神さま、赤面する。
男としての要素も持っている以上、女性に恥をかかせてはいけないし、女性の尊厳を損なうなんて以ての外だ。
トイレ休憩を入れてから再度席に着く事になった。
「何なら似合うお洋服も用意したから、着替えて来ると良いよ」
そう言って送り出したが、下着のサイズはMで良かっただろうか。
セクハラで訴えられないか、ドキドキだ。
瑞基を見送った後脱力してしまった事で、俺の空元気を察したのだろう。
琥珀がお茶を淹れ直してくれたり、カノンが部屋を散策したりとする間、俺に声を掛けてくれたけれど、上の空な返事しか出来なかった。
アイツが死んだ事は、受け入れていた。
だって、燼霊になってしまっていたし。
三英雄の物語でも、余り語られていなかったし。
だがあくまで、この世界に来てから亡くなったのだと思っていた。
言っては何だが、強いよ?アイツ??
「スキル」を奪おうとした時の戦いでは、少しでも気を抜いたら、奪えないままに殺されていたか、拘束され‘’計画‘’が頓挫し失敗に終わっていただろう。
なにせ殺す事に長けた「完全破壊」のスキルを持っているんだもの。
向かう所、敵なしだよ???
俺が死ぬ、その時までアイツは間違いなく生きていた。
満身創痍だった基未と徹が何かしたとは思えない。
そもそも、二人にアイツをどうこうする理由が無い。
アイツは燼霊となっても、俺を認識していたのだから、前世の記憶を持っているだろう。
本人に直接聞ければすぐに分かるだろう。
だが生憎、ニブルヘイムへ続く門は閉ざされている。
門番をしている闇の精霊に開けて貰ったとしても、燼霊と凶悪な魔物だらけとなった死の土地に足を踏み入れ、無傷で戻って来られるとは思えない。
そもそも破壊衝動の塊みたいになっている燼霊と対話を試みた所で、会話が成立するとは思えない。
文字通り、世界もソコに生きるヒトも、何もかも全てを壊し尽くしたいと、心から願っているんだもの。
どうせ死ぬのだから言葉を交わす意味が無いと、無下に扱われて終わる。
対峙した時も、以前とはまるで全然違う雰囲気だった。
精霊と同様、見た目が生前とさほど変わらないから、余計に混乱する。
……正直、今の状態のアイツとは、会いたいと思えない。
‘’俺の欠片‘’として、俺の記憶の断片は、霊力の塊として世界中に散らばっている。
そのため、アイツへ抱いていた恋心なんかも、俺の中から失われているらしい。
だから尚更なのだろう。
恋愛関係にあったのだという情報と、大切な人だったという事実しか俺の中には残っておらず、ソレが余計にアイツに対する不信感や、嫌悪感に繋がってしまっているのだ。
元燼霊である氷の精霊や元素の精霊に話を聞くと言う手は、一応あるか。
元素の精霊なんかは、俺の感情の一部を受け継いでしまったがために、アイツにエラい執着していたし。
アイツの今際の際の様子を、誰かから聞き出しているかもしれない。
しかし二人共、燼霊だった頃の破壊衝動を消してしまったら、その部分が燼霊として存在する根幹だったようで、記憶も曖昧だしスッカリ性格も変わってしまった。
しかも真逆の存在である精霊になったために、本人もまだ少々混乱している。
あの二人も、まともに対話が可能なのかと考えると、微妙なんだよね。
……こんな悶々とした気持ちになるのなら、ちょっとした思いつきで質問なんかしなきゃ良かった。
後悔ってホント、先に立たないな。
仕切り直して、瑞基の中で琥珀を基と思うのは自由だけれど、正確に言うのであれば別人である事のクギを琥珀が改めてさして、精霊に会った際、前世の名前は金輪際口にしないようにと注意をした。
浅葱が非常に可哀想な事になっているからね。
是非とも気を付けて貰いたい。
琥珀も他人の体で接すると宣言した時、瑞基の瞳が、僅かに揺れた。
分かったと口にしても、理解したつもりでも、心が拒絶する事は、ある。
先程その事実を、噛み締めていた所だ。
俺は親に対して良い思い出なんて無い。
だから再会しても懐かしいとか甘えたくなるとか、そういう気持ちは無い。
けれど……
白くなるほどに握り締められた手を見ると、心を隠すように忙しなく動かされる指先を見ると、せっかく相思相愛、では無いが、想い合える相手がいるのに、勿体ないと感じてしまう。
親子だろうが恋人だろうが、関係は人それぞれだが、それだけお互いに同じ位の熱量で想い想われる事って、早々無い。
奇跡と言っても過言では無い程の幸運だと思う。
ようは目撃者がいなければ、何かが起こったと証明出来ないんだろ?
