神さま、熱弁する。
受肉した燼霊の見分け方は、何かないものか。
長生きしている人達しかいないのに、残念ながら明確な手段は挙げられなかった。
チッ、使えないヤツ等め。
まぁ、仕方がないか。
魔力でなら探知が可能な事ですら、俺の「スキル」によって魔力が再現出来たから判明した事なのであって、普通のヒトには魔力は使えないから分かり得ない事だった。
燼霊は魔物と違って個体数も少ないし、アレコレ実験しようなんてしていたら、一方的に蹂躙されて終わる。
そんな余裕はない。
だからって、被害が拡大して犠牲者が多数出てから、実は相手が燼霊でした、なんて事になっても困る。
俺やカノンなら、まだソコからでも対処は可能である。
精霊神と契約をしているし、琥珀がやった通り、並大抵の相手なら苦戦せずとも倒せる。
しかし基本的に燼霊を相手にした時に最も有効な手段は、逃げの一手しかない。
魔物とは比べ物にならないくらい強いのだもの。
逃げるが勝ちなのだ。
被害者の生き残りが殆どいないせいで、燼霊の脅威が周知されなくなって久しい。
そのせいもあって、魔物に対しての対抗策しか用意していない集落が多い。
魔王復活のお報せと共に、燼霊がいかに残忍で恐ろしい存在なのか、再び世に知らしめるべきなのだろうか。
……イヤ、そんな緊張感に怯える生活は、ストレス塗れになるから嫌だよな。
特に今はヒト社会に溶け込んで潜伏している燼霊がいる。
その可能性が浮上した以上、ヘタに刺激をして同時多発的に化けの皮が剥がれて集落が幾つも消し飛びました、なんて事になったら大変だ。
どうせ快楽殺人犯の如く、一方的に手当り次第嬲るに決まっている。
そうなればその地域の瘴気の濃度が上がり、次元の裂け目が生じて更に多くの燼霊がコチラの世界に来てしまう。
そんな事になったら、大変の一言では済まない。
何より、被害者が出るのがいただけない。
精霊を信仰してくれる人がいなくなるじゃないか。
ソレはアカン。
この世界の神に腹は立っているし、相応の報復は受けて貰うつもりだ。
しかしだからって、この世界に生きている人達に不幸になって欲しいとは思っていない。
皆がハッピーなのが一番じゃない。
まぁ、その皆の中には燼霊は含まれないが。
だって燼霊の幸せって、この世の滅亡、とか言うでしょう?
どう足掻いたって、相容れないじゃない。
我慢して貰えたとしても、口約束じゃ反故にされる可能性の方が高い。
突発的な衝動が起こったらどうする?って話だもの。
燼霊にとっての破壊行為って、人間にとっての食事や睡眠のようなものらしいし、我慢しようと思って出来るものではない。
大人しく破滅願望ごと、自分達だけで滅んで頂きたい所である。
「明夜様が普段髪を染めていらっしゃるのは、三英雄の物語の魔王の容姿がそのまま今のお姿だから、ですよね?
