神さま、赤面する。
『――私は、君の父親ではないよ』
「それは……分かって、います」
琥珀は精霊故、ウソを吐く事は出来ない。
しかし事実では無いが、ウソと断言する事も難しい。
そんな曖昧な表現なら、ギリギリ許されるらしい。
度々基に関する話をするたびに、琥珀をチラ見していた瑞基に向かって、いい加減煩わしく感じたのだろう。
今回も絶妙に「ウソを吐くな」とはツッコミにくい言葉を吐いた。
琥珀は前世が基だし、その頃の記憶も持ってはいる。
けれど事実、基自身では無いんだもんなぁ。
ソレは直接手を下した俺が、一番よく分かっている。
基は間違いなく、死んでいる。
しかし他人の空似なんて言葉では誤魔化せない程に、非常に見た目の共通点が多い。
ベースは前世の姿、そのまんまだ。
時の精霊や光の精霊みたいに、結構歳がいってた人の外見年齢は若返っているけれど、目鼻立ちを含めた顔の作りは、一切変わってない。
前世では刈り上げられていた黒髪は、今は精霊全般共通の容姿といえる長髪になっており、後ろで一つに束ねられ、輝かんばかりの琥珀色をしている。
瞳も同様に、黒に近い茶色から、透明度の高い飴色になっている。
だから受ける印象は、その色味のせいもあって変わって見える。
服装はだいぶ異なっている。
前世では動きやすさを重視した、見た目が軍服に近い、キチッとした印象の詰襟姿が通常だった。
今の俺の格好も、ソレに近い。
浅葱のような、ヤンキーカブレというか、ちょっとヤンチャなヤツや運動後なんかは気崩している人もいたけれど、基は常にお手本のように全てのボタンと首元のホックまでシッカリと留めていたタイプだ。
精霊神として姿を顕す時は、身体のラインがクッキリと分かるような、全体的にフィットしたデザインの衣装を身にまとっている。
この世界の神の趣味なのだろうか。
レースやシフォン生地のように透け感のある生地が主体として使われており、要所要所に裾や袖は、ヒダが細かく取られており、見ようによっては神々しく映るだろう。
前世を知ってる俺は、指をさして爆笑してしまいたくなるが。
流石にもう見慣れた。
こんなヒラヒラな体型がモロに分かるような服を着ている姿なんて微塵も想像しなかったが、意外と皆似合うのだもの。
不思議だよね。
精霊という、人ならざる者に対する先入観によるものなのだろうか。
受肉している今は、ヒトの冒険者のような格好をしているので、神々しさは損なわれているが。
それでもやはり、生前の姿と比較した時とは、どこかちょっと違うんだよな。
外見年齢は二十歳過ぎに見えるので変わらないのだけれど……
中身が何百年も生きている上、人間とは違う価値観の存在だからなのだろうか。
まとっている雰囲気が、全然違うんだよね。
そのせいできっと、基の横に並べたとしても、一卵性双生児の兄弟のように見えてしまうに違いない。
俺と元素の精霊のように。
似てはいるが、やはり、別人なのだ。
基の人生は何百年も前に地球で終えているけれど、琥珀の生は何百年も前から、この異世界で、今も尚続いているのだ。
彼に近しかった人程、違和感を覚えるだろう。
だから幼少期の記憶しかない瑞基でも、父親と断言するには、引っかかる部分があったのだろう。
直接琥珀本人から釘をさされて、納得はしたようだ。
寂しそうな顔をして、顔を伏せた。
しかし項垂れてギュッと一度、両手を膝の上で握った後、その双眸を再び琥珀に向けた。
「分かってはいます。
ですが……敢えて言わせて下さい!」
キッと睨み付けるような真剣な眼差しで琥珀の姿を捉えた瑞基は、すっくと立ち上がり彼の前で跪いた。
そして騎士にでもなったかのような所作で、スっと右手を琥珀に向けて差し出した。
目を閉じて一つ、聞こえる程の大きな深呼吸をし、心を決めたのだろう。
再び開かれた目は、とても強い意志の力に満ちていた。
「明夜様を祀るための、ファンクラブの会員になりませんか!?」
「なぁに言ってんだっ!」
『――ぜひに!』
「是非じゃねぇっ!!」
スパパンッと、二人同時に左右からハリセンで後頭部をぶっ叩く。
お前等マジメな話をしようとしていたんじゃないのか!?
