神さま、企てる。
オプスクリス開拓村が抱える問題を一通り解決するまでの間は毎日、霊力の通り道を開く作業をする事にした。
そうすれば、瑞基の生命エネルギーが霊力に変換される事も、もしかしたらあるかもしれない。
それに霊力を使えるようになれば、体内の霊力が飽和状態になって身体が崩れる、地球人特有の死に方を避けられる。
瑞基がこのまま長生きしてくれれば、琥珀の気が変わって、いつか会いたいと思える日が来てくれるかもしれないじゃない。
罪滅ぼしにすらならない、希望に縋るようなIFの話だが、その道筋くらいは作っておきたい。
俺の霊力制御の訓練にもなるし、調度良いからと理由をつけて、セリアと二人、霊力の通り道を作る作業が日課に加わった。
それ以外の時間は、瑞基がやると思っていたのだが、彼女の代わりに、俺が引越し先を創る事になった。
イヤ、時間はかけて良いのだし、精霊術を使うのだから、言葉としては‘’造る‘’が適切か……?
どうでも良いか。
‘’アークが村長に乱暴を働かれた事に怒ったツイキは、瑞基が引き止めはしたものの、アーク引きずるようにして村から出て行った‘’
……という事にする。
実際俺が襲われた事にカノンはご立腹で、相手が燼霊だろうが、次に顔を合わせたら、何をしてしまうか分からない。
そうのたまうので、コレは舞台が整うまでは村から離れるべきだと判断した。
最初はフリにしようかと思っていたんだけどね。
何かあった時に、駆け付けられた方が良いじゃない?
だけどカノンはこんな状態だ。
誰に似たのか、頑固な所があるのでこうなったらテコでも動かない。
なので何かあったらすぐに分かるように報せてくれる、防犯ブザーのような紋様具と、瞬間移動先の目印を持たせる事で、その懸念を解消した。
コレで離れた場所にいても、万が一があった時には助けに入れる。
……まぁ、最強レベルの琥珀がコッソリ草葉の陰から覗いているだろうし、問題無いだろうけれど。
俺達が村を出立してしまったとなれば、提供した薬によって快方に向かっていた人達、 特に助からないとされていたが希望が見えてきた人達と、その家族からのヘイトが村長へ向く。
村長についている取り巻き達も、その状況に嫌気がさして、離れてくれるに違いない。
モチロン 粉媒楢に侵された人々を放置するつもりは毛頭ない。
十分な量の薬は用意する。
その残していった薬で、回復する人は増やせるだろう。
重症者がどうなるかの経過観察は、村民が寝静まった頃に、コッソリ病室に転移をして行う予定だ。
表面上は置いていった薬は当然限りがあると触れ込む。
率先して言うのではなく、不安感から尋ねて来る人は確実に出て来るから、聞かれた時に「実は……」といった感じで歯痒さや悲壮感を込めながら言うのがポイントだ。
嘘臭いと思われたら意味が無いもの。
手遅れな状態から回復する人がいればいる程、助からなさそうな人の家族の怒りは、村長へ向くだろう。
十分な薬さえあれば、助かるかもしれないのに!ってね。
村長が孤立した所で瑞基が、俺達の行方なら、自分が知っているから、呼び戻したかったら奪った物を返せ、と交渉をする。
出来れば、人の目のある所で。
可能性は低いが、村長が燼霊じゃなかった場合は、この要求を呑まざるを得ない。
賢者とされ村を興し、慕われてきた瑞基の大切な物を奪ったと明るみになれば、ただでさえ下がっている村長の株は急加速で更に暴落する。
村八分状態にされたら、食べ物も飲み物も確保出来ない。
そうなれば、生きていけないもの。
村長が燼霊だとしても、 粉媒楢を使って何らかの実験を行っており、その途中だから村を追い出されるワケにはいかないと、奪ったノートを返却してくれる可能性も一応はある。
薬を効かないと断言していたからね。
後で調べるが、今蔓延しているのが通常の 粉媒楢とは違うなら、その可能性も捨てられない。
だがその要求を跳ね除け、その場で即座に正体を表した場合は、少々面倒な事になる。
燼霊との戦いに突入するだろうから。
避難訓練の経験が無いと、咄嗟の時って動けなくて固まるか、パニックに陥って錯乱するか。
もしくは正常性バイアスが掛かって、村長に「そんな怒るなよ」とでも声を掛けようと近付くか。
いずれにせよ、村民の多くが死ぬ可能性が高くなる。
避難出来たとしても、地上は極寒の氷に閉ざされた世界だ。
着の身着のままの薄着では、すぐに凍死してしまう。
なのでそうならないように、事前に色々準備をしておかなければならない。
その中のひとつが、あらかじめ避難先の仮住まいを造る事だ。
俺も定期的に村に戻って、 粉媒楢(人)の様子とか視たかったんだけどね。
カノンが、戦闘の段階までは村長を見る必要はないと言って、村から遠ざけたがっているのだ。
まぁ、俺だって率先して会いたいとは思わない。
なのでキッチリデータ採集だけしておくように申し付けて、俺は一人寂しく別行動を取る事になった。
瑞基は燼霊と戦った経験こそ無いが、見た事があると、顔を青ざめながらその凶悪さを語った。
だから出来ればセリアは若いのだし、真っ先に避難をして欲しいと懇願していた。
しかし「わたしだって、お役に立てます!」と即座に宣言をした。
