神さま、説明する。
ハリセンをどこから出したのか。
そもそもハリセン自体が何のための道具なのか。
そんなツッコミと詮索ををされたけれど、手品の要領で袖から瞬時に出し入れする様子をスローモーションで説明し、再び披露したら、拍手と共に納得し、対象をどつくための道具だと理解してくれた。
動体視力が良い人がいなくて良かったと、心底思う。
歳と共に衰えていくのだから、瑞基は問題ないと思ったが、セリアもさして良いとは言えなかったようで、無事に誤魔化せた。
「燼霊……懐かしい名称ね」
「なんですか?
その、じんれいって?」
「世界を滅ぼそうとした魔王のお話は覚えてる?
その手下として魔族や魔物がいて、精霊様や三英雄様たちが、力を合わせて倒したとされているでしょう?
その魔族を、昔は燼霊と呼んだのよ」
ちょい待って。
俺、手下なんて引き連れた覚えが無いんですけど!?
しかもこの世界を滅ぼそうとした事なんて、一度たりともないのですが!!?
後世に事実を伝えるのが、どれ程難しいのかは知っているけれど、歴史をソコまで解離させるなら、御伽噺の創作物として伝えて欲しいのですが。
史実として伝えられているんだよね、ソレ?
今すぐ抗議したい!!
……魔王本人だとバレちゃいけないのが、非常にもどかしい。
「燼霊は、魔族と呼ばれて居るのですか?」
「オプリタス大陸では、そう伝えられているわね。
精霊と言葉の響きが似ていると、混同させてしまう危険性があるからじゃないかしら。
魔物と同じ、ヒト族の敵。
そして魔王の手下だから魔族。
そう解釈して子供たちに教えているわ」
なるほど。
文字が読み書き出来ない人達には、全く違う単語で言った方が、確かに通りが良さそうだ。
俺としては、聞き慣れない燼霊等という単語よりも、魔族の方が余程馴染みやすい。
世界共通の名称を、今からでも魔族に変えて貰いたいと思ってしまう。
出来れば魔族が魔王の手下って誤解も、一緒に解いて欲しいな。
俺の手下って、どっちかって言うなら精霊の方にならない?
彼等の力を好きなように使えるし、足に使っているし。
そんな発言をしたら、カノンに不敬だとドヤされるのでしないけれど。
燼霊の名を出してしまったのだから、そして瑞基が燼霊がどんな存在なのかを知っているのだから、少なくとも瑞基は巻き込まなきゃいけなくなったな。
彼の存在の恐ろしさも厄介さも知っているようで、その名が出た時からずっと、難しい顔をしている。
被害を最小限に抑えるためにも、彼女の助力を得れば俺達も動きやすい。
協力してくれると嬉しい。
逆にセリアは燼霊の脅威を、物語の中の存在としてしか認識していないようだ。
ならば、今のカノンのセリフは忘れてしまえば良い。
そして彼女が退席した後、瑞基には事情を説明し、話し合いの結果取り決めた言葉に従って行動さえしてくれれば、それで良い。
騒動の中枢にいる必要は無い。
まだ若いのだし、自分を守る術も無いのだ。
ヘタに関わったら、命を落とす。
「セリア。
カノンのせいで気になるかもしれませんが……貴女のためです。
仔細は聞かず、このまま部屋から出て行き、彼が言った事は忘れなさい」
「なんでですか!?
仲間はずれはいやです!」
イヤ、意地悪で言ってるのでは無いのだけれど……
こういう所は、お子ちゃまなんだな。
年齢、ひとつしか違わないけど。
「勘違いをするな。
お前を爪弾きにしようとしているのではない。
燼霊――ここでは、魔族と言うのだったか。
魔族は強い。
王都が一夜にして滅ぼされた話は、伝え聞いてはいないか?
それだけ強大な力を持つ相手と戦わねばならない。
その話を今からするのだ。
コイツはお前を危険に晒したくないだけだ」
「そ・の!事に気付けるのなら、気遣いを無下にするような話の振り方をしないで頂けますかねぇ?」
ペシペシとハリセンで頬を叩いて睨み付ける。
セリアに苦言を漏らしはしたものの、カノンもせめて話の枕を入れるべきだと思ったのだろう。
渋そうな顔をして、「申し訳ない……」と一応謝罪の言葉を口にした。
チッ!
