神さま、創り出す。
ご覧頂きありがとうございます。
‘’無双‘’の前に書いていた拙作‘’堪能‘’がランクインしました。
地続きの作品となっている事とどこでお礼を述べれば良いのか分からなかったので、コチラで場所を借りて御礼申し上げます。
また、誤字報告もありがとうございました。
月しか出ないオプリタス大陸では、体内時計が狂う。
太陽の代わりに双子の月のどちらかが、星がまたたく濃紺の夜空のどこかしらに浮かんで見える。
けれどその淡い灯火では、視交叉上核は刺激されず、生体リズムが狂ってしまうのも仕方が無い。
夜は双子月が両方見えるため、ヘタをしたら夜の方が明るいのではなかろうか。
この大陸に住む人々は、昼夜逆転の生活リズムになってしまいそうだね。
闇の精霊の加護が強いからか、時折宙に浮かぶ闇色の光が見える。
意思の宿っていない、精霊としての力も非常に弱い、微精霊達だ。
フワフワと浮かび戯れるように明滅するその様子は、幻想的な風景と言えば確かにその通りなのだが、極夜が明けない常夜の世界で見える、本来は有り得ない黒い光というのは、なかなかに不気味に思える。
黒い光、と言ってておかしいとは思う。
思うのだが、他に表現のしようが無いのだ。
致し方ない。
宇宙空間に惑星が自転し公転していた地球とは全く違う原理で存在している世界なのだ。
目の前の光景を、理解はせずとも受け入れねばならないのは重々承知している。
だがやはり、ヘタに地球の知識と常識を知っているせいで、気味が悪く見えてしまう。
なるべく早く、こんな場所からオサラバしたい。
だって、寒いし。
お日様が恋しい。
しかもこんな中一人だし。
余計に侘しさが倍増する。
燼霊を押し込めたニブルヘイムを封印して以降、たった一人でこんな場所で封印を護り続けている闇の精霊は、前世の罰を十分に受けたと言えるかもしれない。
静けさが支配する、永久凍土に一人佇んでいると、そんな事を考えてしまう。
ボッチでいるのが科せられた罰って甘くない?とか思ってたけど、この見渡す限り白と黒のツートーンしか存在しない世界で独りとか、気が弱い人なら狂ってしまうのではなかろうか。
精霊になった時に、そういう感情は根こそぎこの世界の神に奪われたようだし、問題無いのかもしれないけれど。
精霊になった皆から、そういうマイナス要素の感情って聞いた事がないもんね。
瘴気の素となる負の感情を、精霊が持つのは宜しくないからなのだろう。
あぁ〜……火の精霊である 紅曜と、風の精霊である颯茉は、歳若かったせいなのか、神の戯れなのか、他の皆よりも喜怒哀楽が人間のようにハッキリ表面に出ているけれど。
他の精霊神や下位の精霊達を見る限り、アレは例外だろう。
燼霊と比較した時、喜楽が精霊、怒哀が燼霊の方が、強く現れているように思える。
それぞれ自分達の力を強化してくれる感情が強く表面に現れた方が、パワーアップを図れるし、合理的なのかもしれない。
それならいっそ、この世界の神は精霊達にそうしたように、人間達に怒哀の感情を与えなければ良かったのに。
そうすれば、とても平和な世界になっただろう。
……発展もしなかっただろうけどさ。
結構怒りや悲しみを原動力にして、現状を打破すべく、何かに打ち込み大成する人は多いからね。
日常を送るにあたって不便だと感じるマイナスの思想から、便利な道具は生まれるのだし。
とりあえず「万物創造」で創った仮住まいの中、瑞基が描いてくれた、オプスクリス開拓村の初期の設計図と、現在に至るまでに、どんな設備を足してきたのか、その仕様書を手に取る。
この変更された部分なんかは、過去に造った開拓村では必要とされなかったが、オプスクリスには需要があったと言う事になる。
料理が好きな人が多かったのか、北に位置する他の開拓村よりも、村の外で採れる食物が少なかったのか、厨房や畑に注力がされている。
