神さま、絞られる。
瑞基のあまりの態度にドン引きしていたら、ハッと何かに気付いた彼女は、今度はガバッと手を解いて突然土下座をかました。
「私としたことが、大変申し訳ありませんでした!」
地に這いつくばってはいるが、土下座、ではなかった。
ギリギリ、手がついていない。
何なんだ、そのポーズは!?
そして何なんだ、そのチラチラとコチラを伺う視線は!!?
更に聞いて良いなら、一体何に謝っているんだ、この子は!!!??
理解不能で頭を抱えたくなる。
向けられる視線は熱っぽいものを孕んでいるが、恋愛対象に抱くものとは違う。
なんか、ネットリと絡みついて来るような感覚がする。
背筋に悪寒が走ったので、思わずカノンの後ろに隠れた。
「人を盾にするな」と文句を言われるが、仕方が無いじゃないか。
理解出来ないものって、理屈抜きで恐怖を感じるんだもの。
だが生理的嫌悪のような感覚的な恐怖とは違う、物理的に生命の危機を感じる魔の手が襲いかかってきた。
轟々と音を立てながら、炎がコチラに差し迫ってきていたのだ!
下火になってきたし、濾過装置からの水漏れもあったから、そのうち消えるだろと油断していたのだが、何か可燃性の物に引火してしまったようだ。
考えてみれば、 粉媒楢の枝ってカサカサしていたから、生木っぽくないしよく燃えそうだよね。
あちゃ〜、しくじったな。
俺とカノンは装備のおかげで熱いとは感じないが、コレだけの勢いで燃え盛っていたら、かなり村の中の温度は高いに違いない。
瑞基の熱っぽい視線の理由が、コレである事を祈る。
「転移を……」
「俺がこの格好のままじゃ、その方陣は使えない。
ソレに、話さなきゃならない事が山とあるだろ。
村人逃がしたのとは、別の所に行く」
いつの間にか自分の懐に戻していた、村人達を転移させた避難所へと繋がる転移方陣を、カノンが取り出す。
俺がまた女装した姿になるのは簡単だ。
「スキル」を使えば、化粧も含めて一瞬で出来る。
しかしそうすると、避難所へ着いた途端、ろくな打ち合わせも出来ないまま村人から説明責任を問われるだろう。
村長の姿をした燼霊が人々を襲っている姿を、多数の人が目撃している。
またこれみよがしに見せつけたため、魔王の姿となった俺の目撃者も多い。
全ての事象に納得させられるような同じ証言を、三人が全員事前の打ち合わせ無しで出来るワケがない。
ならば村人達には、不安な夜をまだ暫く過ごさせる事になるが放置をさせて貰い、俺達は互いが別れてからどんな状況だったのか確認し合い、なぜこんな事になっているのかを理解しなければならない。
また、必要ならば瑞基の記憶を改変する処置も必要になる。
そうなると落ち着ける場所の方が良い。
地上に創った、トレーラーハウスのような造りの建物ならば、瑞基を寝かさなければならなくなった時に使えるベッドも設置してある。
カノン達に使い心地の意見も聞きたいし、移動するならそちらの方が都合が良いだろう。
『――おいっ!
お前が生み出した炎だろ、コレ!?
なかなか消せないぞ!』
浅葱が状況説明をするためにだろう。
わざわざ姿が見えるように顕現をした。
彼は誰に言われずとも、消火活動をしてくれていたようだ。
マジメだね。
なのに制御を手放したとは言え、俺が「スキル」と 紅曜の力を借りた合わせ技で生み出した炎だったせいで、ちょっとやそっとの力じゃ消せないらしい。
浅葱は力が増す‘’楔‘’まで設置して、一部とはいえ俺の‘’欠片‘’まで吸収したのに、俺よりも弱いの?
琥珀と違い、神が聞いて呆れるな。
「すぐ移動するから、もうちょい待って」
浅葱に転移までの時間稼ぎをするように言ったら、俺を見ていた瑞基の視線が、ソチラへ移った。
「え、ぁ、 諒翔少尉!?」
「「……あ」」
名前、呼んじゃった。
浅葱の、前世の名前。
『――このガキ……っ!
