神さま、呆気に取られる。
先ず率先してすべき事は、誰でも良い。
分断された瑞基と合流する事だ。
そうなると物質の理に左右される事なく移動出来る、琥珀を真っ先に向かわせるべきだ。
「私情を挟むつもりは?」
この後に及んで、まだウジウジと「娘とは会うつもりはありましぇ〜ん」とか言ったら蹴り飛ばしてやろうかと思ったが、溜息による了承と共に姿を消した。
こんな状況ではあるが、愛娘との再会なのだからもっと喜べよ。
何故そんな苦虫を噛み潰したような顔をするのか。
地面から天井に生えているのか、天井から地面に伸びているのか。
もはやどっちなのか判断出来ない程、縦横無尽に張り巡らされている樹枝の向こうへと行ったのだろう。
何も打ち合わせをせずに向かってしまったが……
せめて知らぬ存ぜぬを通すのか否かだけは、決めて知らせておいて貰いたいものだ。
「俺の気配察知を魔力によるものへと切り替える。
俺の事、攻撃すんなよ」
「分かった」
燼霊は気配を隠すのが非常に上手で、霊力による索敵には引っ掛かりにくい。
だから微量でも反発してくれる魔力同士でなら探索が可能になる。
しかし魔力を発するモノは魔物と燼霊しかいない。
つまり、人間の敵だ。
今まで様々な魔物を屠って来たカノンの場合、断りを入れておかないと反射的に魔力を出す=敵と認識し、本能的に攻撃されかねない。
同士討ちなんてナンセンスな事が起きたら困るからね。
断りを入れて「スキル」で創り出した魔力もどきを周囲に薄く伸ばす。
使用する力が違うだけで、霊力の気配探知とやり方は同じだ。
……だが、困った。
部屋中に伸びている木の気配も、 粉媒楢のため魔力を帯びている。
村の方々を探るが、他に魔力を帯びた気配が見当たらない。
離れた場所にあるのは、家畜としていた鱗魔猪だろうから、コレも違う。
魔力を有している気配を探る方法ではなく、違和感がある場所を探すか。
無防備になるといけないので、カノンと背中合わせになって周囲を注意深く観察しながら、不自然な所がないかを捜索する。
人は違和感を探す時、視界の中央、また外周部の二五%範囲を先ず見ると言う。
そして隠れる時はソコを外す傾向にある。
ならばと地面・壁・天井と真正面以外に意識を集中させる。
……僅かにだが、枝が膨らんでいる所がある。
しかもその膨らみが、微妙にだが移動しているようにも見えるな。
俺達のいる方から、瑞基達がいる方へと向かっている。
粉媒楢の内部を自由に移動出来る燼霊、という事なのか?
粉媒楢そのものを操れる燼霊なのか??
気配の事を考えると、意志を持っている 粉媒楢そのものと思った方が良いのかな。
だって太くなっている場所も、他の張り巡らされている枝も、全て気配は同じなんだもの。
魔力の偏りがない。
まぁどっちみち、やる事は変わらないのだ。
どれでも良いさ。
「カノン、アッチ。
よ〜く見ると、枝が膨らんでいる箇所が移動しているの、分かるか?」
「ああ。
あれがそうなのか?」
「多分……ねっ!」
肯定の言葉と共に、一気に距離を詰めて膨らみのある部分の上下を切り取った。
コレで中身である燼霊が出てくるはず。
そう思ったが膨らみは、一瞬で数歩向こう側の枝に移動していた。
ゆっくり移動していたのは、バレにくいようにしていただけで、本気を出せばかなり早く移動出来るようだ。
慌てて追おうとするが、通せんぼをするように新たに出現した枝が行く手を阻む。
「ジャマだし燃やして良い!?」
「俺達が火だるまになるだろうが!」
素気無く却下されてしまったので、枝を切り払いながら地道に前へ進む。
その間にも、俺達の身体に風穴を開けるべく、殺傷能力の高そうな先の尖った枝が幾つもコチラに向かって突進してくる。
えぇい、煩わしい!!
その間に念話で琥珀に枝の中を燼霊が移動してソチラに向かっていると注意喚起をする。
了承の返事と共に、大気が揺れた。
霊力の奔流によるものだ。
敵意がないのは分かっているが、絶対的強者のソレに、全身が総毛立った。
そして次の瞬間には地面が揺れ、視界が周り、とてもじゃないが立っていられなくなった。
焦点が定まらない中見えたのは、衝撃波となった分厚い霊力の塊によってヒビ割れていく樹皮。
地面の隆起によってなぎ倒されていく枝。
そして擬態する枝がほんの数秒で根こそぎ失われ、突如丸裸の状態で部屋の中にポツンと現れた燼霊の姿だった。
その燼霊に、瑞基を背に庇いながらゆっくりと歩み寄る琥珀の顔は、笑っていた。
表情筋を使って笑みの形を作っている。
そのため、目は笑っていない。
背筋が凍りつくのでは無いかと思える程に、怖い。
『――私を怒らせるなんて、命知らずだね?』
「ま、待……ッ!」
村長の声で言葉を発した燼霊は、静止を告げる前に岩で出来た手のひらに合掌され、押し潰されて、死んだ。
……え!?
死んだ!!?
もう終わり!!!??
呆気に取られていると、琥珀が心底心外そうに苦言を漏らした。
『――忘れているみたいだけれど、私は神だよ?
この程度の木っ端燼霊なら直ぐに終わる。
お仕置が必要だったから、怖がらせるために少し時間をかけたけれど』
「ちょっと〜?
苦闘していたカノンと、身構えていた俺の立場は〜??」
『――今回は残念だったね、ってことで、諦めて?』
先程とは違う笑顔で命令をされてしまった。
反抗して同じように命知らずと言われてペッチャンコにされたら叶わない。
コチラに被害もなく、無事に終わったのだから、良しとしておこう。
それこそ神の立場になった琥珀が、ヒトの諍いに直接手を下すとは思っていなかった。
せいぜい、瑞基を守るだけだと思っていたよ。
余程瑞基を痛め付けられた事が、腹に据えかねたのかな。
粉媒楢騒動の黒幕は死んでしまったが、記憶を読んでいる最中、侵食されかけた時に燼霊が何を企んでいたのかは分かった。
この情報があれば、今後似たような事が起こらないよう対処する事も可能だろう。
……問題は、「スキル」を使って自力で脱出したのだろう。
風の膜に覆われず、歪んでいない、光の乱反射も受けていない、俺と琥珀の姿と、和気あいあいと会話をしている様子を、瑞基にバッチリ見られてしまった。
もう見間違えとか気のせいだとか、誤魔化す事は確実に出来ない。
どうやって説明しようかな。
「父親の仇!ご覚悟!!」とかされる前に寝かせて、記憶を消してしまうのが、一番手っ取り早いよね。
もう燼霊はいないのだから、時間はいくらでもあるのだし。
落ち着いて施行出来る。
『――その必要は、ないと思うよ』
「何故?」と疑問を口にする前に、瑞基は水平型エスカレーターの如く地面を動かし、一瞬で肉薄して来た。
油断しまくっていたとは言え、早い!
あ、コリャ刺されたな。
諦めると同時に「再生」のスキルを発動しなきゃと身構えたら、ナイフを刺される代わりに、両手をガッ!と取られた。
更に鼻息荒く目を輝かせながら顔を覗き込まれ、鼻同士がくっつきそうな距離まで詰め寄られた。
「明夜様ご本人ですかっ!?」
「……あ”?」
余りにも予想していなかった展開に、思わずガラの悪い態度で応えてしまった。