だが瑞基の心配も最もだと思ったようで、自分から「賢者様よりも先に精霊術が使えるようになったら、役立たずの足手まといじゃなくなるはずです!賢者様のため、アーク様やカノン様のために働きます!」と胸を張った。
もし瑞基が先に精霊術が使えるようになったら、大人しく避難誘導係の役目が終わり次第、その他大勢の村民達と一緒に避難をしてくれるそうだ。
そうなると、セリアの施術は手を抜きたくなるな。
シッカリ笑顔で釘を刺されてしまったので、しないけれど。
燼霊が使う術の破壊力やタチの悪さを重々承知している瑞基は、実際に戦闘になったら、この村は放棄しなければならないと、俺達が何かを言う前に、早々に腹を括った。
思い出はまた作れるし、命あっての物種とも言うのだ。
事後、何か村民から言われたら、その時には自分が矢面に立つから安心して欲しい。
力強い瞳で、一番面倒な事後処理を引き受けてくれた。
ありがたや。
ならば俺は、そのXデーが来る前に、それはそれは立派な避難施設兼、次のオプスクリス開拓村を造る役目を真っ当しなくちゃね。
村長が瑞基から奪ったノートに知らぬ存ぜぬを貫き通した場合には、少しずつ村民を避難させる方法を取る。
そして全員の避難が完了次第、コチラから仕掛ける。
「スキル」によって創り出した魔力モドキによって、村長の気配が探知出来るか否かを試す。
引っ掛かったら燼霊確定だ。
なるべく村を壊さず被害を出さないように気を付けながら、始末をする運びとなる。
燼霊を倒せば、いくらでも時間を取れるからね。
村人総出で探せば、残りのノートも見付けられるだろう。
村長の取り巻きが、何か知ってるかもしれないし。
「カノンの見立てでは、どれくらいの期間を設ければ、 粉媒楢に侵された中等症者の中でも、助かる人数が増えると思いますか?」
「新しい薬の効果をこの眼で視ていないから、何とも言えんが……
一週間あれば、回復見込みの連中は寛解するのではないか?」
あ、そんなに助かるの?
そうなると、避難する際に使う転移方陣も結構な大きさのものを用意しなければならない。
一度に転移させられる数は、転移方陣の大きさに左右される。
込められる霊力量でも勿論変わるが、俺もカノンもかなりの霊力があるから、ソコは問題視しなくて大丈夫だ。
なんなら、二人に起動用の霊玉を持たせておいても良い。
精霊術を使える段階までいかなくても、霊力を意図的に動かせるようになれば、霊玉も使えるだろう。
「そうなりますと、瑞基様には、病室の拡張をお願いしたいです」
「さっき言っていた、瞬間移動するための道具を設置するためよね?
……本当に、そんなものがあるの?」
「簡素な物であれば、すぐに再現出来ますよ」
言ってメモ帳から紙を二枚千切る。
サラサラとそれぞれに、出口と入口となる方陣を描き込む。
だが、ソコではたと気づいた。
方陣って、書き込む言葉が英語、なんだよね。
この世界では一般言語は日本語だ。
そして書き文字は、カタカナに近い形をした音節文字である。
方陣がそれらの言葉で起動出来るようになると、誰彼構わずろくな知識が無いままに方陣を使えるようになってしまう。
何も学ばず危険を理解しないままの人に、拳銃や大砲を持たせたらどうなるか。
十分に学んだとしても、ソレを私利私欲に使う人がいたらどうなるか。
地球の二の舞になる事、間違いなしだ。
そして各属性の精霊のトップである皆が地球出身者のため、精霊が喋る言葉は英語である。
そのふたつの理由から、一般言語ではない精霊語=英語を使い、幾つかのルールの元構築されたのが、精霊方陣なのだ。
つまり、精霊の属性を表す紋様以外は、ガッツリ英単語や英文が書かれている。
俺が考える素振りも見せず、この世界では滅多にお目にかからない英語をスペルミスすらなく書いていたら、怪しまれないだろうか。
考え過ぎかもしれないが、油断して正体がバレるより、ずっと良い。
「カノン?
時の精霊様の力を使う際の方陣は、コレであっていますか??」
「は?
何を……ぐっ!
あ、ああ、ここが間違っているな。
貸してみろ。
俺が代わりに書いてやる」
琥珀にお願いをして地面を瞬間的に隆起させて、脇腹に一発、くれてやった。
殴られても意図を察してくれなかったら、どうしようかと思ったよ。
俺の両手が塞がった状態だったので、瑞基達には、何故カノンが呻き声を上げたのかはバレていない。
何事も無かったようにカノンが振舞ってくれたので、尚更だ。
大丈夫、バレてない、バレてない。
手品の類と疑われたらいけないので、カノンが方陣を描いた紙に種や仕掛けが無いか、手に取って貰って確認させた。
そして上に移動させるもの――今回は湯のみだね。
ソレを入口側の方陣に置き、瑞基とセリア、それぞれに方陣に触って貰う。
残念ながら、やはり二人ともまだ霊力の流れは出来ていないようで、起動はしなかった。
触れた時に、何か引っ張られる感覚は無いかと聞いたが、ソレも分からなかったそうだ。
道のりは長そうである。
その後入口側の方陣に霊力を流した途端、出口側の方陣に中身入りの湯呑みが、温度もお茶の量も変わる事なく、瞬時に移動した。
それを確認した二人から、拍手を貰った。
やはり手品に見えるのか、不思議そうに目を輝かせながら、方陣や湯呑みをマジマジと見ていて面白かった。
少なくとも、湯呑みを見ても、何の意味も無いと思うよ?