仕方ねぇ。
許してやらぁ。
セリアは話を聞いた上で巻き込まれるかどうか決めると言い、てこでも動かない雰囲気で口を尖らせた。
ムキになっているのかもしれないが……まぁ、最悪この部屋に入って以降の記憶を消せば良いか。
飲み物を入れ居住まいを正して、改めて話をした。
とりあえずは話題に出たのだし、燼霊に関する話からすべきだよね。
村長が燼霊と確信するに至った根拠を、カノンは列挙した。
そのついでに、先程の光景の理由も述べていた。
余程見られたのが不本意だったらしい。
変態そのものって感じだったもんね。
あと、予想される強さや見込まれる被害なんかも、説明すべきだろう。
ソレは分かるよ。
だけど説明と同時に、村民の避難誘導をお願いしたい旨まで言ってしまうのは、どうかと思うんだ。
瑞基を全面的に巻き込むかどうかは、まだ決まっていないだろうに。
拒否権という名の逃げ道を、残しておけよ。
瑞基に何かあった時の事を考えているのか?
俺は琥珀に怒られるのは嫌だぞ。
怖いもん。
そういう所を考えられず、自分の希望を優先して話してしまうあたり、やっぱりコイツ、コミュ障なんだな……
なら俺が説明しろよって話なんだけどさ。
面倒臭いからヤダ。
村に 粉媒楢がどれだけ汚染されているのか。
除染するのにどれだけ期間を設けなければならないのか。
その説明は、俺からした。
カノンは闇の精霊の術は使えないから、俺しか説明出来る人がいないのだ。
煩わしいとは思えども、カノンに丸投げ出来ないのだから仕方ない。
既に行った実験では、どれだけの時間を掛ければ無害化させられるのか、その結果は出ている。
だけど時の精霊の力を使って、何日も何ヶ月分もの時間を一足飛びに経過させて様子を見ました、なんて説明は出来ない。
時の精霊は一般的には知られていない精霊だからね。
仮に知っていたとしても、時の精霊の力を使える人は血の契約をしているカノンとその妹のアリア。
あと二人の父方の叔父である宰相だけになる。
あぁ、カノンとは従姉妹だし、瑞基も使えるかもしれないのか。
だから一人で村をひとつ丸々造るなんて人間離れした芸当が可能だったのかも。
……ソレを言ったら、俺も人間離れしている事になるか。
余計な事は言わないでおこう。
まだ実験を始めたばかりだから、結果はまだ出ていない。
幾つか用意した観察対象のうち、どの方法が最も効果が高いのか、その予測という形で伝えはした。
実際は既に分かっていてもね。
こういう必要なウソなら、俺は躊躇わずに吐くよ。
ただ燼霊が関わっているせいか、 粉媒楢のそもそもの特性なのかはまだ調べていないから分からないけれど、霊力や聖水による浄化は望みが薄い事は伝えておいた。
水の精霊の中で最高位の浅葱ですら、浄化が出来なかったんだもの。
角骸鯨の角や 粉媒楢の樹皮の成分を聖水で抽出し、効果を上げた時にどう作用するかもためしてみたいが、今はそんな腰を据えてやるような細かい実験は出来ないからね。
聖水は効かない。
その事実だけ伝えておけば良い。
あとものはついでと、浄水器に霊玉を加工したものを取り付ける事を推奨した。
粉媒楢には効果が乏しくても、他の病気や瘴気には効くし、作物の育ちも良くなるのは王都で実験済みだ。
覚えている限りのデータを書き出し、有用性を説いて、俺か、協力して貰えるなら瑞基も同行して、村長に導入の検討の提案をする所から、燼霊か否かの揺さぶりを掛けられないか話してみた。
本人の口から肯定の言葉を聞いていない以上は、村長が燼霊であると断言は出来ないからね。
燼霊相手に言うのもどうかと思うが、出来るだけ平和的に事を進めたい。
俺はまだ、燼霊について何も分かっていないんだもの。
何故加虐心に囚われ、全てを破壊しようとしているのか。
その理由が分かって、矛先を全てか、一部に変更させる事が出来るなら、良き隣人になれるかもしれないじゃない。
……まぁ、十中八九ムリなのだけれど。
燼霊のトップが、元とはいえ恋人だから、そんな事を考えてしまうのかもしれないな。
愛は俺の中に残っていなくても、情くらいはあるもの。
……コレも、世界中に散らばっているとされる、俺の欠片を取り戻した時、何かしら心に変化が訪れたりするのかな。




