神さま、吹き込む。
ご覧頂きありがとうございます。
誤字報告ありがとうございました!
今回はタップミスによる変換間違い、ですね。
PCでやってたら起こらないミスだ、なんてこったい。
書こうと思っていた言葉をよく推測できましたね!!
いつも申し訳ありません:( ;´꒳`;)
ありがとうございます。
「良かった、間に合った」
安堵の言葉と共に、ラクサリス村の若者四人組の元へと戻れば、転移酔いや混乱からは落ち着いたようだ。
お前は何者なんだ、なんで狩りのジャマをしたんだ、何が起きているんだ、この地響きはお前の仕業か等々……
まぁ〜、矢継ぎ早に質問が出て来る、出て来る。
最後尾にいた少年だけは、俺がトシを助けに行った事を知っている。
そのため俺の腕の中でズブ濡れになって、真っ青を通り越して白くなっている顔のトシの顔を見て、他の青年達に静止をかけた。
全く無意味だったが。
このメンバーの中で一番若いから、軽く見られているのかな?
俺が何をしていたか、分かる範囲や想像でしかなくても、ある程度の情報共有をしていたら、こんな状況にはなっていないもんな。
まさか仲間へ心配の言葉や安否の確認をする前に、質問攻めになるとは思わなかったよ。
目の前で同行者が一人死にかけているのに、全く視界に入っていない。
なんてヤツ等だ。
「仲間を死なせたくないなら黙れ、後にしろ。
ソコのお前は手伝え」
「え、おれ?」
少年をアゴで示してコッチに来るよう促す。
両手が塞がった状態では、四次元ポシェットから予備のマントを取り出す事は出来ない。
だからと言って、俺が必要な道具を取り出す間、この少年にズブ濡れでかなりの重量になっているトシを持ち続ける事は不可能だろう。
オプリタス大陸の人間は霊力が使えない。その前提でいなければならない。
つまり身体強化も使えないので、見た目通りの腕力しかないと考えるべきだ。
ならば……嫌だが。
非っ常〜に不本意だが、俺のマントを外してその上に寝かせるしかあるまい。
氷の上に直接、濡れた人間を置いたらダメだろ。
接触部分がくっつくし、急速に体温を奪われる。
毛髪がくっついて離れなくなり頭皮ごと剥がれてしまえば、悲惨なんて言葉じゃ足りない程の惨状になるだろう。
徐々に近付いてくる地響きの主達の移動速度が、更に上がるに違いない。
俺が抱えているからマントの付与効果の範囲がトシも入っているようで、今はまだ冷たい水に落ちた影響しか受けずに済んでいる。
しかし少しでも離れた途端、氷点下五〇度の世界だもの。
瞬時に内臓まで凍りついてしまう。
俺の首元にあるマントを繋いでいる金具を外して貰い、決して風に煽られず、俺かトシの身体に一部でも良いからマントが触れた状態を保ちながら、氷の上に敷くように指示をした。
「そんな難しいこと言われても……」と泣き言を言いながらも、シッカリ手を動かしてくれている。
やはりこの少年は使える。
少年って言っても、俺より歳上っぽいけど。
少年の動きに合わせて身体を屈めたが、マントが身体から離れた事で、急激に冷気が襲ってくる。
やっぱり付与の効果って、密着していないと薄れるんだな。
とはいえ服や手袋も含めた他の装備品にも、色々と付与を施してある。
マントは邪魔になるから、これくらいでちょうど良いと思っておこう。
どうせ汗をかくくらい大変な作業が待っているのだから。
「心肺蘇生法は知っているか?