どんな思考回路をしていたら、そんなクソ下らない話をする事になるんだ!!?
『――くだらなくなんてないよ。
とても重要なことだ。
そこに気付くなんて、さすが……だね』
「お褒め頂き恐悦至極に存じます!
そう!
父さんであろうとなかろうと、関係ないのです!
琥珀様?の明夜様を見つめる視線から感じ取れる思想は、お父さんそのもの、もしくはそれ以上に崇敬する相手に抱く、敬愛以上の念がこめられた眼差しでした。
そう!
顔面偏差値一一〇を超えるその美貌は、直視すれば殺されかねない程の威力を持っております。
それが故、敢えて目は直接見ずに天門へとズラすその技巧!お見事と言う他ありません。
気絶するのを抑えた上、軽い運動をしている心拍数を維持し続けられる興奮状態を保ち続けられ、更にはストレスから解放されるおかげで寿命が伸びるライフハック!
神を信仰する上で必須事項となる直視不可の所作を自然体でしてのけるその素養!
これはもう、ファンクラブに勧誘するしかないじゃないですか!」
……何を熱弁してんの?
そして琥珀は何を頷いているの??
なんなの、この親子???
そもそもこの世界においても、無くなる前の地球においても、人口一〇億人とか居なかったからね?
偏差値一一〇とか有り得ない数値を言うんじゃありません。
八〇でもおこがましいのに。
俺の顔面がたまたま、この親子の好みの作りをしているだけという話だろうが。
見た目の善し悪しなんて、人それぞれの感性の問題なのだ。
そんな仰々しい比喩をされたら、申し訳なさで胸が締め付けられるから、辞めて頂きたい。
ちなみに俺のファンクラブの会員数は、瑞基一人だけとの事。
当然である。
どの世界に、世界に仇なす敵である魔王を崇拝しようなんて酔狂な事をする人がいるというのか。
あ、今琥珀が入ったから二人になるのか。
どっちみち、そんな少人数の存続する価値のない後援会なんぞ、解散してしまえ。
クラブって言うくらいなのだから、団体様じゃない限り許されるないぞ、その名称は。
「……なに?
瑞基は父親のノートを読んでたら洗脳されちゃったとか、そういう事なの??」
「他でもない明夜様のお言葉を否定するのは大っ変申し訳ないとは思いますが、違います。
明夜様は……私が幼い頃、共に過ごしてくれた日々を、覚えておいでですか?」
「そりゃ、俺にとっては、一年前の感覚だからなぁ」
「そうなのですか?」
……ん?
何でソコ疑問に思うの??
あぁ、俺がこの世界に転移してカノンに拾われたって言葉がだと思われているのかな。
話の流れををぶった切る事になってしまうが、俺の身に起きた事を話すその前に、瑞基には、確認しておかなければならない事がある。
「瑞基はさ、俺の事、恨んで居ないのか?」
「?なぜです?」
「何故って……
お前の父親も含めた上位のスキル保持者を殺した犯人は俺だって、知っているだろ?
父親が死んだ後、母親も後を追うように亡くなっている。
お前の幸せな家庭を壊した犯人は、他でもない俺だ。
恨んで、当然だろ??」
「ああ、そんなことですか」
イヤ、そんな事の一言で片付けちゃいけない事だと思うんだけれど。
なんでそんなアッサリとしてんの。
「お父さんは、施設では本来なら負わなくていい、父親としての責任を、ずっと果たしてくれました。
全部他人任せにするのが当然な中、私を娘として愛してくれました。
その上、愛し愛される喜びまで教えてくれました。
そのお陰で私は、他のメンバーと違い、この世界に転移をした後、比較的早く打ち解けることができたのです。
愛情って、お父さんが私に与えてくれた、とても大切な財産なんです。
……それだけで、十分なんです。
お父さんは、最期は父親としてではなく、一人の人間として、自分のやりたいことを優先した。
それだけのことなんです。
……そう、日記にも書いてありました。
私ではなく明夜様を優先したお父さんの気持ちも、分かりますから。
お父さんのことも、恨んでいません。
与えられた仕事を全うするために、お父さんの命を奪った明夜様のことも、恨めません。
そのおかげで、私は今こうして生きていられるのですから。
何より……明夜様は、私の、初恋の相手ですから。
好意以外、抱いたことなんてないです。
なんか、許してしまえるんですよ。
よく言うでしょう?
