神さま、理解に苦しむ。
あらかじめ髪は染めてあったのだけれど、マントを羽織っていなかったために、顔はバッチリ見られてしまっていた。
だってオッサン達が小屋に来たの、ご飯を食べた後の事だったんだもの。
身支度をしていなくても、仕方が無いじゃない?
当然素顔を見られてしまっているため、マントに施されている認識阻害の付与は、オッサン達に効果がない。
ならば視界が妨げられるだけだからと、フードを被らずに外へと出たら、付与装備が珍しいのか、移動の道すがらアレコレと質問責めにあった。
「耳がもげるぞ!」って注意から始まり、「何で寒くないんだ?」「髪の毛凍らないか??」「口の中凍らないか???」になり、「付与って一体何なんだ!!!??」とクソデカボイスで問われた。
オッサン達は皆口元を被っている上、イヤーカフのようなものをつけて帽子も被っている。
お互い声を張り上げないと会話にならないから、自然と大声での会話になるのだろう。
俺とカノンは、オッサン達と行動する間は耳栓をした方が良いかもしれない。
別の大陸では、少数な上高価ながら付与された道具が市場に出回っていたが、この大陸の住民は地球人の血を継ぐ人ばかりだ。
精霊術を使えない、霊力を扱えないのだから、付与が出来る人もいないのか。
外部から訪れた冒険者も、付与道具を手放したら生きて戻れないかもしれないから、売ったり譲ったりは当然のようにしないし、存在自体隠匿したのだろう。
知的好奇心が旺盛なのか、ネバーギブアップの精神なのか、今出来なくてもいつか出来るかもしれないからと、「精霊術の一種だ」と答えても質問は続いた。
便利なものは応用が利く事があるから、仕組みを理解しておく事で、いつか何らかの形で役に立つと考えているらしい。
質問される一方なのも癪なので、俺もオッサンに聞きたかった事を尋ねる。
「そんな確実なもんじゃないぞぉ。
湖面に張ってる氷が光ると、その一週間くらい後かなぁ?天災が起こりやすいって言われてるんだ。
ホレ、水色に光ってるだろ?」
猛吹雪になるから獲物を沢山獲らなきゃいけないと言っていた、その根拠が何なのか気になっていたのだが、どうやら経験則によるもののようだ。
雲の色や形を見て、今後の天気を予測するのと、感覚的には近いかな。
オプリタス大陸は太陽が出ないから、一般的に言われる、白い雲が見えたら晴れとか、暗い色だと太陽光が当たらない低い位置にあるため雨雲になりやすいとか、そういう判断が出来ない。
空を見上げても、星が見えるか否か位しか変化が分からない。
地元の人達は、月明かりの濃淡である程度の天気のゆくえを判断出来るようだけど。
ラクサリス村の住民は、それ以外の方法でも天気の予想をするようだ。
伸ばされた腕で示された湖面は、月明かりを受けて光ってるように見える。
だがその光はゆっくりと明度を変え、時折消えてはまた光り、しかも場所を変えたり光の数を増やしたりしている。
形がうまく捕捉出来ないが、イカやクラゲみたいな、水の中を浮遊している魔物のようだ。
大きなホタルイカやハナガサクラゲを想像すれば良いだろうか。
大小様々な大きさの発光器が身体の至る所に付いているため、光り方に変則性がある。
オッサンは水色と表現したが、氷によって青系の色に変えられているだけで、恐らく極彩色に光っている。
時折、ピンクや黄緑色にも見えるもの。
近くで見たらその非日常的な神秘的な光り方に、つい見とれてしまいそうな雰囲気だ。
「へぇ〜、魔物の習性を利用して予報を立てているんだ」
蜘蛛が新しい巣を作ったら翌日は晴れるとか、カマキリが高い位置に卵嚢を作る年は大雪になるとか、その手の類の話は地球にもあった。
まぁ、猫が顔を洗った場合は、次の日は雨になったり、船を出せと言われたり、国や地域によって全く違う意味になってしまう言い伝えも中にはあるが。
生活に密接した、おばあちゃんの知恵袋みたいなものだし、国によって違うのは仕方がない。
「んあ?
