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第十一話 閉ざされた口

警察署の中。


取調室のあちこちから、警察官たちの硬く重い声が響いていた。


キーボードを叩く音と、書類をめくる音が、冷たい空気を満たしている。


ジュンヒョクは取調室の中で、犯人を睨みつけていた。


「ずっとそのつもりですか?」


威圧的な声だった。


だが犯人は、うつむいたまま何も言わなかった。


まるで、魂だけが抜け落ちた人間のように。


ジュンヒョクは苛立ちをこらえきれず、手のひらで机を叩いた。


バンッ!


「このまま黙っていれば、あんたたちの刑が重くなるだけだ」


それでも犯人は、微動だにしなかった。


まぶたさえ、ろくに動かさない。


怒っているわけでもない。


怯えているわけでもない。


彼はただ、何もしなかった。


まるで、世界とつながっていたすべての糸を、自分の手で断ち切ってしまった人間のように。


ジュンヒョクは深いため息をつき、取調室を出た。


廊下の窓辺に寄りかかり、外を見下ろす。


そのとき、ジュンが近づいてきて、紙コップのコーヒーを一つ差し出した。


「進展なしだな?」


ジュンヒョクは苦く笑い、うなずいた。


「全員、口を閉ざしています」


彼は紙コップを受け取ったが、飲もうとはしなかった。


「弁護士も呼ばない。弁明もしない」


ジュンヒョクは取調室の扉のほうを振り返った。


「ただ……何もしません」


ジュンはしばらく考え込んだ。


今回の事件の犯人たちは、どこかおかしかった。


普通の犯罪者なら、言い訳くらいはする。


逃げ道を探すか、刑を軽くする方法を計算するか、少なくとも自分がなぜそんなことをしたのかを語ろうとする。


だが、彼らは違った。


捕まった瞬間から、すでにすべてを諦めた人間のように振る舞っていた。


恐れもしない。


後悔もしない。


生きたいとも思っていない。


ジュンは窓の外を見た。


曇ったガラスの向こうに、警察署の向かいにあるカフェの看板が見えた。


その瞬間、彼の目がふと揺れた。


昨夜、撮影現場の裏通路で、ハナを押しのけた瞬間がよみがえった。


閃いた刃。


ケーブルに足を取られ、後ろへ倒れかけたハナの体。


考えるより先に動いていた自分の体。


そして腕をかすめていった、冷たい痛み。


ジュンは無意識に、傷ついた腕を見下ろした。


傷は深くなかった。


だが奇妙なことに、あの瞬間の感覚は、まだ指先に残っていた。


ハナが目の前で傷つきかけた。


その事実が、事件の記録よりも鮮明に残っていた。


ジュンは指をゆっくりと握り、また開いた。


ジュンヒョクが不思議そうに尋ねた。


「チーム長?」


ジュンはポケットから携帯電話を取り出した。


「誰に電話するんですか?」


ジュンは短く答えた。


「少し、助けを借りる」


呼び出し音が鳴った。


しばらくして。


「はい。ジュンです」


短い沈黙。


「お二人とも、今お時間はありますか?」


また沈黙。


「警察署の向かいのカフェで、少しお会いできますか?」


電話を切ったジュンは、窓の外を見た。


ジュンヒョクは彼をじっと見つめていた。


「あの双子の姉妹ですか?」


ジュンは答えなかった。


その沈黙が、肯定だった。


ジュンヒョクは複雑な表情で取調室のほうを振り返った。


「本当に、あの人たちが役に立つんでしょうか」


ジュンは低く言った。


「もう、刑事のやり方だけでは無理だ」


警察署の向かいにあるカフェ。


窓の向こうに、ハナとナラの姿が見えた。


ジュンはガラスに映った自分の姿をちらりと見た。


意味もなく制服の襟を整え、少し乱れた前髪をかき上げる。


“俺は今、何をしているんだ。”


