けれど、押し寄せた人波が放つ奇妙な熱気のせいで、空気はむしろ蒸し暑く沈んでいた。
祭りは、まさにその華やかな頂点へ向かっていた。
まだ、何も起きていない。
人々は笑っていた。
綿菓子を持った子どもが、母親の手を握って駆けていく。
恋人たちは自撮り棒を掲げ、川に浮かぶ灯籠を背景に写真を撮っていた。
屋台の食べ物を手にした学生たちは、何事もない夜のように笑い合っている。
あまりにも平和だった。
だからこそ、恐ろしかった。
ハナは硬い表情で群衆を見つめた。
さっき見た光景が、まだ瞼の裏にはっきりと残っている。
人々の体が崩れていく角度。
悲鳴が上がった方角。
火が燃え移った天幕の位置まで。
まだ起きていない出来事だった。
けれどハナにとって、それはもう起きてしまったことのように生々しかった。
「ハナ」
隣から、低い声がした。
ハナはゆっくりと顔を向けた。
ナラだった。
二人は、同じ日の同じ時刻に生まれた双子の姉妹だった。
一見すれば、同じ目元、同じ唇の形。
考え込むときに眉間を寄せる小さな癖まで、まるで写し取ったようによく似ていた。
けれど、ほんの少し注意深く見れば、誰にでもわかる。
二人が、まったく違う空気をまとっていることに。
妹のハナが、軽いジーンズに白いTシャツという姿で、人混みの中を鋭く切り込んでいく炎のような印象を与えるのだとしたら。
姉のナラは、きちんとしたブラウスとロングスカートを身につけ、その後ろで音もなく揺れる影のような雰囲気をまとっていた。
ハナは、目が速すぎた。
ざっくりと結い上げた髪の数本が耳元に乱れても気にせず、彼女の視線は休むことなく群衆の中を走っていた。
何かを探している者の目だった。
いや。
何かが、もうすぐ来ることを知っている者の目だった。
一方で、ナラの目は川へ向けられたまま、微動だにしなかった。
何も見ていないようにぼんやりとして見えた。
けれど、実際は正反対だった。
ナラは、この空間に満ちるすべての感情を、濾過することなく受け止めていた。
喜び。
高揚。
期待。
そして、その底にごく薄く敷かれた不安。
その不安は、最初は埃のように微かなものだった。
けれど、数え切れないほどの人々の間で、少しずつ、少しずつ絡まり合っている。
祭りの華やかな喧騒の下で、目に見えない黒い塊がゆっくりと膨れ上がっていくようだった。
ナラは胸元を手で押さえた。
「何か……変」
彼女の声が、冷たく沈んだ。
ハナがすぐに尋ねた。
「あなたも感じたの?」
「人たちのこと」
ナラの視線が、ゆっくりと群衆をなぞっていく。
「表面は普通なの。みんな笑って、喋って、祭りを楽しんでいる。でも、その底から何かが湧き上がってきてる」
ナラは短く息を吸った。
「粘ついていて、暗い不安。一人のものじゃない。この大勢の人たちの間で、ほんの微かに生まれた感情が絡まり合って、巨大な塊になっているの」
ハナは答えられなかった。
ナラの言葉が、さっき自分が見た光景とぴたりと重なっていた。
「この空間全体が、限界点に近づいてる」
ナラの声がかすかに震えた。
彼女は今、この祭りの喧騒の下に敷かれた、巨大な恐怖の前触れを全身で受け止めていた。
「どれくらいまずいの?」
「息が……」
ナラは唇を強く結んだ。
「息が詰まりそう」
短い沈黙が、二人の間を横切った。
ハナは再び群衆へ視線を投げた。
さっきの幻視の中で、最初に崩れた場所。
狭い川沿いの堤防と、急な階段が交わるあたりだった。
少しでもいい場所を取ろうと、人々が肩で押し合い、そこだけ異様なほど密集している。
まだ、笑い声が聞こえていた。
まだ、誰も危険に気づいていない。
その平和さが、かえって心臓を締めつけた。
「ナラ」
「うん」
「私、今……見た」
ナラがゆっくりとハナを見た。
ハナの瞳が、恐怖でかすかに揺れていた。
「何が見えたの?」
「人が倒れる」
ハナは乾いた喉を鳴らした。
「ただ転ぶとか、そういう程度じゃない。連鎖的に押しつぶされていく。それに、火が見える。天幕のほうへ燃え広がる火」
ナラの顔がこわばった。
「どれくらい時間が残ってる?」
「わからない」
ハナは指先を握りしめた。
「でも、すぐだよ。すぐに来る」
ナラはもう一度、群衆を見た。
見えない不安の密度を測るように。
恐怖の重さを量るように。
彼女の目が鋭く光った。
「ものすごく早いわけじゃない。感情が物理的な爆発につながるまでには、少し時間が必要だから」
ナラはゆっくりと顔を向けた。
「でも、私たちに残された時間は多くない」
「どっち?」
ハナが尋ねた。
「どこが始まりなの?」
ナラは右を見た。
狭い堤防と階段が重なる場所。
人々がもっとも密集している場所。
「あそこ」
ナラが低く言った。
「あそこが一番濃い」
その言葉を聞いた瞬間、ハナの網膜に再び赤い光が走った。
倒れていく人々。
踏みつけられる手。
天幕を伝って燃え広がる炎。
まだ起きていない災厄が、すでに彼女の中で現実のように燃えていた。
ハナは奥歯を噛みしめた。
今度は、ただ見ているだけではいない。
ナラの言葉が終わるよりも早く、ハナの体は人波を切り裂くように飛び出していた。
ナラもその後を追った。
二人の前で、祭りの灯りは相変わらず美しく揺れていた。
そして、その美しい光の下で。
悲劇は、もう始まっていた。
著:ジンファ・ジンギョン
(姉妹による共著)




