表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
思いの煙  作者: 七瀬乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/5

市川鈴菜(いちかわすずな) 1話

 遮光カーテンの隙間から光が漏れている。電気もつけずに、買ってきた炭酸水、烏龍茶、氷、オレンジジュースをテーブルの上に無造作に置いた。

 冷蔵庫から、カシスリキュール、梅酒、ウイスキーを取り出し、お気に入りの底がキラキラしたグラスを手に取った。暗い部屋の中でも、少しだけ煌びやかなグラス。いつまででも眺められそうだけれど、テーブルの上に置いた。


「よ〜し、飲むぞ〜何から飲もうかなぁ」


 カシスリキュールとオレンジジュースをグラスに注ぎ、一気に口に流し込んだ。


「甘っ、うま」


 スマホの通知音が鳴った。香奈美かなみから、『今どこ!?』とラインが届いている。

 香奈美に電話をかけた。

 

「鈴菜、あんた今どこにいんの!?」

 あまりの声の大きさに、思わず耳からスマホを離す。


「家」


「はっ? 午後の授業は?」


「さぼる! そして、今0次会してるから、香奈美も来て飲もうよ!」


「行くわけないでしょ! こんな昼間から飲んで、あんた単位大丈夫なの?」


「全然余裕〜香奈美来てくれないなら一人で楽しんでやるから!」


「はーい。ご自由にどーぞー。じゃあまた飲み会でね〜」

 電話が切れた。

 さっきまで気にならなかった部屋の静けさがやけに気になる。

 テレビをつけた。チャンネルを変えるけれど、どれも面白くなさそうで消した。

 また部屋中が静かになった。

「もう何で来てくれないの〜」


 グラスに氷を入れ、ウイスキーを半分くらい入れた。

 深呼吸をし、ゴクゴクと飲んだ。

 喉が焼けるように痛い。顔をしかめて息を止めた。喉の痛みがなくなり、息を吐くと、ウイスキーの香りが鼻を抜けた。


「やば。すんごいんだけど、誰が私の家にウイスキーなんて置いて帰ったの。もう梅酒飲もう」

 

 まだウイスキーが入っているグラスに、梅酒と炭酸水を入れた。一口飲むと、なんとも言えない味がした。


「よし。この勢いで消してやる!」

 

 テーブルに頬をつけ、スマホの写真アプリを開いた。

 スクロールすると、元彼の伊織との写真が数え切れないほどある。


 一気に消してやる。


 伊織の写真を選択し、削除ボタンを押そうとしてやめた。

 別れる前の日の写真を見ると、伊織も私も笑っていた。

 もし、私があんなこと言わなかったら今頃笑っていたのかな。


————

「ねぇ、明日会える?」

 伊織いおりはスマホでゲームをしていた。

「あ〜無理」

「何で?」

「友達と遊びに行く」

 私は唇を噛み締めた。喉の奥に何かが引っかかっていた。それが出てこようとするので、口を必死に閉じた。でも無理だった。

「最近友達と遊ぶの多くない?」

「は?」と言って、伊織が私を見た。

「友達と遊ぶのはいいよ。でも、たまには私のこと優先してくれたっていいじゃん」

「は? 今優先してるだろ」

「一週間か二週間に一回、私が会いたいって言ったら、ため息ついてしょうがないなみたいなオーラ出して会ってくれる。伊織の家で二時間だけ。私は会えるなら二時間でも嬉しかった。でも、私も一緒に出かけたりしたい」

 伊織が深くため息をついた。

「じゃあ今からどっか行く?」

「そういうことじゃない!」

「めんどくせぇ」

 もう止まらない。

「めんどくせぇって何!? だいたい付き合う前は連絡すごいくれたのにさ、付き合ったとたん連絡くれなくなって、私ばっかりが連絡して、会いたいって言って、私ばっかりが好きで、何で私に付き合おうって言ったの? 何で付き合ってるの?」

 視界が歪んで、伊織が今どんな表情をしているのか分からない。

 俯くと、自分の膝の上が濡れた。

 伊織のため息が聞こえた。

「あのさ、前から思ってたんだけど、鈴菜との将来のこと考えられないんだよね。結婚とか。だから別れよう」

 膝の上が濡れて、それが膝を伝って下に落ちていく。

「やだ」

「もう無理」

「私のこと嫌いになったの?」

「好きでも、将来のこと考えられないなら一緒にいても意味ないって」

「そんなの分かんないじゃん! 将来のことなんて誰も分かんないよ!」

「あ〜めんどくせぇ。もう嫌いになったわ。もう帰ってくれる?」

 

 動けない。何も言えない。言いたいことは山ほどあるのに。

 

 この半年なんだったの。

————



 目を開けると、遮光カーテンの隙間から茜色の光が見えていた。

 テーブルから顔を離すと、頬が濡れていた。テーブルも濡れていた。

 いつになったら涙が出なくなるんだろう。

 グラスには、氷がとけて薄まった梅酒が入っている。それを手に取り、一気に飲む。


「まず。次」


 ウイスキーを烏龍茶で割って飲んだ。


「なんか美味しくない」


 着信音が鳴った。香奈美からだ。


「もしも〜し」

「もしもし? ねぇもしかしてまだ家?」

「へ? うん」

「うん、じゃないよ! 飲み会あと十分で始まるよ!」

「マジか……寝てた」

「寝てた? 昼から飲むからだよ! 先始めるからね! じゃあね」

 

 スマホを置き、またテーブルに頬をつけた。


「ほっぺびしょびしょじゃん」

 

 遮光カーテンから漏れている茜色の光が揺らめいて見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