表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/21

第十四話 残された手がかり

けたたましいサイレンの音とともに、一台のパトカーが中央洞のビルの前で止まった。

ウー、ウー。

音は路地の間を切り裂くように響いた。

まるで何か大きな事件でも起きたかのように、あまりにも切迫した音だった。

通りを歩いていた人々が、一人、また一人と足を緩めた。

好奇心を隠せない顔でパトカーを見つめる者もいれば、振り返って小声で何かを囁く者もいた。

車のドアが開き、ジュンが降りてきた。

がっしりとした体つき。

迷いのない歩き方。

風に制服の裾がわずかに揺れる姿は、まるで映画のスローモーションの一場面のように、強い印象を残した。

その姿を見た瞬間、ハナの胸が小さく跳ねた。

けれどすぐに、何でもないふりをして腕を組んだ。

「そんな音を鳴らして来たら、隠れてた犯人たちもみんな逃げちゃいますよ」

口調は不満げだったが、その顔にはほんの少しだけ、安堵が滲んでいた。

ジュンはハナを見て、かすかに笑った。

「怖くて待っていたわけではないんですか?」

「何言ってるんですか」

ハナはわざと視線をそらした。

「待ちくたびれて首が伸びるかと思っただけです。早く入りましょう」

二人の様子を見ていたジヌとナラが、そっと視線を交わした。

同時に、妙な笑みが浮かぶ。

「何かありますね」

ジヌが低く言った。

ナラも静かにうなずいた。

「うん」

二人は、それ以上は何も言わなかった。

ジュンはその視線に気づかないふりをして、ジヌを見た。

その目には、はっきりとした警戒が宿っていた。

「あなたは、なぜここに?」

ジヌは気まずそうに笑った。

「あ、はは。僕の撮影分は終わったんですが、相手役の撮影が終わるまで待機中だったんです」

彼は背後の高層ビルを指さした。

「偶然、僕の優秀なレーダー網に引っかかった人たちがいまして。どうにも気になりまして」

ジュンの表情は、まだ固いままだった。

ジヌは少しでも空気を和らげようとするように、わざと軽く付け加えた。

「その人たち、書類とかハードウェアの入った箱を持って出ていったんです。ノートパソコンやタブレット、外付けハードディスクみたいなものもあって。なのに、なぜか僕のレーダーがずっと警告音を鳴らしていて……あはは」

