神さま、露わにする。
瑞基の姿に動揺してしまったが、周囲に視線を巡らせてみると、同じように肉体が樹木に変化しようとしている人が、他にも沢山いた。
ココは……最上階の廊下か。
照明も含めた設備のアチコチが破壊されてて、見る影も無い。
部屋と廊下を区切るための土壁は穴が開いているし、落下防止用の柵も折れている。
中央にそびえ立つ濾過装置のおかげで、今どの辺にいるのかなんとなく分かった。
青年村人の話から、中等症の人達が寝かせられていた病室にでも転移するのかと思っていたのだが……
カノンの姿は見当たらないな。
瑞基達ははぐれたのか、別行動を取ったのか。
保護をして離脱すべきか、カノンに合流をすべきなのか。
あちこちから響く木々の暴れ回る音がうるさいせいで気付かなかったが、ケガをしている人もいるようだ。
絞り出すような呻き声が聞こえる。
コレは颯茉が『大変だ』と言うのも頷ける。
燼霊が暴れているだけとか、カノンがピンチなだけだったのなら、彼女は「大変だ」なんて言わないもんな。
まだ自力で歩けない、 粉媒楢に肉体を変えられかけていた人や、老人や自分でどこに逃げれば良いのか判断が出来なかった子供が主に逃げ遅れたらしい。
地に伏しているのは、背丈が低い者ばかりだ。
年寄りなら良いというワケではないが、子供が犠牲になるのは宜しくない。
……それと、瑞基が最後まで諦めきれなかった、全身が 粉媒楢になっている人達も、破壊されてしまっている。
「セリア。
瑞基様を担ぐ事は……
……無理、ですよね。
分かりました」
「え、あの……きゃっ!?」
セリアは俺の言葉に、涙を乱暴に拭ってフンッと意気込んだまでは良かったのだが、瑞基の木に変化していない方の腕を肩に回して持ち上げようとした途端、ベチャっと彼女の身体に潰されてしまった。
年頃の女の子の口から、決して聞こえてはいけない声が聞こえた気がする。
うん、気のせいですとも。
俺は何も聞いてない。
体格が違うし、そうなると体重だって全然違うのだ。
この結果は、当然の事である。
瑞基の身体を支えるだけの筋力があるようには見えないもんな。
颯茉に、抱えているセリアごと瑞基を浮かせるようお願いをする。
悲鳴を上げられたが、ソコは気にしない。
気持ちが悪いとか言っている場合ではないので、オプスクリス開拓村全体に気配探知の範囲を広げる。
避難をした人がいるのだから、村人の人数は少なくなっているのに、 粉媒楢と気配が混ざっている人が増えている。
カノンは……見付けたけれど、現在進行形で近くにいる人の数が、少しずつ減っている。
強襲者から村人を守りながらも、確実に安全圏へ逃がしているのか。
さすが賢者様である。
そんな中俺が突然合流をしたら、カノンが頭の中に描いている計画と、その行程が崩れてしまいかねない。
ならば俺は瑞基達を守りつつ、コッチのカノンの手が届かない人達を助けるべきだろうな。
だがこの惨状を見ると……
瑞基も含めて、助けられない人ばかりだ。
侵食速度が、早すぎる。
だからカノンは見切りを付けて、まだ無事な人の方へと向かったのだろうか。
……彼はそういう判断が、出来る人だもんな。
俺にはなかなか、マネ出来そうにない。
「セリア、お願いがあります」
宙に浮かび、俺と同じ目線になった彼女をひたと見据える。
剣呑とした雰囲気の俺に驚いたのか、声は出ないものの、懸命に首を縦に振った。
「改めての言葉になりますが……
私と言葉を交わし、過ごした時間を全て忘れなさい。
……そう言われたら、貴女は何と答えますか?」
「前にも言いましたが、わたしはいやです!
