神さま、通す。
施設では常に優劣の評価が下され、思想の判定がされる。
そして定められた枠から外れれば、容赦なく切り捨てられる。
常に見張っていれば、ランク付けが楽だったから。
そんな理由もあるのだろうが、赤ん坊は生まれてすぐに親から引き離され、集団保育を受ける事となる。
母親は産褥期が開ければ社会復帰出来るし、子共達は何百人単位で育てて来た経験豊富なベテランが見るから、病気や怪我による生存率は下がるし、効率的とは言えるだろう。
そんな幼少期から、施設では当然のように振るいにかけられる。
上手くやってのけた子供達だけが、社会に招き入れられる。
だからある程度の年齢になるまで、施設では子供を見る機会はない。
せいぜい保育設備で共に過ごす、自分の前後二歳程度の同年代としか、基本的に関わりは持たない。
階級制度が導入されていたので、余程優秀で貢献度が高ければその限りではないが。
俺は地球を再生するために、施設の技術を注ぎ作り出されたので、自分で言うのもなんだが、それはそれは他の追随を許さないレベルで優秀だった。
腹の中ではクソ喰らえと思ってた部分もあるけれど、そんな本音はおくびにも出さずに試験をパスしていた。
大人が求める答えを回答する事なんて朝飯前だったので、成績表の上では桁外れに秀でていた。
だから当然、周りに居たのは歳上ばかりだ。
同期で社会に出た基未――カノンの父親ですら、ふたつ上になる。
浅葱とカノンの母親である徹に関しては、五つ上だったかな。
そんな歳上ばかりに囲まれていた俺にとって、瑞基はとても新鮮な存在だった。
生きた状態で会った赤ん坊が、まず初めてだった。
しかも両親共に非常に優秀だったため、ある程度のワガママが許されるからと、集団保育はせずに、自分達で子育てをしていた。
だから成長過程というものを、断片的にではあるが見る事が出来た。
赤ん坊という名に相応しい、赤くてシワだらけのくしゃくしゃな顔をしていたサルが、次会った時には手足にちぎりパンを付けたようにムチムチになっていた。
そしてそのうち、小さい人の姿になっているのだ。
非常に衝撃的だった。
よく泣きよく笑い、よく怒ってまた笑っていた。
子は宝というけれど、それよりも余程尊い存在だと、漠然と思った覚えがある。
俺が‘’地球再生計画‘’において、躊躇した事は……まぁ、山ほどあるけれど。
その中でも一番辛かったのは、彼女から父親を取り上げなければならない事実に気付いた時だと思う。
どれだけ迷って先延ばしにしても、結局は、殺したのだが。
最後に見た時の瑞基は、俺の指すらろくに掴めなかった。
その、ちいさな小さな手が、今、俺の手を掴み、握れる位にまで成長した。
その事実になんだか……柄にもなく、泣きそうになった。
心を乱していては、繊細なコントロールは出来ない。
深呼吸をして「始めます」と宣言をする。
相手が男だったら服を全部ひん剥いて、胸元にある霊玉のフタを無理矢理開けるのにな。
そうすれば鑑定眼で霊力が流れようとする方向も詰まりが起きる場所も視えるから。
別に俺は村長みたいな変態趣味はないぞ!
