神さま、バレる。
「またお前は、非常識なことを……」
コンテナハウスを幾つもくっつけたような、新オプスクリス開拓村(仮)の地上部分に移動した途端、溜息と同時にカノンの口から漏れたのはお小言だった。
たった数時間で創ったのだから、ソコは褒め讃えろよ。
それにこの程度で非常識と言って貰っては困るな。
トレーラーハウスのように牽引出来るようにしたかったため、この家は区画ごとに切り離しも可能なんだぞ。
そしてそれぞれが人力での移動も可能な程、軽い素材となっている。
通常はストッパーが降りている上、地面と金具で接続されているので、強風によって動く心配は不要だ。
オプリタス大陸は外気温がプラスになる事がほぼないため、野宿をするのが非常に難しい。
俺やカノン並に装備品を整えられて、命令せずとも精霊に自主的に守って貰えるような術師でなければ、寝る事が出来ない。
寝てしまえばその瞬間永眠が確定する。
そのため村人達も、食料を求めて遠出する事が出来ずに、日々ひもじい思いをしても耐えて来たのだ。
土の中だと家畜を育てるのも大変だったみたいだし、慢性的にタンパク質と脂質が不足している。
育ち盛りの子供達は、かなり辛かっただろう。
ならばソレを解決するにはどうすれば良いか。
簡単だ。
野宿が出来るようになれば良い。
しかし遠出が出来るようになったら出てくるのが、狩った獲物をどうするかという問題だ。
外に出しっぱなしにしていたら、他の魔物に持って行かれるか、食い散らかされる。
賢い魔物がいた場合、ヘタをすれば、出入りする所を襲われて全滅しかねない。
だからといって室内にずっと解体せずに放置をしていたら、徐々に腐っていく。
肉質が落ちないように、すぐに解体出来た方が良いだろう。
冷蔵庫もあるのだし。
そう思い解体設備を整えたトレーラーハウスは全て、任意の区画で区切って切り離しが可能になっている。
大人数で一気に狩りをするなら二、三区画分の解体施設ごと移動すれば良い。
少人数で行動するなら、一区画分だけ切り離して壁を設置して、移動させられる。
キチンとした手順に則って作業を行わないと隙間が出来てしまうけれど、逆に言えば定められた順番を遵守して行えば、隙間が生じる事なく、安全に移動が可能になる。
アチコチ四角く区切ってあるのも、複数の区画を同時に切り離した際に、万が一幾つかの区画が戻って来られなかったとしても、合体させられるようにという俺の気遣いだ。
土や木材で家を造るのが当たり前の世界では、この様相は無機質な感じがして、違和感を覚えるだろう。
だが断熱性は命に関わる部分だ。
機能を優先させて貰った。
ソレを非常識と言うなかれ。
時代の先端を行っているのだよ。
村に設置した方陣から、地上に出られる方陣の術式を頼りに転移をした。
そのためメインとなる居住区へ行くために、少し移動しなければならない。
先導するべく方陣から一歩踏み出したが、クンと後ろ手を引かれた。
瑞基が未だに、俺の手を握っているからだ。
「瑞基、ココは寒いだろ?
移動しないと凍えるぞ」
「え、……ぁ、はい!」
七代も離れていれば、似ていないのも当然かと思っていたが、無意味に元気な返事をするあたり、瑞基とセリアは似ているのかもしれない。
姿形は変わってしまったが、ギュッと手を握り返す時に思わず両手で俺の手を掴んで慌てる様子とか、幼い頃のまんまだな。
フッと、つい笑みが零れる。
この記憶を消してしまうのを少々、惜しいと思ってしまうくらいには、今の瑞基にも親しみを感じてしまっているらしい。
記憶なんて情報は、いくらあった所で、それを一緒に懐かしむ人がいなければ、価値は半減してしまうものだからね。
俺が魔王だと知っても、怨念の籠った目で見て来る事はない。
ならば記憶をイジるような事はしなくても良いのかと考えるが、琥珀がな……
彼が嫌がるなら、俺は瑞基が泣いて縋っても「闇のスキル」を使う。
優先順位は、琥珀の方が上だからね。
なにせ瑞基は氷の精霊の娘だもの。
厄介なストーカー気質を受け継いでいたら、長年続けているオプリタス大陸の開拓を放置してでも、琥珀を探しに地の果てまで赴きそうだ。
そのために付きまとわれても困るし。
霊力を込めれば紋様具として、薪を入れれば暖炉としても使えるツーウェイ仕様の暖房器具を、動作確認も含めて全て作動させた。
一気に室内が温められた事で、瑞基の表情が緩む。
常に一定の温度を保てるような道具や紋様具って、何か無いかな。
俺達は外気の温度に行動が制限されないために、熱気や冷気を遮断する付与が装備品に施してある。
そのため特に変化を感じられないが、結構中は寒かったらしい。
外部からの冷気を伝えにくく、中の温度が損なわれないように保温機能を高めていても、常に快適な温度を保てるワケではない。
だからといって、暖房を常につけておくとなると、薪だと安全性の面で危ないし、霊力だと利便性が高過ぎてトレーラーハウスが訪れた冒険者に盗まれる危険性が出てくる。
盗まれるよりも、占領される可能性が高いか。
説明しないと、区画ごとの切り離し方は分からないもの。
そうなると、村人達が外と行き来出来なくなって閉じ込められる事になる。
飢えて死ぬのはかなり辛い。
何か良い方法があれば良いのだが。
「なにこれ!
柔らかぁい!」
「ソファなら村にもあっただろ?
村長の部屋で見たぞ」
「アレは中身が植物の繊維なの。
だからコレよりももっとゴワゴワした感触で……って、やっぱり、アークって明夜様だったのですね!?」
やっぱりって事は、怪しまれてはいたのか。
なんとなく似ている気がしなくもない程度の、気のせいかとスルーしてしまえる程度の違和感しか無かったそうだが。
もしかしてそうなのかな?と感じるたびに、ソッチの思考へ向かわないように、誘導されるような感覚を覚え、次の瞬間には考えていた事がすっぽ抜けてしまう。
そんな事を繰り返していたそうだ。
なので確信は出来なかったと、瑞基は答えた。
認識阻害の付与が成功しているのかドキドキしていたけど、ちゃんと効果があったのなら何よりだ。
てっきり失敗したのかと思って、教えてくれたカノンに八つ当たりをする所だった。
俺の姿と正体を認識した事でその効果が無くなり、今まで思考誘導がされていた部分にかかったモヤが晴れて、明瞭化されたんだな。
つまり正体がバレてしまうと、阻害の効果は切れるんだな。
逆に言えば、誤魔化し続け確信されなければ、効果は持続する。
覚えておこう。
四次元ポシェットから落ち着いて話し合いが出来るように、軽食を取り出す。
実体化した琥珀がその間にお茶を淹れてくれる。
その姿を、いちいち瑞基が顔ごと目で追う。
全く気にした素振りを見せない琥珀の胆力は、一体どうなっているのだろうか。
そして淹れた茶を真っ先に俺の前に置くな。
ソコは娘の瑞基か、年長者のカノンに渡せ。