ありゃ魔物なのか」
「知らなかったの!?」
「水温や外気温が高い日、海面に出て来る水魔蚱だな。
光で獲物を誘き寄せ、湖面に張られた氷が薄くなり、氷が割れて上にいる獲物が落ちてくるのを待っているのだろう」
鑑定眼で視ればすぐに分かる事を、カノンがわざわざ口に出して説明するのは、オッサン達のためか。
もしくは、賢者らしく振舞おうと頑張っているからなのか。
「あぁ〜……若ぇモンが海牛鰭獲るっちゅうて湖に向かって行ったなぁ」
「今日は晴れてるし、確かにいつもより気温も高ぇもんなぁ」
「ヤベェなぁ」
湖とか言いながら、アレって海なの?
それともやっぱり海には繋がっていない、塩湖なの??
イヤ、そんな些末な事は今はどうでも良い。
人命がかかっているのに、何でオッサン達はこんなにノンビリとしているんだ!!???
「狩りするヤツぁ全ての行動が自己責任だからなぁ。
運が良けりゃ戻って来んだろ」
「二次災害出しちゃならんしなぁ。
オレらぁ自分のすべきことするだけだぁ」
コレは……潔いとでも言えば良いのだろうか。
ちょっと、俺には無い感覚である。
コレが閉山中の山に軽装備で突撃した輩が相手ならば、滑落しようが遭難しようが、ソレは自己責任として一刀両断すれば良い。
捜索救難活動をする人達の生命を脅かすくらいなら、救援部隊は派遣しない。
そういう判断が下されても致し方ない。
だが今回の場合は、自称手練のオッサン達ですら危険を知らない、過去に誰も被害に遭った事のない状況になる。
自己責任と断じて、切り捨ててはいけないのではなかろうか。
その若者達が何歳で、どれだけの経験を積んできたのかは知らない。
だが彼等には、責任を負うべき過失と呼べるようなものが無い。
あるとしたら、不運くらいなものだ。
しかも風に乗って喧騒が聞こえて来ないと言う事は、まだ問題は起こっていないはずだ。
ならば注意を促すだけでも、するべきではなかろうか。
その上で撤退せず、その場に留まり被害に遭うのであれば、自己責任と切り捨てれば良い。
「……カノン、ごめん。
行って来て良いか?」
「獲物が残っていなくても、文句を言うなよ」
「言わねぇよ」
俺が何をするつもりなのか、理解していないオッサン達への説明は、カノンがしてくれるだろう。
俺は湖の上に向かったという村人達の、顔も名前も知らない。
どの辺にいるのかも、当然検討も付かない。
なので普段なるべく狭い範囲に留めている気配探知を、意識的に湖の方へと広げる。
俺を中心に正円を描くように霊力を広げてしまったら、俺の霊力にビビった魔物達が一斉に逃げ出してしまう。
それでスタンピートでも起きたら大惨事になる。
そうじゃなくても、この後来るであろう吹雪を前に、獲物が獲れず村人達が腹を空かせるような事になってはいけない。
なので楕円形に、もしくは雫型に。
湖の周囲だけ、索敵の範囲を拡大した。
霊力が広がっていく、その境界線が可視化される事は本来無い。
しかし湖の中で光っている魔物が、俺の霊力に反応して探知の範囲外へと逃げようとしているために、徐々に遠くの方へと光が追いやられていく。
そのため霊力の境目がクッキリと分かる。
ちょっと面白い。
人命が掛かっていないのなら、からかって遊びたい所だ。
……最近探知の範囲を広げる事が無かったから、前よりスピードが落ちた気がする。
鍛錬はやはり毎日しなければダメか。
ココ最近――オプリタス大陸に上陸して以降は、景色を見ているだけで寒いからお外に出たくないって言って、サボっていたしなぁ。
反省をし、少し霊力を込め直して速度を上げる。
大きな湖だ。
探知はまだ四分の一も出来ていない。
……あ、一人見付けた。
氷湖の上は、風や雪の影響でかなり足場が悪いらしい。
若者らしく、集団で行動する事の重要さを理解していないようだ。
遅いヤツを置いて、先に進んでいるバカがいるのだろう。
結構バラバラに点在している。
「狩りって五人でワンチーム?
……んじゃ、行ってくるわ」
頷いたのを確認し、言葉での返答を待たずに湖上へと転移をする。
氷が溶けて薄くなっている場所へと、今まさに突っ込もうとしているおバカさんがいるため、急がねばと思ったのだ。
事情を知らなければ、質問をしておきながら返事も待たずにいなくなるなんて躾がなっていない!と怒られそうである。
カノンが上手くフォローをしてくれると良いのだけれど。