自分でも呆れたように短く息を漏らし、彼は重いガラス扉を押して中へ入った。


チリン。


扉の上の鈴が鳴ると、気配に気づいたハナとナラが同時に顔を上げた。


「あ、刑事さん」


ハナが先に手を振った。


「先に来ていたんですね」


ジュンは軽くうなずき、二人の向かいに座った。


その前に、ハナがいたずらっぽく目を輝かせた。


「何を飲みます?」


ジュンが答えるより先に、彼女が付け加えた。


「あ。もしかして刑事さんのおごりですか?」


ナラはハナを止めるように笑ったが、あえて止めはしなかった。


「私は温かいアメリカーノをお願いします」


ハナは待ってましたとばかりに手を上げた。


「じゃあ私は高いの。甘くてほろ苦い抹茶ラテ」


ジュンは二人を交互に見た。


「お二人とも、自然におごられますね」


「お願いがあって呼んだ人が払うものじゃないんですか?」


ハナがしれっと言った。


ジュンは反論しかけ、やめた。


そして席を立った。


「待っていてください」


しばらくして、ジュンは注文した飲み物を持って戻ってきた。


せっかちなハナが抹茶ラテを取ろうとした瞬間、カップを渡そうとしたジュンの指先と、ハナの指先がかすかに触れた。


ほんの短い接触だった。


それなのに、二人のあいだに、何でもない沈黙が入り込んだ。


びくりとしたハナが、慌てて手を引いた。


ジュンも気まずそうに視線をそらした。


「熱いです」


「わかってます」


「せっかちな性格なので、言っただけです」


ハナは意味もなく唇を尖らせた。


「ふん。誰がせっかちですか」


ジュンは小さく笑い、ハナの前に抹茶ラテを、ナラの前に温かいアメリカーノを丁寧に置いた。


ナラは二人を眺めながら、意味ありげに微笑んだ。


「刑事さん、見た目と違って紳士なんですね」


ジュンの眉がわずかに上がった。


「見た目と違って?」


「私はどう見えていたんですか?」


そのとき、ハナが自然に割り込んだ。


「血も涙もなさそうな冷血男?」


ジュンが真顔になった。


「外見で人を判断するのは、捜査でも禁物です」


「わ、真顔になった」


「真顔ではありません」


「今、完全に真顔でしたけど」


「違います」


軽く言い合う二人を見つめながら、ナラは黙ってコーヒーカップを包んだ。


温かな熱が、指先に染みてくる。


同時に彼女は、二人のあいだに流れる微妙な波を感じ取っていた。


まだ愛と呼ぶには早く、好意と決めつけるにも不器用な感情。


けれど、昨日とは確かに違っていた。


撮影現場の裏通路で、刃が閃いた瞬間。


ジュンが迷いもなくハナを押しのけた動き。


そして血のにじんだ腕を見て、ハナの顔が崩れた短い沈黙。


あの場面が、二人のあいだに見えない線を一本引いたようだった。


“この二人、何か変……”


ナラはあえて口には出さなかった。


ハナはナラの視線に気づいたのか、わざと抹茶ラテを一口飲んだ。


「ナラ、なんでそんな目で見るの?」


「別に」


ナラは知らないふりをして笑った。


「ただ、抹茶ラテがおいしそうだなと思って」


「あげる気ないから」


「けちだね」


しばらく笑いが行き交った。


けれど、それは長く続かなかった。


ジュンがコーヒーカップを置く音が、小さく響いた。


空気が自然と沈んでいく。


ジュンの顔から、さっきまでのぎこちない笑みが消えた。


再び、刑事の顔だった。


「それより」


彼が静かに口を開いた。


「お二人にお願いしたいことがあって連絡しました」


ハナとナラの表情も、すぐに真剣になった。


ジュンは言葉を選ぶように、窓の外の警察署を見た。


「これまで逮捕した連中が、全員、黙秘を続けています」


「全員ですか?」


ハナが聞き返した。


「はい」


ジュンの声が低くなった。


「最初に捕まった電気設備の男も、浮き橋の事故を起こそうとした男も、ショッピングモールの駐車場で爆発を起こそうとした男も、昨夜、撮影現場で捕まった男も。全員、口を閉ざしています」


