神さま、握る。
瑞基の言葉に、彼女とは逆の境遇で「スキル」を使う素質はあるだろうに使えない。
その代わりに精霊術は使えるカノンが、首を捻る。
彼には瑞基の感覚が理解出来ないようだ。
だからって、どちらも使えるからと、コッチに視線を寄越すな!
ジトっとした目で見るな!!
俺の正体がバレたらどうしてくれる。
「体内を巡る霊力の流れを感知させる方法は、ある事にはあるのだが……
俺はもう、腕を吹き飛ばされるのはご免だ」
なぁんだ。
俺に精霊術を教えた時の事を思い返していたのか。
若気の至りというヤツじゃないか。
そんな根に持つなよ。
古代中国の医学において重要視されていた、人体の概念がある。
‘’気‘’・‘’血‘’・‘’水‘’のような、生きるために必要なもの=‘’気血‘’が流れる‘’経絡‘’である。
その経絡に経穴、つまりツボがあるように、霊力にも全身を巡る道やその交差し重要視される点が幾つもある。
体内の心臓近くにある‘’霊玉‘’が、霊力の貯蔵器官になる。
地球人以外は、誰でも例外なく持っている。
霊力を巡らせるためにはまず、その霊玉にハマっているフタを取り除かなければならない。
あくまでイメージだ。
カノンの説明を聞いた時に、俺がそう解釈した。
実際には物理的な覆いの類はない。
生まれた時には、フタなんて付いていないし。
長年使わない・供給もされないとなると、霊玉の中身が空っぽにならないようにと、霊力が流れ出ないように栓がされたように、霊力が体内に流れなくなってしまうのだ。
そして通るものがなければ、次第に霊力の道は狭まり、最終的には道は閉じてしまう。
道が通ってもいないのに、長年貯め続けた霊力が詰まっている霊玉のフタを外してしまったら、霊力が暴走して大変な事になる。
水路の整備もしていないのに、貯水率の高いダムの水を放流したらどうなるかって話だよね。
だから第三者が外部から微量の霊力を、狭まった通り道に流して徐々に、少しずつ道を開くのが推奨される。
すると霊玉のフタも、自然と開きやすくなる。
俺がカノンに保護されて、すぐの事だ。
精霊術が使えないのは、その道が塞がれているせいではないかと、手ずから通してくれたのだ。
霊力を流すと使用出来る、紋様具の類は使えるから、霊力自体はある。
だがその加減が上手く出来ていないようだから、体内のどこかで詰まっているか、道が狭い場所があるか……
いずれにせよ、不具合が生じているのだろうから、診てみようと、結構軽い気持ちでやったんだと思う。
実際には生命エネルギーを霊力に変換する感覚が分かっていなくて、霊玉から漏れ出た分しか霊力が全身を巡っておらず、その量が不安定なだけだったのだが。
そしてちょっとカノンの霊力が身体の中を通っただけで、異物が入り込んだと、俺の身体が錯覚を起こしたのだろう。
その上霊玉にハマっていたフタが、ポロッとはずれてしまった。
色んな要素が重なって、突然一気に俺の全身に霊力が行き渡り、霊力が暴走してしまいそうになった。
その際の危険性は、最悪、霊玉の近くにある心臓にダメージがいくか、霊玉が破壊されて、死んでしまう。
暴走を防ぐには、ようは霊力が滞る事なく流れれば良い。
そう考えたカノンは、無理矢理通り道を外部に作った。
つまり俺の手を握って自分の体内に霊力を受け入れようとしたのだ。
だが防衛本能による反撃の面もあり、また俺の霊力が想定よりも多過ぎた事もあり、カノンの体内を通っている霊力の道から、迎え入れた俺の霊力が溢れ暴れ回ってしまった。
そのせいでカノンの手が弾け飛んで、ミンチ寸前になってしまったんだよね。
突然人体がなんの前触れもなく爆発するんだもの。
アレには驚いた。
元々霊力の流れる道を通すのは、とても繊細な作業だ。
そして年齢を重ねているほど、道が閉じて固定されてしまうため大変になる。
年単位の時間をかけて、道を通す師匠もいるのだと聞いている。
そんな中、俺の外見年齢的に問題ないだろうと、カノンは思いっきり油断をした。
俺が規格外で想定外なヤツだったせいもあるが、気を付けていれば、そんな事にはならなかっただろう。
つまり、カノンが悪い。
恨むなら自分を呪え。
その経験があるから、カノンは瑞基の霊力の通り道を作る作業をしたくないのだろう。
カノンは瑞基が琥珀の娘だと知っている。
そして琥珀の強さも、嫌という程知っている。
散々手合わせをして、地面を転がされまくっているからね。
その娘ともなれば、当時の俺と同等レベルの霊力を生み出せるポテンシャルを持っていると考えてしまうのだろう。
俺もそう思う。
「そんな昔の話を持ち出さないで頂きたいです」
淹れたお茶を飲んで誤魔化す。
本音を言ったら、被っている猫が剥がれてしまうからね。
カノンの不穏な発言に「聞き間違えかしら……」と頭を押さえる瑞基に、追い打ちをかけるように、とんでもない事を言い出した。
イヤ、この際攻撃を仕掛けられたのは、俺の方か?