なぜ村に戻って来られた時に、そのお姿だったのでしょう?」
「この姿も、神にケンカを売るための下準備の一環だよ」
俺もカノンも、国王陛下から世界の生活水準を上げるように言われている。
しかしそういう変革期は、便利で豊かな暮らしが保証されていたとしても、どうしたって今までの日常から離れ難いと思う人がいて、反発が生まれる。
つまり身分格差も徐々に開くし、遅かれ早かれ、戦争が起こる危険性が跳ね上がる。
戦争が金持ち達による、いかに道楽じみたバカバカしいものか、俺達はイヤって程分かっている。
地球が滅ぶ要因の一つだったワケだしね。
既に余力がある地域だと、内紛や革命が起きたりしてると聞いている。
少し前まで一緒に旅をしていたヤツの故郷は、そのせいで滅んだそうだ。
こりゃいかんと思うよね。
生活水準の底上げをしなければならないのに、戦争なんて起こったら全ての苦労が水の泡だ。
燼霊達による被害並、あるいはそれ以上の犠牲が出てしまう。
瘴気が生まれて魔物も強くなるし、ヒトが住みにくくなる。
ヘタをすればその瘴気のせいで、燼霊がコッチの世界に来てしまう。
そうなれば損失は跳ね上がる。
被害がその地域に留まらず、世界中に拡大していってしまうからね。
戦争大好きな連中にすら、悲劇しか待っていないのだ。
そうなると分かっていて、手を打たないのは愚かだろう。
長年争っている国や民族ですら一致団結する時は、共通の敵が現れた時だとよく言う。
しかし魔物に対しての恐怖心だけじゃ、この世界の人達が手と手を取り合う事はムリだって事は既に証明されている。
燼霊か魔族、どちらの方が通りが良い呼び名か知らないが、そういう危険が湧いて襲って来るから戦争なんて辞めろと言った所で、被害が出ない事にはどれだけ怖いのかなんて想像出来ないだろう。
その点、魔王なら分かりやすい。
なんか、過去の燼霊が起こした騒動も魔王の仕業だと伝えられているそうだし。
精霊や人間の共通の敵のイメージは、魔王で固定されてしまっているようだね。
今回みたいに魔王の目撃者を作りつつ、騒動をアチコチで起こせば、人間同士で争ってる場合じゃないんだよ、と世間に知らしめられるだろう。
その際の問題解決には、賢者様と精霊の御使い様を全面に押し出して、見た目もハデな術をバンバン使う。
多くを語らなくても、その様子を見た人達は「賢者様すげぇ!」「精霊術ってアメージング!」と大袈裟に大衆へと口伝してくれるに違いない。
そうすれば自然と、人知を超えた理解不能な脅威が現れたら、精霊様に頼れば良いのだと思ってくれるようになる。
そのためには日々の祈りを欠かさず行ってくれるだろう。
なにせ精霊術を使えるのは、精霊様を信仰しているからだと精霊教会の連中が既に宣伝しまくってくれているからね。
それと同時進行で、精霊術の普及活動もする。
信仰心も大切だとは説くけれど、術の使い方自体は学問のように教えられるものだからね。
自分の身を自分で守る能力を得て、民衆の死亡率が下がれば、人口が増えて精霊を崇めるヒトも増えて、精霊のパワーアップに繋がる。
完璧じゃない!?
「……そんな簡単にいきますかね?」
「穴だらけとは思うが、概ねこの方向で進めるつもりだ。
俺も精霊様方も、コイツの尻拭いには慣れている」
はい、ソコ!
コソコソと不備を指摘し合うくらいなら、ハッキリと言いたまえ!!
まぁ、俺だって思い描いた通りになるなんて思ってないよ。
今回だって明かすつもりは無かったのに、俺の正体が瑞基にバレちゃったしね。
精霊術のレクチャーをする時間も全然無かったし。
村を去った後、女装姿の状態では住民の前に出ないつもりでいたのに、緊急事態のせいでバッチリ見られちゃっているし。
言い訳は結局、どうするよ?
「樹化病の患者を隔離するための施設を造る、という話をしていた所で、燼霊の襲撃に遭ったからな。
そのまま押し通せばいいだろう」
「……そういえば、つい明夜様との逢瀬を優先させてしまいましたが、地上部がこれだけ立派に造られているとなると、地下はどのようになっているのでしょう?
住民全員を避難させられるだけのスペースの用意は出来ていたのでしょうか?
酸素の確保はされています……よね?」
逢瀬でも逢い引きでもないし。
変な言葉を使うな。
俺の「スキル」を実際には見た事がない瑞基は、今更ながら村人達がどうなっているのか不安になったようだ。
地下でぎゅうぎゅうの寿司詰め状態になっている所を想像したのだろう。
顔色が悪い。
カノンまで、訝しげな目で見るなよ。
いくら俺がウッカリ屋さんだからって、地下の狭い空間に何百人も押し込むような拷問めいた事をするワケが無かろう。
王都の再建を間近で見ていたカノンは、小規模な村、しかも仕様書がキッチリと準備してある状態ならば、ほぼ一瞬で創れる事を知っている。
そしてトレーラーハウスが中途半端な仕上がりだった事から、地下は既に完成していて、オマケ部分となる地上部を創っている途中で駆け付けたのだと予想がついているのだろう。
俺がムスッとした表情で問題無い事をアピールしたら、今度は一人でしなくて良い心配を慌てふためきながらしている瑞基を、残念な子を見る目で見ていた。
早く誤解を解いてやれよ。
可哀想だろ。




