市川鈴菜 2話
居酒屋に入って店員に場所を教えてもらい、みんながいる部屋の前についた。
深くため息をつき、部屋に入った。
「みんなー! お待たせー!」
私は手を振りながら部屋に入った。
「待ってねぇぞ」
「うるせぇぞ」
と誰かが言った。
「ひど! さぁみんな飲んでるかぁい?」
見渡すと、碧と目が合った。でも逸らされた。私は視線を落とし、無理やり笑う。
「ここ座りな」と香奈美が言った。
「喉乾いたちょうだい」
香奈美のビールを飲んだけれど味がしなかった。炭酸水を飲んでいるみたいだった。
「私の飲まないでよ〜」
「へへへ。ごめーん。お酒最高ー! 幹事! 私梅酒のロックね」
「自分で頼めよ!」
「ねぇ、鈴菜あんたなんかあった?」と香奈美が私の顔をのぞいてきた。
私は空になったグラスを見ながら言った。
「彼氏と別れただけ〜」
「えー!!!!」
「声でかいって〜」
「何何?」と周りのみんなが聞いてくる。
「彼氏と別れた」と言って無理やり口角を上げた。
「は? マジで? 何で何で?」
「秘密〜! はい! この話は終わり! 幹事の最近の恋愛事情教えてよ。どうせ彼女できる気配ないんでしょ?」
上手く笑えているだろうか。いつも通りにできているだろうか。
「俺はなぁ! もうすぐできるんだよ……だいたいなぁ」
周りは騒がしいのに、何も聞こえなくなった。とりあえずみんなが笑ったら笑っておいた。
目の前にグラスが置かれた。琥珀色の梅酒が揺れている。半分ほど飲むと、口の中に酸味だけが残っていた。もっと甘いはずなのに。
周りを見渡すと、碧が一人でいた。
私は残りの梅酒を飲んでから、碧の元へ行った。碧に近づくと、肩の力が抜けた。
「何見てんの?」
私は碧のスマホを覗き込んだ。タバコの香りがした。一瞬元彼の顔が浮かんだ。
スマホを見ると、芋焼酎とは、の文字が見える。
「えっ? 芋焼酎のこと調べてんの!? おもろ。碧やっぱおもろいわ〜」
自然と笑えた。何でだろう。きっとお酒のおかげだ。
「うるせぇなぁ」と碧が不機嫌そうに答えた。
「何? 照れてんの? ねぇ照れてんの可愛い〜い」
私は碧の頬を指先でつつく。
またタバコの香りがする。元彼のタバコの匂いと似ている気がする。
「ねぇメニュー貸して」
私はメニューを手に取って見る。けれど、ぼやけてちゃんと見えない。タバコの匂いがまだする。
————
伊織はベランダに出て、タバコを吸っていた。
私も一緒にベランダに出て、伊織にくっついた。
「鈴菜、煙吸ったら体に悪いよ。部屋に入ったほうがいいよ」
「大丈夫!」
私が言った言葉に、伊織は微笑んでいた。
こんなこともあったな、付き合って最初の頃は。
こんな私を気遣ってくれていたのに、最後別れる時、最悪だったな。
————
「お前今日めっちゃ酔ってね?」と碧が言った。
「へ? あ! お前って言うな!」
「はいはい、鈴菜」
「よろしい。私一人で0次会してたからさぁ」
「一人で?」
「うん。誰も来てくれなかったから」
「ふーん」
「ふーん、じゃないよ! 碧、楽しんでる?」
「楽しいよ」
碧が視線を下げた。
「本当? なんかあんまり人多いの好きじゃないでしょ? なのに来てくれるからさぁ」
「それは……鈴菜が電話してきて、お願いだから来てって言うから」
碧が動くたびにタバコの匂いがする。伊織の顔がちらつく。
おまたせしました芋ロックです、と店員がテーブルにグラスを置いた。私はグラスを手に取り口に流し込んだ。
芋ロックの香りが鼻につんときた。これでタバコの匂いはしない。
「おい、飲み過ぎだって」
「芋ロックやば。今日はいっぱい飲むって決めてるからいいんだよ」
「飲みすぎたら面倒くさくなるからやめてくれ」
「いいじゃん! バカアホ」
「バカアホはそっちだろ!」
「そこ喧嘩しなーい」
前に座っている女子が言ってきた。
「喧嘩じゃないよ〜てゆうか聞いて! 碧さ、芋焼酎のこと調べてんの!」
「は? 何それ詳しく聞かせて?」
「嫌だよ」
碧は、私のしょーもない話を笑って聞いてくれる。私のテンションが低くても、何も聞かずに碧の話をしてくれる。普段碧は自分の話をしないのに。
碧の柔らかい笑顔を見ると、全身の力が抜ける。
碧が笑うと私は笑顔になれるよ。