「俺はカノンとこの施設に足すべき物が無いか、確認をしてくる。
燼霊のせいで中途半端な仕上がりになっちゃったから、どれだけ時間が掛かるかは分からない。
琥珀は精霊だから、人間の営みの普通の基準が分からないだろう?
着いて来るな。
瑞基はまだ落ち着いていないようだし、お前が見守ってやってくれ。
終わる前に念話をする。
お前も、何かあったら話しかけろ」
『――君が気を遣う必要は……』
「そうじゃねぇよ。
そもそも、必要か不要かなんて、誰かが判断するようなもんじゃ無いんだよ。
機会が与えられたって事は、必要だから巡り合わせられたって事なんだ。
必然性ってヤツだな。
あと、俺に気を遣われたとか思うなら、ソレはソレで良いよ。
父親を殺した俺が、その娘に気を遣うのは、当然なんだから」
カノンの腕を取り無理矢理立ち上がらせ、引きずるようにして隣の部屋へと移動した。
琥珀の用事が終わり、念話で話しかけられるまでの時間潰しをしなければならない。
まぁ、わざわざやる事を無理矢理考えなくても、トイレや風呂、キッチンに解体場のチェックをして貰い、トレーラーハウスの切り外し方を教えて実際にやらせてみて感想を聞いていたら、良い感じの時間になるだろう。
結構力仕事だしコツもいるから、初見で出来るものかカノンに試して見て欲しいのも、事実あるし。
ソレでも時間が余れば、外へ行って狩りでもして来れば良い。
地下に避難させられた人達は、着の身着のままでオプスクリス開拓村から逃げて来た。
最低限必要な物質は創って置いてあるけれど、何百人という人数の生活を何日も保障出来るような量は確保していない。
特に食料は「万物創造」で創っても美味しくないから、サプリメントしか用意していない。
それでは子供達が満足出来ないだろう。
食物繊維とタンパク質はサプリじゃ補えないから、余計にね。
扉を閉める時、横目でチラリと見れば、困ったような表情をしながらも、琥珀が瑞基に向かって両手を広げていた。
最初からそうやって、思いっ切り甘やかしてやれば良かったのに。
私欲に走った後ろめたさを感じるのなら、尚更娘本人が望む事を贖罪としてやってやれば良いだけなのだ。
難しく考えるから、ややこしい事になるんだよ。
「……お前、いい奴だな」
「うっわ。
そう思われんの、反吐が出る程イヤ」
口角を思いっ切り下げて顔全体でイヤですアピールをしたら、思いっ切り溜息を吐かれた。
だが実際、俺はイイ奴なんかではない。
そんな聖人君子に使うべき形容、俺には全くもって当てはまらない。
俺は二人に何か施しを与えたなんて、微塵も思っていない。
基と瑞基の幸せを奪った、その罪滅ぼしの機会を、俺が与えて貰ったたけだ。
勘違いしないで頂きたい。
……それに、場を与えるだけで済ませられるような、軽い罪ではない。
本来なら二人は、この世界で親子で手を取り合い、幸せに暮らす未来があった。
なのに俺が、ソレを奪ったのだ。
基が瑞基の旦那に「お前に娘はやらん」と親バカを炸裂させる機会も、孫や曾孫を抱いて表情筋をだらしなくさせて爺バカになる権利も、何もかもを死という最悪な形で侵害した。
浅葱や 紅曜を含めた、精霊皆がそうなのだ。
……俺がもっと、完璧な形で生まれて来ていれば、誰も死なずに済んだ。
皆が優しいから、その事実や恨み言を言わないだけだ。
蔑んで罵るその資格が、皆にはあると言うのに。
「俺からしてみれば、お前は十分に優しい。
本来ならば、世界が抱えた問題なんて、一人の人間、しかも子供に押し付けるものじゃない。
お前はもっと、反抗的な態度に出てもよかった。
なのにそれをしようとしなかったのは、何故だ?」
「そんなの、俺がそのために作られたからで……」
「そんな役目なんて知ったことではないと、突っぱねることも出来ただろう?
お前には、それだけの力がある。
……お前は、自分が考えうる限り、最低限の犠牲者で済むように行動したんだろう?
それを優しさと言わず、なんと呼ぶ」
そりゃあ、その方が効率的だからであって……
決して優しさとか、思いやりとか、そう言ったものでは……っ
なんとも面映ゆく、筆舌に尽くし難い感情が入り乱れてしまったため、頭を掻きむしる。
だぁっ!
もうっ!!
「俺の事ぁどうでも良いの!
サッサと行くぞ!!
どうせ非常識だ何だって難癖付けんだろ!!?」
「はあ……不器用な奴だな」
「うっるせぇっ!!!」
背中を思いっ切り平手で叩き、悶絶するカノンを置き去りにして、両手を思いっ切り振りながら、奥へと進んだ。