……あ〜、ムリ……、寝る……』
お怒りの形相になったのも一瞬の事で、フラリと影がグラついた後、休息宣言の後に浅葱はスっとその姿を消してしまった。
大丈夫だろうか。
死んではいない、よね?
さすがに。
精霊は生前の名前を呼ばれると、この世界との結び付きが弱まり、ソレに応じて力が弱まる。
そのため俺も彼等の名前は呼ばないように気を付けていたのだけれど……呼んじゃったね。
肉体を持たない彼らの衰弱は、死を意味する。
そうならないように各精霊の‘’楔‘’を打ち、皆の力を強めようとしている真っ最中なのだ。
生前と呼び名が違うのも、その強化の一環と言える。
この世界での呼称があるという事は、前世と決別しているとか、そういう意味もあるらしい。
だから闇の精霊や時の精霊は他の精霊の皆と違い、呼称が無いために二人はまだ‘’神‘’の階級まで上がっていない。
闇の精霊の守護するこの大陸に来たのは、開拓村の進捗の確認のためもあるが、ソレはついでだ。
本命は、彼に名付けをするためなのだ。
時の精霊は名付けをしてしまうと精霊達の間のパワーバランスが崩れるため、最後にして欲しいと断られた。
氷の精霊と元素の精霊は、生まれたばかりの精霊で、力こそ強いがまだ認知度が低く、存在が希薄なために力ばかりが増してしまうと、霊力を暴走させてしまう恐れがある。
なので後回しになっている。
名付け親である俺は特に気にしていないのだけれど、神の名前を無遠慮に告げるなんて畏れ多いとか言って、カノンなんかは契約を交わした颯茉以外は、名前を呼ばずに広域の精霊全般を差す固有名詞を未だに使っている。
名前なんてそんな大層なものではないんだし、誰も気にしないと思うけどね。
浅葱と 紅曜は既に‘’楔‘’を打ち終えているため、他の精霊よりも強くなっている。
なのでちょっとやそっとじゃ死なないだろうと思うけれど、寝ると言っていたしなぁ。
結構、ダメージ入ったのかも。
フルネームじゃなかっただけ、まだマシだと思って貰おう。
‘’楔‘’を打ち終えた直後なんかがそうだったのだが、著しく霊力が乱れた時、特にマイナスの方に崩れると精霊は‘’寝る‘’という表現を使う。
そこら辺にいる、誰とも契約をしていない野良精霊が寝る分には何の問題も無いのだが、そういう精霊達が束になっても到底敵わない、精霊神である浅葱が寝るとなると、ちょっとマズイかも。
世界規模で天災が起きやすくなったり、水の精霊の力が弱まったり、影響が出る恐れがある。
彼が寝に戻るとすれば、‘’楔‘’を打った場所になる。
本体がソコにあるからだ。
霊力の充填が必要ならば、一旦戻るべきだろうか。
……イヤ、先ずやらねばならないのは、ココからの脱出だな。
「方陣描いてたら時間かかるから。
手ぇ出して」
「え、でも……」
言って左手にカノンの手を取り、瑞基へ右手を差し出した。
さっきは無遠慮にガバッと許可なく手を取ったくせに、差し伸べられた手を取るのには躊躇するとか、どんなんだよ。
人妻で礽孫までいるヤツが、お手繋ぎごときでモジモジと恥じらうな。
追うのは好きだけど、追われるのはイヤってタイプなのか?
……このまま待っていたら、こんがり焼けてしまうのも時間の問題だ。
まごついている瑞基の手をひん掴み、時の精霊の力を借りてオプスクリス開拓村から脱出をした。
暫くの後、 粉媒楢の残骸は全て炎に包まれ、オプスクリス開拓村は水没し、崩壊した。
鱗魔猪の居た区画もそうたが、オプリタス大陸の村は全て、アリの巣のコロニーのように横に繋がっている。
対処をしなければ、村を飲み込んだ水が他の村にも襲いかかり、大惨事になっていた。
……そう、俺達が脱出をした後に全ての対処をしてくれた琥珀に、転移後真っ先に説教をされる事となった。
家畜はまぁ良いかとスルーしたけれど、他の村と繋がっている連絡通路の存在は忘れてました。
ゴメンなさい。




