神さま、凄む。
瑞基に俺への恨みが無いか確認した事によって、ウッカリ後ろから刺される心配が無くなった。
なので俺が地球で死んだ後、この世界で意識を取り戻して以降の話を、ザックリと彼女に説明をした。
琥珀も、瑞基の記憶は消さなくて良いと判断したようで、静止は掛からなかった。
もし消させるつもりなら、俺の手間を考えて、最初から説明させないからね。
何故か気が付いたら死んだ前後の、瀕死の状態でこの世界に転移していた事。
カノンに拾われて、介抱して貰った事。
精霊になった皆と再会して、カノンと旅をした事。
その道中、灯や基弥といった、カノンの叔父連中に会ったり、良き仲間に出会えた事。
度々燼霊と相対し、そのトップが三英雄のうちの一人暁であると判明した事。
‘’地球再生計画‘’の邪魔をして、施設ごと地球人をこの世界に転移させたのが、この世界の神である事。
また皆への贖罪の意味や、奪われたものを全て取り戻すために、神にケンカを売るべく行動をしている事も話した。
その奪われたものの中には、崩れ落ちて死んだ地球人も入っている。
瑞基の友人知人も、きっと該当者にいるだろう。
この世界で生きていれば、食事や呼吸を含める日々の営みにで、無意識に微量ずつだが霊力を取り込む事になる。
そして無意識に日々の生活の中で、通常体内の霊力は消費されるのだが、地球人は違う。
地球人は「スキル」を使用する際の感覚と精霊術を使用する時の感覚が非常に似ているため、精霊術が使えない。
身体強化も使えない。
取り込むだけで放出を一切出来ないために、霊力が飽和状態になる。
すると身体が物質の状態を保てなくなり、崩れて死んだように見える。
そうやって死んだと思われた地球人は、大勢いる。
杖や装備品を、持ち主が霊力を込めて飽和させれば、霧散させ質量を感じる事なく持ち運びが可能になる。
いわゆる、‘’まとっている‘’状態だ。
それと同様、地球人もこの世界にまとわれている状態にあると、俺は考えている。
そしてこの世界の支配権は神にある。
世界から直接取り込んだ霊力の主も、神になるだろう。
装備品をまとった状態から再物質化出来るのは、霊力を込めた所有者のみだ。
なのでこの世界の所有権を神から奪い取り、地球人を再物質化させれば、死んだと思われていた地球人を皆、生き返らせられるのではないだろうか。
そう考えて、神の力を削ぐために神への信仰心をそのまま精霊の皆に移そうとしているのだ。
少しでも弱体化させて、倒しやすくしたいからね。
神の居場所が分からない今、出来る行動は限られている。
限定こそされているが、やる事自体は山程ある。
瑞基が協力してくれるなら、オプリタス大陸で確固たる地位と信頼を確立している彼女の助力は、非常に有難いのだ。
百人力ってヤツだね。
俺なんぞを崇拝し布教活動する時間があるなら、是非ともその労力を精霊信仰の促進にあてて欲しい。
「その復活者の中には、お父さんも、お母さんもいない、んですよね?」
「あぁ。
二人共地球にいた頃に既に亡くなっているし……魂は、既に別の存在に転生している。
……そう、なんだよな。
崩れて死んだっていう地球人を直接見ていないから、なんとも言えないんだけど、地球人達の肉体は再物質化して取り戻せたとしても、魂が既に輪廻に還っていたら、本人としては復活させられないんだよな。
そこん所、どうなってんの?」
『――……残念ながら、教えられない』
神から制限を受けている行動に抵触するのか。
まぁ、魂なんて科学的に証明出来ないような不確かな存在が実際にあるという事も、ソレの行方を精霊が管理している事も、本来なら人間が知るはずのない情報だ。
おいそれと口にして良い話題では、確かにないか。
魂まで世界に囚われて、この世界の理から外れて来世が与えられないなんて事になっているのなら、理不尽以外の何物でもない。
もしそうなら、この世界の神をぶん殴る理由の一つに追加しようと思ったんだけど。
チッ、命拾いしたな。
だが、ルイーナ街で施設で多少だが交流のあった人物の、転生した人物を見かけたんだよな。
ソレを考えると、他の地球人達も、魂はとうに輪廻に還って次の世、ソレすらも終えて次の次の……と、この世界のシステムに組み込まれている可能性は否定出来ない。
「瑞基は、リック軍曹……あぁ、流石に昇格しているか。
リック・カワードは知っているか??」
「リック……?
……川渡理久曹長?」
アイツ、何年後の階級かは知らないけど、全然昇格出来なかったんだ?
お人好し過ぎる上に、ドン臭かったもんな。
「そう、ソイツの最期ってどんなんだったか知ってるか?
ルイーナで転生者に会ったんだよ」
「そういうの、分かるんですか?
さすが神!
ええと、川渡曹長ですね。
彼はこの世界に転移して早々に、魔物に襲われている子供を助けようとして、子供諸共死亡しています。
曹長に限らず、結構いますよ。
魔物や魔族に殺された地球人は」
突然のヨイショの後にアッサリと告げられた重い事実に、少々戸惑う。
ある種平和な、閉ざされた外敵の無い世界で生まれ、ソコで育ったのだ。
生存権を奪われる緊張感こそあったけれど、ソレを恐れて、ケンカのような衝突も少なかった。
そんな平和ボケをしている人間が、理性の無い加害性の塊のような存在と相対した時、生き残れる確率は如何程か考えた時……限りなく低いのは、考えれば分かる事だった。
いくら「スキル」があるからって、すぐに適応して戦う事に活かせる人がどれ程いたのか。
俺の親しかった人達は皆、今も生きているか、近年まで生きていたか。
少なくとも、転移した直後に亡くなったという話は聞かなかったから、失念していた。
「……それこそ、暁は?
アイツは今燼霊になっているけど、いつ亡くなったんだ??」
当然のように、俺は殺していない。
他でもない、アイツを生かすために‘’計画‘’に乗ったのだ。
てっきり俺の事なんぞサッサと忘れて長生きして、基未と徹みたいに子供の一人や二人、なんならもっとこさえてくれるものだと思っていたのに。
燼霊になっている位だから、過去に亡くなっているのだろうけれど、それが、いつ、どのタイミングかは不明なままだ。
何か知っているなら、教えて欲しい。
そんな軽い気持ちだった。
「大佐は、明夜様が弑したのではなかったのですか……?
そう、伝わっていますが」
「……は?」
「殺気を漏らすな、馬鹿者」
地球時代の事は微塵も分からないため、隣で大人しく聞きに徹していたカノンだが、つい癇に障る言葉を言われて湧き出た怒りに、即座に反応してチョップを側頭部にしてきた。
その衝撃にハッとすれば、向かい側のソファの上で、泣く寸前の瑞基が縮こまって震えていた。
そうね。
子供をガチ泣きさせて、つい、じゃ許されないよな。
「ごめん」
大型の魔物を前にした子供のように、絶望を顔に貼り付けたまま震える瑞基に謝罪をした。
だけどそんな、目に涙を浮かべながらガクブルしなくても良いじゃない。
そう思うが、俺はこの世界に適応し過ぎてしまっているせいで、魔物に対しても効果があるように、霊力や魔力を感情に乗せて自然と発露する技術を身に付けている。
そのせいで殺気にあてられると、本能的に逆らってはいけないと脳が判断し、降伏体勢を取るか逃げるか……
相手は生存するための最適解を取ろうとするのだろう。
もしくは諦めの境地に至る場合もあるだろうが、と瑞基を見ながら解説された。
なるほど。
ソレは申し訳ない事をしてしまったな。