人工呼吸や、心臓マッサージの事だ」
トシの額に手を当て頭部を後ろに傾け、アゴを持ち上げながら少年に問う。
口の中を確認するが、特に吐瀉物や異物は入っていない。
そのせいで息が出来ていないだけなら、簡単に蘇生出来たのに。
残念である。
「わ、分かんない、です」
他の三人も、俺と少年の緊張感漂う雰囲気に、ようやく事態の重さに気付き始めたようだ。
先程までの浮ついた空気を引っ込んでいる。
目配せによる質問に、首を揃って横に振って回答した。
服を脱がせるように指示を出し、気道を確保しても自発呼吸が無いのを確認し、人工呼吸をする。
しかしまだどこか、仲間が死にかけている状況に、実感が持てていないのだろう。
もしくはその上で現実逃避をしたいのか。
真面目な雰囲気が霧散するような声を上げるな、愚か者共め。
「キスした〜」とか茶化して言ってる場合じゃねぇんだぞ。
この様子では、コイツ等には人工呼吸はさせられないか。
通常呼吸より多く息を吹き込むと、肺が膨らみ過ぎて血液の流れを妨げる原因になる。
深呼吸はせずに、右手で鼻をつまんで一回一秒、二度呼気を吹き込む。
吹き込む量は、多過ぎても少な過ぎてもいけない。
本当は胸部がしっかり膨らんでいるかの確認をしたいのだが、トシが着込んでいる服の量が多過ぎる。
脱がせるのを待っていたら、いつまで経っても蘇生が出来ない。
ならば感覚に頼るしかないのだ。
やった事が無い人間よりも、俺がやる方がまだマシだ。
それに人工呼吸は照れが入っているヒトや、こんな場面でもふざけるようなヤツには任せられない。
特に溺水の場合は、何よりも人工呼吸が重要になるからな。
シッカリと息を吹き込み、胸部圧迫により、吹き込んだ息を全身に巡らせるイメージで行うのが正しいやり方だ。
残念ながら人工呼吸だけでは、水を吐き出す事も、呼吸が戻る事も無かった。
仕方がないので、肋骨を折る勢いで心臓マッサージに移る。
当然、身体強化は解いている。
最初から折るつもりではやらないよ。
せっかくコレだけの人数がいるのだ。
交代で胸部圧迫は四人にして貰う。
「胸部圧迫は左右の乳首を一直線に結んだ胸骨上、ココを一分間に一〇〇回の速度で押す。
片方の手のひらの付け根に、もう片方の手を添えるように置き、胸骨が四、五cm沈むくらいの強さで押せ。
四分の四拍子の速度で、やった回数を声に出しながらやってくれ。
十五回に一回、俺は人工呼吸をする」
四分の四拍子が分からないと言うので手本を見せた後、少年にバトンタッチをして心臓マッサージをするように促した。
押す位置はペンで印を付けたし、リズムはあいている方の手でトシの肩を叩いて示した。
ソレで出来ないとは言わせない。
頭の中ではア〇パ〇マ〇のマーチが流れている。
どんぐりころころでも良いけど。
コロッと逝ってしまったら大変なので、思い浮かべるのは頭部があんぱんになっている正義の味方だ。
最悪一人でやる事も考えたのだが、同じ年頃のようだし、幼馴染なのだろう。
大切な人の生死が関わっている現実をようやく飲み込み、自覚した彼等は順番を自ら決めて心臓マッサージを行い始めた。
交代でナイフを取り出し濡れた服を切って脱がせたり、体温を下げないようさすったりマッサージをしたりしている。
血流を滞らせないためにもそれ等の行動も大切ではある。
しかし出来れば、濡れた衣服を剥がした後は、毛布に包んで外部から温めてやりたい。
青年達も結構着膨れをしているし、人肌で温め合うお約束なシチュエーションは取れないだろうし。
そうなると、やはり四次元ポシェットから毛布なりマントなりを出したい所だ。
しかし心肺蘇生を中断するワケにはいかない。
いい加減、心臓が動き始めてくれても良いと思うのだが……
心肺停止の状態から、救命措置を開始した時間と救命率のグラフが頭を過ぎる。
俺がトシを発見した時点で、既に彼の意識は無かった。
気配の喪失から考えると、何分程経過していただろうか。
人工呼吸を始めるまでに、五分は経っていたと思う。
そうなると救命率は二五%を下回る。
三分程度なら七五%程の確率で助けられるとされているのに。
水魔蚱に一度、救助活動を邪魔されたのが響いている。
心臓が再び動き始めたとしても、脳への血流障害によるダメージで、後遺症が残る可能性もある。
このまま諦めた方が、彼のためになる場合もあるんだよな……
少しの逡巡すら、動きに迷いが生じて生存率に影響を及ぼす。
こういう時は、同時にアレコレ考えられてしまう脳ミソの作りが憎くなるな。
仲間の青年達のように、一心不乱に救助活動にのめり込めれば、こんな事を考えずに済むのに。
自己嫌悪に苛まれ、飲まれそうになる。
しかしソレは、既所で霊力の揺らぎと共に止められた。
「……遅くなった」
遣いに出していた風の精霊が、無事にカノンに伝言を届けてくれたようだ。
転移を使って駆け付けてくれた。
少々顔色が悪く見えるのは、霊力を消耗したせいだろう。
申し訳ない。
カノンは順番に俺と青年達、死にかけているトシを見て、やるべき事を瞬時に察してくれた。
「お前ら、角骸鯨と海魔驢の討伐をしたことは?」
「え……?」
今まさに死にかけている人が目の前にいて、何を聞いてるんだ、コイツ?と四人の顔に書いてある。
しかし俺がして欲しかったのは、正しくソレだ!