いじわる、言わないで下さい……」
イジメのつもりで言ったのでは無いのだけれど。
前と同様、即答をされてしまった。
「では、忘れてくれるのなら、その代わりに瑞基様を助けます。
そう交換条件を出したら、貴女はどう判断しますか?」
「え……それ、は……」
瑞基を取引材料にするのは気が引けるが、こう言えば即行で了承すると思ったのに。
何故か迷っている。
ソコは即答しようよ。
生まれた時から一緒に過ごしている保護者同然の人と、合計しても会ってから一日も経過していない俺となら、前者を選ぶだろ。
ってか、選んであげて。
居た堪れないから。
それだけ繋がった縁を惜しいと思ってくれているのなら、まぁ、俺にとっては嬉しい事だけれど。
何がそんなに気に入ったんだか。
本当はちゃんと時間を作って選ばせてあげたいのだけれど……
そんな余裕は無い。
なにせ俺達がこうして話をしている間にも、防護壁は木の腕に攻撃され続けている。
はぁ、仕方がない。
「もしこの後、私の姿を見ても同じ事を思って下さるのでしたら、私と知り合いである事実を、周囲には隠し通しなさい」
言うだけ言って返事を待たずに、化粧を剥ぎウィッグを取った。
ソレと同時に、染めた髪色を元に戻した。
誰に見られても良いように替えた、冒険者然とした装備をしまい、いつもの着慣れた服を身にまとう。
そうだとアピールしやすいように、ハイネックの肌着は着ていない。
詰襟のボタンも外しているし、手袋もはめていない。
だから見間違いや、勘違いとは思えないだろう。
魔王と共通する点が、余りにも多いのだから。
魔王その人と、嫌でも認識せざるを得ない。
「ひっ……!?」
ノドの奥で上げられた悲鳴に、ほんのちょっとだけ悲しくなって、苦笑した。
ソレだけ、魔王の存在がこの世界では有名で、毛嫌いされてるって事だよね〜……
……イヤ、良いよ?
怖がられる程度なら、倒れてはいるけれど実は自力でどうにか動ける程度の怪我人は、俺の姿が目に入った瞬間に逃げてくれるだろうから。
それはつまり、俺が燼霊と戦っている最中、近付く村人はいないって事に他ならない。
……でも流石に、Gを見るような目で見られたら泣いちゃうかも。
‘’精霊様の御使い‘’兼‘’賢者の弟子‘’の皮を被っていた時は、カノンより目立ってはいけないから全力を出したらいけなかった。
けれど、この姿ならば、遠慮なく何をしても許される。
ついでに燼霊が出した被害を魔王のせいにして、功績は全てカノンと精霊達のものにしてしまえば、精霊への信仰心が増すと言うものよ。
神への信仰心を削ぎ弱体化させ、精霊の皆を強化しようと決めた時から、魔王を演じると決めていたのだ。
特にこの村の人、他の今まで訪れた村人達と違って‘’精霊様‘’とは言わないのだもの。
精霊術を使える人が全くいないからって、精霊を蔑ろにし過ぎだろ。
瑞基は燼霊と精霊が戦っている所を見た事があるだろうに。
後世まで語り継げよ、その勇姿をさ。
まぁ、だがしかし、だ。
信仰心ゼロのオプスクリス開拓村で精霊への多大なる信仰心をゲット出来れば、皆のパワーアップは保証されたようなものだ。
加害者が村長だと知っていたとしても、ソレを上回る極悪非道な魔王の姿を見れば、混乱もあって、加害者は魔王だと記憶の改変が行われてくれるはず。
俺はハデに見えるよう燼霊の攻撃を防ぎつつ、回復させられるヤツは回復し、治療を終えたヤツをNEW開拓村へと転移させる。
出来れば俺が暴れ回っているような姿を見せてから転移させるのが望ましいが……
そこまで出来るかは、ちょっと分からないな。
まぁ、既に転移している人達は間違いなくカノンが安全圏へと逃がした人達だ。
どうやって逃げ仰せたか分からなかったとしても、カノンが逃がしてくれたのだと、周囲の言葉を聞いて勝手に勘違いをしてくれるさ。
魔王による被害が甚大であればある程、そんな中でも救われた人が多ければ多い程、直接助けてくれたカノンへの信頼が爆上がりする。
そして彼は、自分の手柄とする事を良しとしない人だ。
あくまで自分は精霊術を使って助けた。
だから、凄いのは精霊様である。
そう吹聴して回るだろう。
精霊への信仰心ゲットだぜ。
クックックッ……と下心満載な腹黒い笑みを浮かべながら、暴れ回り壁を破壊している木の枝を、無意味にド派手な音と共に爆発霧散させ破壊する。
「さぁ、それじゃあ……始めようか?」