ハナがジヌをちらりと見た。

「レーダー網って何ですか」

ジヌは照れくさそうに肩をすくめた。

「説明しやすい表現なので」

だが、ジュンは笑わなかった。

彼はジヌをしばらく見つめ、それから冷たく言った。

「状況証拠だけで、確かな物証はないということですね」

「そうではありますが……」

「まずは管理室へ行きます」

ジュンがビルの入口へ体を向けた。

「CCTVを確認しましょう」

四人はすぐにビルの管理室へ向かった。

管理人は突然の警察の訪問に慌てたが、ジュンが身分証を見せると、すぐにCCTVの映像を開いてくれた。

狭い管理室の中。

古びたモニターが何台も、壁いっぱいに並んでいた。

ジュン、ハナ、ナラ、ジヌは息を殺し、画面を見つめた。

ジヌが話していた時間帯。

エレベーター内部の映像が再生された。

画面の中の数字は、十階で止まっていた。

しばらくして、扉が開いた。

男たちが乗り込んできた。

一人は書類でいっぱいの箱を抱えていた。

もう一人は、ノートパソコンとタブレット、外付けハードディスクが入った黒い箱を持っていた。

残りの二人は、周囲を警戒するように低く視線を動かしていた。

ジヌが低く言った。

「あの人たちです」

その声から、いつもの余裕は消えていた。

「僕が見た人たちです」

ジュンは画面から目を離さなかった。

男たちはエレベーターの中で、うつむいたまま立っていた。

誰も何も言わなかった。

だが、その沈黙がかえって不自然だった。

そのときだった。

ジュンの目が鋭く光った。

「待ってください」

管理人が映像を止めた。

ジュンがモニターへ一歩近づいた。

「そこを拡大してください」

「どちらですか?」

「箱の側面です」

ジュンの声が低くなった。

「ラベルのところを」

管理人が画面を拡大した。

ぼやけていた文字が、少しずつ大きくなる。

小さな配送ラベル。

そこに書かれた文字の一部が、画面に映った。

ジンソン繊維 第二倉庫。

管理室の空気が、一瞬で凍りついた。

ハナが短く息を呑んだ。

「ジンソン繊維……?」

ジュンは無言で携帯を取り出した。

キム・ドヒョンの供述記録を確認する。

晋州郊外。

廃工場。

かつての名前。

ジンソン繊維。

すべての欠片が、一つに重なった。

ジュンは短く言った。

「間違いない」

彼の視線が、再びCCTVの画面へ戻った。

画面の中の男たちは、一階で降り、ビルの外へ消えていった。

その動きに迷いはなかった。

まるで、消える時間があらかじめ決められていた者たちのようだった。

ジュンはすぐに無線を手に取った。

「十階へ上がる」

短い指示だった。

四人はエレベーターに乗り、十階へ向かった。

エレベーターの中は静かだった。

誰も、簡単には口を開けなかった。

ジヌは目を閉じていた。

ナラが彼を見た。

「大丈夫ですか?」

ジヌは少ししてから目を開けた。

「少しはましです」

「建物の外では、大丈夫そうに見えましたけど」

「はい」

ジヌはゆっくりとうなずいた。

「でも、また上がってくると……聞こえます」

ハナが眉をひそめた。

「どんな音ですか?」

「低くて、不快な音です」

ジヌは十階のボタンの上に浮かぶ数字を見つめた。

「まるで、この階全体が空っぽなのに、まだ誰かの意図だけが残っているような」

ナラの顔がこわばった。

彼女も感じていた。

人の感情と呼ぶにはあまりにも冷たく、空間の残響と呼ぶにはあまりにも精密な何か。

チン。

エレベーターが十階で止まった。

扉が開いた瞬間、冷たい空気が流れ込んできた。

廊下は暗かった。

いくつかの蛍光灯が、かすかに明滅している。

奥の事務所の扉が、一つだけ少し開いていた。

ジュンは慎重に片手を上げた。

「後ろにいてください」

ハナが小さく呟いた。

「また一人で格好つけて」

ジュンは振り返りもせずに言った。

「指示です」

ハナは口を閉じた。

ジュンは扉を押した。

きい、と音が鳴った。

扉に鍵はかかっていなかった。

中はすでに、空っぽだった。

十階の空気は、ぞっとするほど重かった。

深い山の中の暗い洞窟。

天井にぶら下がった何百匹もの蝙蝠が、赤い目で見下ろしているような感覚。

空気そのものが湿っていて、不快だった。

机も、コンピューターも、書類棚もなかった。

それでも、誰かが急いで撤収した痕跡は、あちこちに残されていた。

床に乱雑に捨てられた吸い殻。

破れた書類の切れ端。

食べかけのカップ麺の容器。

倒れた椅子。

急いで引き抜かれたように垂れたLANケーブル。

床には、埃が押しのけられた跡が長く伸びていた。

机を引きずって運び出した車輪の跡。

壁に貼られていた何かを、慌てて剥がした跡。

電源タップから、一斉にプラグを抜いた跡。

空間は空っぽなのに、奇妙なほど乱れていた。

あまりにも急いで空けられた部屋だった。

「慌てて出たようですね」

ジュンが低く呟いた。

四人は散らばり、手がかりを探し始めた。

ジュンは机や引き出しがあった場所の周辺を調べ、ハナは壁際とキャビネットを確認した。

ジヌは隅々に残された物を見て回り、ナラは静かに、この空間に残る残響へ意識を向けた。

