神さま、提供する。
荷が勝つと判断して、退く事を選んでくれれば良かったのだが……
邪険にされたと思い込んで、冷静な判断を見失ってしまったのだろうか。
ただ意固地になっているだけならば、深呼吸でもして、落ち着いて欲しい。
セリアはカノンと俺の話を聞いた後、「私に出来る事なら何でもします!」といつも通りのテンションで握り拳を作った。
そう言うのなら、燼霊との戦いになった時には、是非とも村の皆と一緒に安全圏へ避難して頂きたいのだが。
進言をしたらニコリと笑って「それ以外で」と返されてしまった。
その有無を言わせない笑顔が、俺の知っている人を彷彿とさせる。
今は神様になっている、瑞基の父親の顔が脳裏をよぎる。
「……もしかしてセリアと瑞基様って、血縁だったりします?」
「あら、よく分かりましたね。
この子は私の……曾孫?」
「礽孫です、賢者様」
じ、礽孫……となると、直系七親等目か。
琥珀お前、とっくの昔におじいちゃんになっていたのか。
エラい他人行儀な呼び方をしているが、七親等も離れていれば、とうに遠方の親戚程度の扱いになるものな。
おばあちゃんというのも、この見た目では変だし、御先祖様扱いされるのが嫌だからと、通称で呼ばせているのかな。
「カノン……お前、もっと頑張れよ」
「素が出ているぞ」
未だ孫どころか配偶者すら居ない彼の肩をポンと叩いたら、余程不服だったのだろう。
怒気を孕んだしてはいけないツッコミを喰らわせて来た。
さっきハリセンでシバいた、仕返しかもしれない。
事実を言っただけなのに、何てヤツだ。
大人げないにも程があるぞ。
そのよく伸びる頬をつねってやろうか。
地球人の血を継ぐのなら、セリアも漢字の名があるという事だよな。
どんな漢字を書くのか気になる。
けれど漢字名は、家族や配偶者を含めた特別な関係の人にしか教えない風習があるようだし、知る機会は無いな。
瑞基の直系ならば、精霊術が多少なりとも使えるはずだ。
食品や飲料水から霊力を補給しなくても、「スキル」を使うための生命エネルギーが、勝手に霊力に変換されてくれるからね。
ならばと他の集落にも配っているものだと言って、王都の学校で使っている精霊術の教材を渡した。
元々渡す予定だったので、ちょうど良い。
付け焼き刃でどれだけ使用出来るようになるかは不透明だが、コツさえ掴めれば、霊力はすぐに使えるようになる。
今からでも学べば、コレから起こる燼霊との戦いにおいて、戦力にはならないだろうが、少なくとも窮地に陥った時に、自分の身を守るくらいは出来るようになるかもしれない。
文字は読めるという事なので、瑞基と話を詰めている間に読んでおくように、何冊か手渡した。
算術は今は不要だし、精霊術の入門編から応用編までだ。
「王都は随分と発展しているのかしら?
教科書があると言うことは、子供たちが学べる余裕があるということでしょう?
オプリタス大陸は、まだどの村も学校を作れるほど、金銭的にも人的資材にも余裕がないから……」
渡さなかった算数や家庭科の教科書をペラペラと流し読みしながら、落ち込んだ雰囲気で瑞基が言う。
俺が「スキル」で創ったものだから、教科書の紙は質が良い。
更にソレを気軽にホイと提供出来る、潤沢な資産があると勘違いしたのだろう。
人口に関しては、王都の方が確かに多い。
しかしその分貧困の差が激しく、乳幼児の死亡率も高いのだから、なかなかどっちが良いとは言えないと思う。
「王都が燼霊との戦いで壊滅したと言っただろう?