惚れたものの負けだって」
『――将来は、お父さんと結婚するって言ってたのに……!?』
こら、基がはみ出てんぞ。
他人のフリをし通すんじゃ無かったのか。
「そんなの、物心がつく前の話でしょう?
少々照れ臭いし畏れ多いですが、私の初恋は明夜様なのです。
だって、惚れるなって言う方が無理ですよ。
見た目は麗しく声も美しい。
ちょっと陰がある所なんかも魅力的にうつりますし、何より私には優しかったですし。
……だから、明夜様の風評被害が酷かった時には、辛かったですね。
基未オジサン達も、だんまりでしたし」
「あぁ〜……
遺言を遺してあったからな。
その通りにしてくれたんだろ」
『――え、何それ、聞いてない』
お前が死んだ後に遺したんだから当然だろうが。
自分が知らない事があるのが嫌なのだろう。
ストーカー気質がある事が露呈した今、隠す気も無いのか、ガン決まりな目で『何ソレ、詳細求ム』と詰め寄って来た。
目が怖い。
作りモノの身体だから、血走る事がない分、全開になっている瞳孔が超怖い。
決戦前夜、基未、徹、暁のいずれかの生体登録証を使って、一度しか再生出来ないようにした動画を撮影し、俺の部屋に遺してあったのだ。
その時点では、「闇のスキル」と「光のスキル」を手に入れていなかったので、‘’地球再生計画‘’が成功するか否かが不透明だった。
三人を殺して「スキル」を奪うつもりは無かったが、何かの手違いで――それこそ、「闇のスキル」の持ち主が俺の謀反を察して、誰かしらが殺される可能性もあった。
そうなれば計画が頓挫したまま、俺が死ぬ未来もあったのだ。
そのため格好悪いお願いになるが、その尻拭いを頼む内容を遺した。
それに併せて、‘’計画‘’が成功した時に使えるだろう、上層部の悪事をマルっと暴露するデータをまとめた記憶媒体の場所と、その解除キーの入力方法も録画してあった。
まぁ、あとは、謝罪だな。
逆らう事が出来なかった事は事実としても、最終的に俺は、自分の意志で‘’計画‘’への参加を決めて、遂行した。
基未なんかは、兄と弟をいっぺんに喪ったのだ。
謝って許される事ではないが、恨みの矛先として、やった事を明言しておく必要があった。
そのために、俺が‘’計画‘’のために奪った犠牲者達の名を、動画の中に残した。
あとは、徹は女性だからな。
「スキル」を奪う際の条件として、血液の交換が必要だったために、無傷のままではいさせてやれないのは、決定事項だった。
加減を間違って、嫁入り前の身体に残るような傷を負わせてしまう危険性もあったから、謝罪をしておいた。
まさかその時は、俺が行ったのが「スキル」を奪うのではなく、コピーをする方法だったなんて思いもしなかったから、「再生」のスキルを俺に移動させた後は治せないと思っていたのだ。
治したかどうかは、今となっては確認する手段はないけれど。
傷を負わせたのは事実だからな。
誠心誠意、謝るしか出来ないから、謝罪の言葉を述べさせて貰った。
一方的な主張に、遺言を観た人物は、さぞかし腹が立った事だろうな。
誰が観たか知らないけど。
色々俺のせいで辛い思いをさせるであろう事への謝罪の他には、施設の日々の運営に必要なスキル保持者を犠牲にした事で生まれる弊害と、その解決方法に関してなんかも遺したかな。
あとは……生まれ変わった地球は、きっと自然豊かな、素晴らしい世界になっているだろうから、次こそ正しく、人類と地球が共存出来るような世界の仕組みを作って欲しい、なんて、大それた事をお願いしたりもした。
そして、幸せになって欲しいと。
……まさか施設が、異世界に転移するだなんて、思いもしないじゃないか。
しかも地球はその異世界の神によって滅ぼされちゃってるなんて、誰も想像出来なかったってぇの。
振り返ってみると、エラいトンチンカンな遺言を遺してしまったものだ。
なんて恥ずかしいんだ!
穴があったら、なんて他力本願な行動じゃダメだ。
自主的に穴を掘って埋まりに行きたい。
振り返った今、顔から火が出そうな程に後悔している。
なんであんなモノを遺してしまったんだ、俺は……!!
一人思い返して悶絶していたら、方々から「若いなぁ」なんて呟きがかけられた。
えぇい、この年寄り共め!!!
生暖かい目で見るな!!!!!