「ああ、お前が通してやればいい。
それくらいの制御は出来るようになっているだろう?」
「はぁ!?
そん……っ!!
ダメだろ。
失敗したら、俺が琥珀に殺される」
「その心配はいらんと思うが……」
声を荒らげそうになったが、猫を全部脱ぎ捨てる前に、何とか思いとどまる。
だがそのせいで、目の前でヒソヒソと内緒話をするという、とても失礼な事をする羽目になってしまった。
不審に思われるような事をさせるんじゃない!
しかし‘’精霊の使者‘’を今後名乗るなら、精霊術の伝授を求められる事が、出向いた先によってはあるだろう。
その対象が子供ならば、本能で感覚的に使える希望が持てるので、その日が来るまでの知識を与えるだけで十分と言える。
だが対象が大人の場合は、そうはいかない。
段階を踏んで、霊玉から遠い位置――手先や爪先から順に通るべき道を身体に覚えさせる必要がある。
勘の良い人なら、キッカケだけで霊力が流れる感覚を掴んで自力でフタを開ける事も可能だ。
しかし当然、そうじゃない人もいる。
霊力が通る感覚が分からず、霊玉のフタも開けられず、精霊術が使えないまま生涯を終える人の方が、今の所多い。
瑞基なんかは何百年と生きているし、「スキル」のように精霊術を使う感覚と似ているけれど非なるものを使い慣れているせいで、自力で霊力を通すのも、その感覚を掴むのも難しいだろう。
教えるのが上級者向けとなっている。
だからこそ、瑞基に精霊術を使わせられるようになれば、大半の人は問題なく教えられるようになる。
向こうが乞うて来るようなら、実験体としてこれ以上の対象はない。
この効率重視の賢者様は、そう言いたいらしい。
確かにこの半年強で、霊力の扱いには慣れて来たと自負しているけれど……
そして生命エネルギーと霊力の違いが俺には明確に分かるから、瑞基が霊力に変換せずに生命エネルギーをそのまま体内に巡らせようとしたら、すぐに違うと静止をかけられる。
適任は適任なのだろう。
だが、女性に対してそんな、不慣れな事をするのは、ちょっと……
野郎ならば、多少失敗して手足が吹っ飛んでも、治せるし別に良いやと開き直れるのだが。
怒られる心配は要らないって言われても、本当にそう断言して良いのか?
後ろめたさがあるから会わないだけで、琥珀からしてみれば、瑞基は可愛い可愛い愛娘なワケですよ!
親バカ全開で猫可愛がりしてたの、俺知ってるもん!!
俺が抱っこして頬にキスをして貰った時、「どっちに嫉妬して良いか凄く悩む」って血涙を流しそうな勢いで心臓を押さえ付けて悶絶してたのを見ているんだもの!!!
最終的には「妬情するヒマがあったらこの尊い情景を後世に残さねば!」とか言って、萌え散らかして写真を撮りまくっていたけれど。
あの時の琥珀は、正気を失っていたと思う。
……あ、それこそ、あの時の写真って現像したりしてないよな。
遺品の中にあって瑞基が発見してたら、かなりまずい。
認識阻害の付与の効果は、彼女に対してどれ程のものなのだろうか。
近距離だと効果が薄れるなら、やはり手を繋ぐ必要のある道作りは、俺がすべきではない。
正体がバレる。
「回復薬ならストックもあるので、多少の怪我程度なら問題ありません。
この機会を逃したら、一生精霊を見れないまま終わってしまうかもしれません。
ぜひ、お願いします」
有無を言わせない、親にも子孫にも似たあの笑顔で、スっと右手を差し出した。
拒否をする理由が、見付からない。
……腹を括るしかない、か。
女性から誘うように伸ばされた手を取る事なく、ずっとそのまま放置するなんて教育、されていないからね。
「異変を感じたら、すぐに仰って下さい」
受け止めた手は、肯定の言葉の代わりにキュっと握られた。




