神さま、完成させる。
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修正致しました。
最初は牛車の屋形みたいに、大型の車輪を左右に一つずつ装着させていた。
しかしオプリタス大陸は、雪時々吹雪みたいな天気が多い。
そんな天候なのに、外に車輪なんぞつけていたら、凍って動かなくなってしまう。
そうカノンに指摘された。
車だってエンジンさえ凍らなければ走るのだ。
多少凍って固まるくらい、問題無いだろう。
ツララなんかが張り付いていたら、ソレは取り除かなきゃいけないけれど、車と違って人力で引っ張るのだし、バッテリーが上がる心配も不要だ。
ならば動かすくらい出来るだろう。
何より油を十分にさしておけば、凍りにくくなる。
もし凍ってしまったとしても、最初こそ移動させるのに手間がかかるだろうが、動かしているうちに摩擦で溶けるさ。
……そう思っていたのだが、氷点下五〇度以下の世界を舐めていた。
ガッツリ塗っておいた脂ごと凍っていやがる。
潤滑油のハロカーボン……イヤ、ソレじゃ足りないか。
ケイ酸エステルならばマイナス一〇〇度でも凍らないよな。
しかしそうなると、入手方法が俺の「スキル」に限定されてしまう。
現地調達が出来ないならダメだ。
オプリタス大陸全域に生息している角骸鯨の脂なら、凍らずイケると思ったんだけどな。
だってアイツ等、普通にソコら辺に寝っ転がっているんだぞ。
凍らずに居られるって事は、凍る心配が無いって事じゃないのか!?
残念ながら、ヤツ等の寒さへの耐性は、分厚い脂肪も理由の一つなのだろうが、何よりも特殊な毛皮にあったようだ。
保温機能が高いって事なのか。
ガッカリだよ。
そうなると……どうしようか。
多少凍ってもキャタピラなら動かせるだろうが、メンテナンスが大変になる。
スキー板のような物を設置する事も考えたが、直線移動しか出来ないとなると、この大きな箱で移動するのは酷く困難だろう。
森の中のように入り組んだ地形の移動を諦めなければならないし、段差があったら板が破損しそうだ。
残念ながら、ゴムに準ずる素材がこの世界には無いんだよな。
少なくとも、ゴムの木の発見には至っていない。
一応妖鹿の血液を加工すると伸縮性に富んだ素材を生成出来ると習った。
けれど、この辺に妖鹿は出没しない。
アレは比較的温暖な気候を生息域としているからだ。
この世界にある素材でゴムの再現は可能だが、穴が空いた時の修復が出来ないとなれば、大問題だ。
箱自体は軽いから、引きずって帰る事は不可能ではない。
しかし大量の獲物を乗せた場合は、その限りではない。
移動距離が嵩んでいる帰り道程、パンクの可能性は高まる。
せっかく命懸けで仕留めた獲物を、泣く泣く手放さなければならないなんて事、あってはならない。
お腹を空かせて待っている子供達に、たらふく食わせてやって欲しいじゃないか。
何か周辺で獲得可能な代替品は無いだろうか……
……おや、面白い。
ゴムを「創造」して鑑定眼で見てみれば、興味深い事が書いてあった。
地球でも鹿とイルカが同じ鯨偶蹄目に分類されていた事を考えると、当然の流れなのだろうか。
角骸鯨の血液にも、同じような性質があるらしい。
血のソーセージを作って食べている事を考えると、少々申し訳ない気もするが、狩りに赴く範囲が広がるならば、食糧事情も改善するだろう。
たまの破損時の修復に使用する程度は、諦めて貰おう。
ならばと言う事で、普段は萎ませて使用する時だけ膨らませる、スノーチューブを足下に取り付ける事にした。
風の精霊術が使用出来るようになれば、すぐに膨らませられる。
ソレが無理でも、地道に空気入れで膨らませてくれれば良いだろう。
流石にコンプレッサーを与えたら、バカな事をしでかすヤツが絶対に出て来る。
ガスの補充方法も無いし、自動で空気圧の調整をしてくれる空気入れは与えられない。
施設でも何年かに一回は、仲間内で遊び半分にケツに口金を突っ込んで、内臓破裂による死者を出す、事故なのかイジメなのかが起こったものだ。
加害側は単なる悪ノリのつもりなのだろうが、数秒で重機のタイヤの空気圧を調整出来るような、高圧対応の物だ。
そんな事をしたら、人間の身体なんて一瞬で破裂する。
助かるワケがない。
考えれば分かる事だし、考えなくても常識と良識のある者ならばしない。
なのに、定期的に起こるのは何故なのか……
理解に苦しむ。
手動の物でも、そういう事故が起こらないと断言は出来ない。
しかし後戻りする時間の余地が与えられる分、まだマシだろう。
試しにカノンに手動で入れさせてみた。
しかし何畳分かの広さのトレーラーハウスを支えるとなると、ゴムチューブは結構な大きさになる。
なかなかに、大変なようだ。
足踏み式と両腕を使うフロアポンプの両方を渡したが、空気圧が高まるにつれてかなりの力が必要になり、途中で音を上げた。
肩で息をしているから、かなり頑張ってくれたのだろう。
お疲れ様です。
しけし空気圧が適正でないと、チューブの接地面が増えて摩耗しやすくなる。
つまり破損しやすくなるから、出来ればもっと入れて欲しいのだけれど……
まぁ、良いか。
多過ぎたらソレはソレで、ゴムの弾力性が増して跳ねるようになるから、中で待機している人達が酔う事になる。
可能な限り多く、と説明する程度で良いさ。
角骸鯨はこの辺ではメインで食べられている。
つまりよく手に入る魔物肉という意味だ。
現地調達出来る材料で補修は可能なのだから、どうにかなるだろう。
乱獲して絶滅させないようにだけ注意しておかなくちゃだね。
ヒョロいカノンでも、トレーラーハウスは移動させられるのか、他に改善点は無いか。
試させるために、俺は中でヌクヌクと過ごし、カノンには頑張って箱を引いて貰った。
空気入れで疲れたなんてグチは、聞こえないフリだ。
快適、とは言えないが、まぁ馬車と比べれば安定した乗り心地なのではなかろうか。
ゴム万歳。
他に改善点は無さそうだし、コレで新オプスクリス開拓村の設備は完成って事で良いかな。
戻ったら瑞基に仕様書を渡そう。
琥珀からはまだ連絡が入らないからと、ソコソコ遠出をした出先で狩りをして、箱の中にタップリとお土産を積み込んだ。
久しぶりに思いっ切り、制限もない、人目も一切ない自然の中で暴れ回れたので、良いストレス解消になった。
途中でカノンに解体が手間になる量だから辞めろと、静止が掛けられてしまったけれど、四次元ポシェットがあるからその心配はご無用だと言って継続した。
そのカノンは、オプリタス大陸の固有種である草花の観察をしていたようだ。
なかなかに有意義な時間を二人とも過ごせたように思う。
「帰りはお前が引け」と、トレーラーハウスの移動を押し付けられてしまったのがだけが不服である。
移動している最中に琥珀から念話が入ったので、途中で転移させて貰ったけどね。
コレはズルではない。
待ち人を長時間待たせてはいけないという、気遣いからの行動なのだよ。
特に女性を待たせるなんてしてはいけないからね。
致し方ないのだ。
そう詭弁を述べたら、流石に深い溜息を吐いて呆れられた。