そのとき、ジュンが床に落ちていた小さなプラスチック片を拾い上げた。

結束バンドの切れ端だった。

電気設備の現場で見かけるものと、似た材質だった。

「これも回収してください」

後から上がってきた警察官に短く指示してから、ジュンは再び事務所の奥へ進んだ。

そのとき、ハナが足元を見下ろした。

「待って」

彼女が身をかがめた。

床に、破れた印刷物の端が落ちていた。

ハナはそれを慎重に拾い、ジュンへ渡した。

ジュンは紙を広げた。

半分ほど破れていたが、いくつかの文字は残っていた。

晋州 ○○工団。

倉庫棟 C-3。

そして、紙の端。

かすかに残った文字。

ジンソン繊維。

短い沈黙。

ハナが低く呟いた。

「やっぱり、廃工場とこの建物は……」

ジュンが言葉を継いだ。

「つながっている、ということですね」

その瞬間、ジヌが隅のゴミ箱を探っていた手を止めた。

「刑事さん」

ジュンが振り返った。

ジヌの手には、黒いUSBメモリが握られていた。

表面には何の印もなかった。

だが、誰かが慌てて捨てた痕跡は明らかだった。

ジュンはUSBを受け取り、ゆっくりと確認した。

「鑑識に回します」

そのとき。

ナラが突然、目を閉じた。

冷たい空気の中に残っていた、かすかな感情の残響が彼女をかすめた。

不安。

焦り。

そして、逃げなければならないという強迫観念。

ナラの体が、かすかに震えた。

ハナが心配そうに声をかけた。

「姉さん?」

ナラは答えられなかった。

この部屋に残された感情が、ごく短い映像となって、彼女の内側へ押し寄せていた。

それは未来ではなかった。

すでに過ぎ去った痕跡だった。

急いで畳まれる書類。

引きずり出される机。

慌ただしく抜かれるLANケーブル。

誰かの荒い息。

そして、その残響の果てに、別の場所の匂いが混じっていた。

錆びた鉄扉。

鉄の匂い。

油の匂い。

広く、暗い空間。

廃工場。

ナラはゆっくりと目を開けた。

「廃工場だ」

全員の視線が、ナラへ向いた。

ハナが尋ねた。

「何が見えたの?」

ナラは少し息を整えてから言った。

「見えたというより……残ってる」

彼女の声は低かった。

「この部屋にいた人たちが急いで去るときに残した痕跡。感情と記憶が絡み合って、その場所の残響まで、ここに染みついてる」

ジュンの目が鋭くなった。

「その場所が、廃工場ということですか?」

ナラはゆっくりとうなずいた。

「はい。鉄の匂いと、油の匂いがしました。錆びた扉も見えました」

彼女はもう一度、空っぽの事務所を見つめた。

「ここにいた人たちは、その場所とつながっています」

ジュンは手にしたUSBと、破れた印刷物を交互に見た。

少しずつ、パズルが組み上がっていく。

ジヌが低く尋ねた。

「僕たちは、遅かったんでしょうか」

ジュンは首を横に振った。

「いいえ」

その目が、冷たく沈んだ。

「奴らも、急いで動いたようです」

ジュンはすぐに無線を手に取った。

「ジュンヒョク」

しばらくして、無線の向こうからジュンヒョクの声が聞こえた。

――はい。チーム長。

「晋州郊外の廃工場の位置を全部確認しろ」


――廃工場ですか?

「特に工団の周辺だ」


ジュンは破れた紙片をもう一度見下ろした。

「倉庫棟 C-3がある場所から当たれ」

少しの沈黙が流れた。

――わかりました。

ジュンヒョクの声にも、緊張が滲んでいた。

ジュンは無線を切り、三人を見た。

「今度こそ、本物かもしれません」

ハナがにやりと笑った。

「やっと尻尾をつかんだね」

けれど、ナラだけは窓の外を見つめていた。

胸の奥が、妙に締めつけられていた。

嫌な予感がした。

まるで誰かが、自分たちを見ているような気がした。

まるで誰かが。

彼らが来るのを、待っているように。

そのとき。

ジュンの携帯が鳴った。

発信者はジュンヒョクだった。

ジュンはすぐに電話に出た。

「話せ」

少しして。

ジュンの表情が、一瞬でこわばった。

「何だと?」

三人の顔も、同時に固まった。

ジュンは電話を切り、ゆっくりと口を開いた。

「廃工場の位置が確認されました」

「キム・ドヒョンが話した場所で間違いありません」

ハナが尋ねた。

「じゃあ、すぐに向かうんですか?」

ジュンは窓の外を見ながら、低く言った。

「いいえ」

「まずは突入班の支援を要請します」

ハナの表情がこわばった。

ジュンは続けた。

「奴らが、ただの犯罪者ではない可能性が高い」

短い沈黙が流れた。

中央洞の古い通りは、何事もなかったかのように静かだった。

けれど、その静けさが、かえって不吉だった。

ジュンはもう一度言った。

「今回の作戦は」

その声は低く、硬かった。

「失敗できません」

窓の外では、闇が少しずつ降り始めていた。

そして、晋州の郊外。

廃墟となった工場地帯のどこかでも。

誰かが、彼らを待っていた。





著:ジンファ・ジンギョン

(姉妹による共著)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