ナラの指先が、コーヒーカップの上で止まった。


彼女は、そのうちの一人の空白を覚えていた。


何も感じまいとする人間。


生きているのに、すでに自分を死者のように扱っていた男。


「捜査が完全に行き詰まっています」


ジュンは、認めたくない事実を無理に口にするように、ゆっくりと言った。


「奴らのうち一人でも口を開けば、“消された者たち”の手がかりをつかめるかもしれない。ですが、誰も話しません。弁護士も求めず、家族への連絡も拒否し、身元確認のあとも、自分のことを一切語ろうとしない」


「怖いですね」


ナラが低く言った。


「何かを隠すために口を閉ざしているんじゃなくて……もう話す理由を失ってしまった人たちみたいです」


ジュンの視線がナラへ向いた。


その目には、まだ理解できないものへの警戒があった。


だが同時に、認めざるを得なくなった信頼も混じっていた。


「それで」


彼は二人をまっすぐ見た。


「お二人の力が必要になると思います」


普段、頼みごとなどしない刑事ジュンの口から出た言葉だった。


ハナは驚いたように瞬きをした。


「……刑事さんが? 私たちの助けが必要だって?」


ナラも静かにジュンを見つめた。


ジュンは視線を避けるように、コーヒーを一口飲んだ。


「嫌なら構いません」


ハナがすぐに笑った。


「誰が嫌だって言いました?」


ジュンの視線が再びハナに戻った。


ハナはカップを置き、さっきとは違う目で言った。


「手伝います。昨日、命を借りましたから……借りたものは返さないと」


ナラもゆっくりとうなずいた。


「私も」


「一緒にやります」


ジュンは黙って二人を見つめた。


しばらく、何も言わなかった。


そして、ごく小さく、ほとんど聞こえないほど低い声で言った。


「……ありがとうございます」


三人はすぐに席を立った。


カフェの温かな空気を出て警察署へ向かうと、冷たい風が頬をかすめた。


警察署の中は、カフェとはまるで違う空気だった。


蛍光灯は必要以上に明るく、廊下は乾いていた。


書類のめくられる音、遠くで響く無線のノイズ、靴音が床を叩く音が冷たく鳴った。


ジュンが先を歩いた。


ハナとナラがその後に続いた。


ある瞬間、ハナが低い声で尋ねた。


「刑事さん」


「はい」


「あの人たち、本当に何も話さないんですか?」


「はい」


ジュンは短く答えた。


「どんな質問をしても反応がありません。名前、組織、次の標的、黒幕。すべてです」


「拷問された人みたいですね」


ハナの言葉に、ジュンが一瞬足を止めた。


ナラも顔を上げた。


ハナは唇を噛んだ。


「体じゃなくて、心が。誰かが内側から全部の扉に鍵をかけたみたい」


ジュンは答えなかった。


だが、否定もしなかった。


三人は留置場へ続く廊下の前に立った。


ジュンは担当の警察官に短く指示した。


「面会申請を入れてくれ」


「誰からにしますか?」


ジュンはナラを振り返った。


ナラはしばらく目を閉じた。


記憶の中に、一人の男の空っぽな笑みが浮かんだ。


「最初に捕まった人を」


「電気設備の男ですか?」


「はい」


ジュンはうなずいた。


しばらくして、担当の警察官が戻ってきた。


表情はよくなかった。


「拒否されました」


ジュンの眉間にしわが寄った。


「何だと?」


「面会拒否です。名前を聞いた途端、顔を背けました」


ハナは腕を組んだ。


「じゃあ、昨夜、撮影現場で捕まった男は?」


担当の警察官は再び中へ入った。


しばらくして、彼は同じ答えを持って戻ってきた。


「そちらも拒否です」


短い沈黙が廊下に落ちた。


閉じた扉の向こうには、確かに人間がいた。


息をして、目を開けて、何かを考えているはずの人間が。


それなのに彼らは、まるで世界そのものを拒むように口を閉ざしていた。


ハナはもどかしげにため息をついた。


「いったい何をそんなに守ってるんでしょう」


ジュンは冷たく答えた。


「組織でしょう」


ナラはゆっくりと首を横に振った。


「いいえ」


ジュンが彼女を見た。