全員の視線がカノンに集まっている事を確認し、右胸と左脇腹に手を当て「雷のスキル」を使い、AEDの要領でトシに電気ショックを与える。
その衝撃で自発呼吸をしてくれれば良かったのだが、残念ながら息も意識も回復しない。
もう一度電気ショックを与え、人工呼吸をすれば、ようやくゲホゴホ言いながら息を吹き返した。
しかしそれは反射のようなものだったのだろう。
頬を叩いても反応が無いので、意識は戻っていないようだ。
しかし呼吸も心拍も戻ったのだ。
最低限の事は出来た。
ヒビが入ってしまった胸骨を治癒術で治し、水を吐き出したとしても気道が塞がらないように、身体を横に向け回復体位を取らせる。
体勢を変えた事で露わになった濡れている背中を拭き、ついでに青年達が切っている途中だったズボンも全部剥ぎ取る。
服の水分で重くなっているマントを火の精霊に頼んでサッと乾かし、全身を包んだ。
更に追加で火の精霊には、マントの中の温度を四〇度に保って貰う。
呼吸が戻りはしたが、体温が三〇度を切っていて危ない状況なのは、依然として変わらない。
さすがに外で、しかも複数人俺の正体を知らない人間がいる目の前で、温めた輸液を体内に入れられないからね。
内側から温められないのだ。
まずは身体を深部まで、平熱に戻るまで外側から、火傷しない程度の温度で強制的に温めるしかない。
体温が戻り始めたら、三六度程度まで下げるようにお願いもしておく。
コレで今出来る事は無くなった。
あとは意識が戻ってから、トシの様子を見ながらの処置になる。
「カノン、助かった」
「お前……まさか、コイツを湖に落としたのか?」
「んなバカな!」
必死に常識範疇内で蘇生措置をしていた俺に向かって、なんたる酷い言い草だ。
風評被害にも程がある。
ぷりぷり怒っていると、自分のマントを俺にかけながら、呆れたように深い溜息を吐かれた。
「すぐ来いと言うから何かと思えば……
空飛ぶ石版を使えば良かっただろう。
石版の形を工夫すれば今の処置も難なく行えたし、魔物に襲われる心配も不要だ」
「……あ」
言われてみれば、確かにそうだ。
最近使っていなかったから、すっかり忘れてた。
空飛ぶ絨毯ならぬ空飛ぶ石版が、俺にはあったんだった。
地属性と風属性は相反した属性だから、精霊術の常識に当てはめて考えると、普通なら使えない術になる。
しかし俺は精霊神の皆のお陰で、カノンは霊力にものを言わせて、地精霊術で作り出した霊力の通りを良くした石や土で出来た板に、風精霊術を使って浮かせ空中を走らせる事が出来る。
目的地が分かっていれば、風の精霊にそこまで運ぶようお願いをして自動操縦モードにして、勉強を教えて貰ったり精霊術の講義をしたり、結構自由が利く。
そのため移動手段としてかなり便利なので、一時期は使用していた。
オプリタス大陸に上陸して以降は、なにせ視界が悪く風も強い。
カノンも全くと言って良いレベルで来た事が無く、村がどこにあるのかも不明なため、目的地を設定する事も出来ない。
霊力制御をしながら、一面真っ白な景色の中目を凝らして飛ぶよりも、歩いた方が早いし安全だ。
そういう結論になり、長らく使っていなかった。
そのため、焦っていた事もあり、思考に浮上しなかった。
イヤ、まぁ、この青年達を説得して全員空飛ぶ石版に乗せようとしたら、時間が掛かっただろうし。
それで心肺蘇生措置が遅れていたら、手遅れになっていたかもしれないし。
結果としてはベストでは無かったかもしれないけれど、ベターにはおさまったのだ。
呼び付けたのは悪かったが、良しとしておいて欲しい。