その時大々的に、様々な設備の改修と増築がなされたのだ。
学ばせる機会を与えていると言うよりは、食事の改善から精霊術が誰でも使えるようになるのではないか。
その仮説の実験をしている側面の方が強い。
それにまだ設立したばかりで、無償提供する昼食目当ての希望者が来る程度だな。
いずれは、十歳程度までは学ぶのを必須にしたいと思っているが、道のりは遠いだろう」
「その一歩が、なかなか難しいのよね。
資源に乏しい土地だと、維持するだけで手一杯だもの」
「だから精霊術を使える人口を、身近な人からでもいいから増やせ。
時間の短縮と効率化に精霊術を使い、生活が潤うのなら、精霊様も喜ばれる」
瑞基は「ん〜」と唸り、懐疑的な顔をしながら、予備で積み上げた精霊術の入門編の教科書を手に取った。
「その精霊様とやらが見えないのよ、私には。
本当に存在するの?
スキル以外に超能力めいた力を使っている人を見たことがないんだもの。
魔物や魔族がいるのだから、精霊や天使みたいな存在がいても、おかしくはないんでしょうけど……」
教科書を出したせいで、話が完全に脱線してしまったな。
まぁ、村長の出方によるけれど、まだ何日かは滞在するのだ。
その間に燼霊をどうするか、避難は一時的なものか引越しするのか決めれば良いか。
やはり姿が見えないと、信じられないものなんだな。
そう考えると、地球で神を崇めていた人達って凄いな。
見えなくても近くにいると信じ、日々祈りを捧げて信仰していたんでしょ。
何かあった時に、手を差し伸べてくれたりしなかっただろうに。
心の支えになるならそれで十分だったのかな。
だとしたら、友人を含めた親しい人も支えになると思うのだけれど。
……妄想の中の存在ならば、裏切る恐れがないから安心、という理由だったら切ない。
科学の発展により、信仰対象となる超常現象の多くが解明されても尚、それぞれの神を信仰するのを辞めなかったのだから、相当の理由があるのだろう。
信仰心も遺伝子が関係している、なんて話もあるくらいだし、地球人は何かを崇めるのに向いている種族なのかもしれない。
瑞基は、例外のようだけれど。
日本人なんて、八百万の神なんて言って、周りのアレもコレもと節操なしに神と崇め奉っていた民族なのに。
日本人の純血種がセオリーから外れるって、何か変な感じだね。
お米の一粒一粒に、七人の神様がいるとか言っていたんでしょう?
ソレを毎日食べていたのなら、そのうち自分も神になるに違いない、なんて勘違いしていた人とかいなかったのかな??
はっ!
まさか、その結果神の力の一端を使えるようになって、「スキル」が発現したとか言うのか!!?
「精霊の力を借りなくても、コップを作ったりそこに水を注いだりは出来るじゃない?」
言って瑞基は、器用に空中で素地のままの容器つ作り出し、そこに水を入れた。
火は使えないらしく、土器にはなっていない。
そのため、次第にその容器は水分を含んで、最終的には崩れてしまった。
だがその土塊と水は、宙でクルクルと泥に代わり、地面に落ちて、一体化した。
水分の調整が任意で出来るようで、地面に泥が落ちた跡は見て取れない。
「スキル」は俺のように誰かから奪わない限り、一人一種類の能力しか使えない。
そんな定説があった。
なのに瑞基は水と地、二つの「スキル」を使えている。
母親が「氷のスキル」持ちだったから、そこから派生して「水のスキル」が使えるとか言うのだろうか。
イヤ、過去にも全く別系統の「スキル」で交配させた事は幾度もあった。
しかし二つの「スキル」持ちは誕生した事がない。
琥珀と氷の精霊の前世はかなり強力な「スキル」持ちだったから、イレギュラーな事が起きたのかな。
望まれていたレアな「スキル」は出現しなかったものの、コレはコレでかなりレアなケースだ。
彼女が生まれる前に、俺がいて良かった。
そうじゃなければ、様々な「スキル」の器にしようと、悪い大人達の実験体にされていたかもしれないもの。