服越しだと、イマイチ分からないんだよ。
霊力の出力を上げれば視えるけど。
見え過ぎてしまって疲れるから、あまりしたくない。
指先から閉じた道をチマチマと開いていくより、霊玉から流れ出ていく霊力を流れるべき道へと誘導する方がやりやすいと思う。
しかし配偶者がいようと子孫がいようと、何百歳だろうと、瑞基は女性だ。
カノンがいる前で服を脱がせるワケにも、柔肌に直接触れるワケにもいくまい。
ヘタをしたら、胸をまさぐるような形になってしまうもの。
それこそ、琥珀に怒られてしまう。
手のひらを上に向けて貰い、小指の指先に触れる。
霊玉から指先に直接流れる道が通っているのは、両手共に小指になる。
なので他者が外部から無理矢理こじ開けていくのなら、小指の先からがセオリーとなる。
霊力は心臓から手、頭へと周り、一度霊力は心臓に戻る。
ソコから再び手へと向かう道、肺や内臓へ向かう道、下半身へ向かう道と分岐する。
そしてまた心臓から手、頭……の順に通う。
一度通れば、体内の霊力が尽きるまで、つまり死ぬまで永遠に霊力は身体を巡り続ける。
そう。
一度作られた道は、一生モノになるのだ。
失敗は許されない。
一気にやったらどんな負担が掛かるか分からない。
ゆっくり様子を見ながら、確実にやらなきゃね。
霊力は骨の周辺や神経が集中している場所が詰まり、流れが滞りやすい。
第一の関門は手のひらだ。
軽く拳を握った時に、だいたい中指と薬指の指先の間にある。
ツボで言うなら労宮に相当する。
自律神経を整えストレスや緊張を緩和させるツボなだけあって、ソコを優しく刺激してやると、全身の道が開きやすくなる。
「あ、なんか……手がポカポカしてきた、かも?」
労宮を通過させた辺りで、瑞基が声を上げた。
霊力が多く、通り道に流れる量が多いと、代謝が上がるらしい。
確かに末端冷え性なのか、冷たかった指先がじんわりと温かくなってきた。
「私の霊力を流していますから。
痛みはありませんか?」
「全然。
なんか……スキルを使う時感覚に似ているわ。
血流が一気によくなる感じ」
「次に腕、ワキ、首、頭と順に通します。
何かあったら、すぐに仰って下さい」
断りを入れてから、再開をする。
ヒジ付近にある小海を経由し、ワキの付近にある肩貞に触れようとしたら、バッと腕を払われた。
ちょ、行動に移す前に、一言言って!
霊力が溜まってワキが爆発したらどうすんの!!?
「ご、ごめんなさい……
くすぐったくて……」
「あ、くすぐったがり屋なんですね。
スミマセン、気を付けます」
極々少量の霊力しか流していなかったので、筋肉や血管を含めた内部構造には、特に負担は掛からなかったようだ。
良かった。
琥珀に「娘を傷モノにしたな」とか言われずに済んだ。
首の風池を経由し、耳の後ろの浮白、こめかみにある太陽、脳天にある百会と順に通していく。
首の天柱から心愈へと通し、次は内臓と足、どちらの道から通そうか。
そう悩んだ時に、グッと霊力が引っ張られる感覚が生じた。
身体は霊力を全身に巡らせようとしているが、瑞基が生命エネルギーを霊力に変換出来ないため、俺の霊力を引きずり込もうとしているらしい。
他人の霊力で全身満たしちゃいかんでしょう。
慌てて霊力の供給を停止しようとする。
ん……?
あれ??
実際はどうなんだろ???
血液は型があるから調べもしないうちにそんな事をしたら大惨事になるからダメだけど、霊力って、どうなんだ?????
「あの……カノン?
心臓から手までの道を通したら、私の霊力が瑞基様に吸い取られるようになったのですが。
このまま流し続けて良いのでしようか??」
「ミズキ自身の霊力は?」
「えぇと……感知、出来ません」
「地球人は通常、霊玉がないからな。
教えたやり方では難しいのか……?
せっかく通したのに、道が塞がったら勿体ない。
負担じゃないなら、微量でも通してやれ。
ミズキは、霊力が通っている感覚は分かるか?」
「スキルを使う時に似てるとは思うけど、違いがよく分からないのよね」
分かる。
なんか微妙〜に違うんだよね。
神経を研ぎ澄まさないと、見逃しちゃう程度の微妙さ加減だから。
確かに分かりにくいよね。
その少しの違いに気付けたら、あとは簡単なんだけど。
だからと言って、生命エネルギーの感覚との違いを、俺が説明出来たらおかしいもんな。
どうしようかな。
「水と地のスキルを使う時には、感覚の違いは無いのですか?」
ちなみに、俺はある。
ケーキのデコレーションをする時の、金口のイメージかな?
こういう装飾にしたい!って思った時に、最適な金口ってあるじゃない??
形もそうだけど、大きさの号数とか。
複数個の「スキル」を持っていると、その出力する金口を選ぶ感覚の違いが、なんとな〜く、使用する生命エネルギーと霊力の微妙な差が、これまたなんとな〜〜く分かるようになる。
ホント、紙一重どころではない、数値にすら表せないような差でしかないと思うんだよね。
その僅かな差異が分かるなら、何度か霊力を流す作業を重ねれば、ある日突然理解出来る時が来るかもしれない。
そう考えての質問だったのだが……
「んー……ないわね!」
キッパリと言い切られた。
ちょっと、絶望的かもしれない。