また闇の精霊がいるだろうと予測されている、恩恵が与えられる守護区域の中心地から遠い場所に位置しているためか、外の氷を溶かして飲料水にするための、濾過装置にフィルターが増設されている。
そのフィルターには精霊術で作られた物では無いのにも関わらず、多少なりとも瘴気を取り除く作用があるのが不思議だ。
瘴気は目に見えない上、物質ですらないくせに。
まぁ、霊力も物質へ何からの作用を引き起こす性質を持っているし、分子のように目に見えない程に小さい粒子である可能性は、否定出来ないか。
霊力で構成されている精霊も、気合と根性を入れて霊力を集めまくれば、受肉するための器が無くても触れられるのだし。
どれくらいの霊力を消費すれば良いんだろうな。
数値として調べた事が無いんだよね。
……一人だと思考がアチコチ行ったり来たり、とっちらかってしまうな。
ツッコミが居ないのだから、仕方が無いのだけれど。
やれやれと、自分に溜息を吐きながら、移転先の村の規模を決めるために、一旦外へ出て上空を目指してフワリと浮かんだ。
深さは二〇〇m程の地下に村を位置させる事は決定済みだ。
なので地盤が頑丈な場所を選んだ。
せっかく引っ越すのだからと、今よりも大きめに造る予定になる。
となると、高さは最低五〇m程にする必要がある。
ソレをドーム状に空間をくり抜き、中央に濾過装置が収まるようにして、居住区のフロアに仕事をするためのフロア……まぁ、色々と分けていく。
あと、地上の出入口は透明化させなきゃだよね。
魔物が扉を認識しないように、阻害効果のある紋様も刻まなくちゃ。
基未が過去に伝えた、だいぶ古くて効果の低いソレ等の紋様は、改良版を使用して良いのだろうか?
そうとは知らずに便利だからと使っている転移方陣も、周囲の霊力をバカみたいに消耗しないと起動しないし、書き換えて良いよね??
キッチンや食堂なんかもそうだけど、各部屋に備え付ける家具やら機材やらは、瑞基が作るのだろうか???
仕様書には書いてあるけれど……
よくもまぁ、正体不明な道具を便利だからと流用し続けたな。
あと、今は瑞基が浄水器のメンテナンスやら土壌の改善やら付きっきりでしてくれるけれど、いわゆる、ワンオペ状態だったんだろ。
何百年と。
いい加減、もっと自由に好きなようにして欲しいと思っちゃうんだよね。
自由になった上で、ココに留まって皆の世話を焼きたいなら、好きにすれば良いんだけどさ。
彼女がいなくなった時――正直、他の地球人の寿命を考えると、いつ、その時が来てもおかしくはないのだ。
心残りがあるのは良くない。
やり残した事があるのに、他の人達の面倒を見なければいけないから出来ないなんて、そんな理不尽な事、あってはならない。
ソレを考えると、このままの仕様書のままじゃいけない。
もっと改善出来る所が山程あるのだから。
長年試行錯誤を繰り返しながら、瑞基達が積み重ねてきた物を、全部無視するのは、どうかとは思う。
俺が気軽にぶち壊して良いものじゃないよな。
なら、せめて濾過装置を霊玉で運用出来るように仕組みを変えて……
……うん、面倒臭い。
何が面倒って、作る事ではない。
こうやって細かい事を、あーだこーだと考えなければならない事が、面倒なのだ。
うん、良いや。
創ろう。
創ってしまおう。
俺はせっかく拾った異世界での生活では、好き勝手に生きると決めたのだから。
それにどうせ引っ越すのは、騒動の最中なのだ。
何か言われても、混乱に乗じて誤魔化して、バックれる事は出来るだろう。
仕様書に書かれてる内容と、添付資料に載っている家具一覧を見て、脳内で立体的に詳細まで想像をする。
そしてオプスクリス開拓村で実際に見たものを思い浮かべ、その情報を合体させる。
プラスして、ココに書かれてるものでは不十分だと思うものを、更に全部ソコに追加する。
緻密な箇所は想像力では補えない事もある。
なので次に紙へ書き出した。
そうする事により、一層創造すべきモノのイメージが固まる。