ナラは留置場の廊下の奥を見つめていた。


その瞳が、ほんのわずかに揺れている。


「組織だけじゃありません」


ナラの声が低くなった。


「自分たちが最後まで何者にもなれなかったという事実を、守っているみたいです」


「どういう意味ですか?」


ジュンが尋ねた。


ナラは答える代わりに、一歩前へ出た。


廊下の奥、分厚い鉄の扉の向こうから、かすかな感情の残響が流れてきていた。


恐怖ではなかった。


後悔でもなかった。


怒りでもなかった。


それよりもずっと古く、ずっと深いもの。


誰にも聞いてもらえなかった人生の果てで固まってしまった、諦め。


ナラはゆっくりと息を吸った。


「閉ざされているんじゃありません」


ハナが尋ねた。


「じゃあ?」


ナラは静かに言った。


「内側で、踏みとどまっているんです」


ジュンの顔が強張った。


ナラの視線は、まだ鉄の扉の向こうに向けられていた。


「誰も自分たちの言葉を聞いてくれなかったと信じている人たちは、簡単には口を開きません」


「では、どうすればいいんですか」


ジュンの声は低かったが、鋭かった。


ナラはしばらく黙っていた。


そして、ようやく言った。


「その人たちが生きてきた時間を見なければなりません」


ハナがナラを振り返った。


ナラの顔は、すでに青白くなっていた。


「どうして口を閉ざしたのかを知るには……」


ナラはゆっくり目を閉じ、また開いた。


「まず、どうしてそこまで壊れてしまったのかを知らなければなりません」


その日の面会は、結局実現しなかった。


ハナとナラは警察署の外へ出て、しばらく何も言わずに立っていた。


空は暗くなりつつあった。


警察署前の街灯が、一つ、また一つと灯っていく。


ハナはポケットに手を突っ込んだまま尋ねた。


「ナラ」


「うん」


「大丈夫なの?」


ナラはかすかに笑った。


「大丈夫ではないだろうね」


「じゃあ、やめて」


「でも、やらなきゃ」


ハナは姉の顔を見つめた。


止めたかった。


けれど、止められないこともわかっていた。


彼女たちの力は、いつもそういうものだった。


誰かを救うために、自分を少しずつ削らなければならない。


ジュンは、そんな二人を静かに見つめていた。


彼はまだ、二人の力を完全には理解していない。


だが一つだけはわかった。


この二人は逃げない。


恐れていても、結局、いちばん暗い場所へ歩いていく。


ジュンは低く言った。


「資料を集めます」


ハナとナラが彼を振り返った。


「奴らの家、家族、職場、通話記録、過去の記事。集められるものはすべて」


ナラはうなずいた。


「私たちも一緒に見ます」


ジュンは少しためらってから言った。


「無理はしないでください」


ハナが目を細めた。


「刑事さん、そんなことも言うんですか?」


「言います」


「心配してるんですか?」


ジュンは視線をそらした。


「捜査人員が減ると困りますから」


ハナは小さく笑った。


「本当に、相変わらず情がない言い方ですね」


「事実です」


「はいはい。わかりました」


それでも、ハナの口元にはかすかな笑みが残っていた。


ナラはそんな二人を見て、小さく息を吐いた。


さっきまで鉄の扉の向こうから感じていた重い諦めが、その一瞬だけ遠ざかったような気がした。


けれど、それも長くは続かなかった。


ナラの耳元にまた、あの男の声が聞こえたような気がした。


俺たちは、もう死んだ人間だ。


ナラは静かに拳を握った。


違う。


まだ違う。


あなたたちが本当に死んだ人間だったなら、そんなふうに必死で口を閉ざし、耐えているはずがない。


その夜、三人は閉ざされた口の前から退いた。


けれど、それは諦めではなかった。


彼らが開かなければならないのは、口ではなく、


その口が最後まで呑み込んでしまった人生だった。



著:ジンファ・ジンギョン

(姉妹による共著)


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