村を創る地面の中心地となる場所に降り立つ。
そして頭の中でこねくり回し、描いた形を、生命エネルギーでもって出力をした。
耳元で、パチンと何かが跳ねるような音がし始めた。
大規模なものを「万物創造」で創る時の特徴だ。
エネルギーの奔流によるものなのだろう。
パチパチと何かが弾けるような、拍手でもされているかのような音が、アチコチから聞こえる。
その中心にいる自分が、まるで太陽にでもなったかのような錯覚を覚える程の、眩い光の奔流に包まれた。
「スキル」が発動している地中から、色とりどりの光が立ち上り、周囲を照らしているのだ。
空へと上昇し霧散する光に釣られてどこからともなくやってきた、無粋な魔物達が姿を表し、真っ直ぐ俺に向かって突進して来た。
まるで蛾や羽虫のようだ。
集中力を切らしてしまっては、「スキル」によって現在創っている最中の村が、中途半端な仕上がりになってしまう。
さてどうしたものか……
そんな事を思うよりも先に、前方から向かってきた巨大な魔物は氷漬けに、左から襲って来た魔物達は円錐状の岩に貫かれ、右後方で他の魔物の出方を伺っていた魔物の群れは炎で焼き尽くされた。
あっという間の出来事である。
「……ふぅ。
助かったよ、皆。
おかげで、最後まで仕上げられた」
『――ブーっ!
ボクの出番がなかった!!
ちょっと!
もっかい襲われてよ!!』
「ムチャ言わんで」
『――フンッ!
お前のためじゃない。
瑞基は俺にとっても姪っ子になるからな。
致し方なしに、だ』
『――アナタに危険が及んだら、手を貸すのは当然でしょう?
ミズキは、僕にも姪にあたるし。
あぁ……そう考えると、水の精霊と親戚って自覚しなくちゃいけなくなるから嫌だな。
今からでも、離縁できないの?』
『――私に言われても、困るな。
今世で彼女は赤の他人だから。
縁もゆかりも無いのだから、そもそも切るための繋がりが無いよ』
オプスクリス開拓村では人目につくといけないからと、姿を表さなかった精霊神達が可視化をした。
颯茉は理不尽な事を言っているし、浅葱と 紅曜はいがみ合ってる。
一人のはずなのに、途端に賑やかになったな。
琥珀は 紅曜の言葉に困ったように眉を下げながら微笑んだ。
態度こそ殊勝だけど、意外と酷い事言ってるよね?
皆は生前の姿とよく似ている。
だけど髪の色や長さ、外見年齢等の要素がそれぞれ少しずつ違う。
前世は前世。
今世は今世。
そう言われてしまうと、ちょっと複雑である。
前世の記憶はあっても、別の存在だ。
頭では理解している。
しかもこの世界では神様的に崇められているような、雲の上の存在である。
本来は、俺もこんなタメ口をきいたり、便利屋さん扱いをするなんてとんでもない存在なのだ。
前世の通りに接してくれれば良いと、言われてはいるけれど。
だけど今琥珀が言ったように、前世と今世は全く別の存在で、無関係だと切り捨てられてしまったら、俺もその時は態度を改めなくてはいけないだろう。
瑞基とも、親子の関係ではないと、一線を引いているから会いたくないのだろうか。
しかも瑞基は霊力がないから、琥珀の姿は見えないんだよね。
琥珀が会おうと思って姿を見せない限り、一生会えないままだ。
彼は村長から助けてくれた時のように、肉体ONの状態になれば、霊力が無い人にも見えるし触れられるのに。
減るもんじゃないのだし、いくらでも会いに行けば良いのに。
そう思っていたけれど、俺に言ってくれたようには、愛娘に言ってやらないのだろうか。
立場が違うからこそ、距離を置かねばならないと、無理矢理割り切ろうとしているのだろうか。
浅葱や 紅曜を見ている限りは、そんな事する必要ないと思ってしまうのだけれど。
『――無事で、よかった』
ポンポンと頭を撫でる優しいその手は、俺ではなく、娘に向けられるべきものじゃないのだろうか。
大人心というものは、常識や世間体にがんじがらめにされて、子供よりも複雑なのかね。




