神さま、把握する。
どれだけの身体強化を重ねれば、村長がやったようにボディスーツを歪ませる事が出来るのか。
知的好奇心もあるが、本当に人間の力で可能なのか。
それを確かめねばならない。
なんだかいたたまれない表情のカノンを巻き込み試してみる。
感触も見た目も女体に似せて創ってあるせいか、一揉みする度に物凄く複雑そうな表情をするのが、なんだか見ていてとっても楽しい。
「せっかくだし身につけようか!?」と笑顔で進言したら、「頼むから辞めてくれ」と真顔で懇願された。
いくら中性的な顔立ちと言えど、化粧をしない状態で、こんな立派なモノを胸部にふたつもぶら下げていたら、違和感があるのだろうか。
男の格好をすれば女顔と言われるが、女の格好をしても男みたいとは言われないから、てっきりスッピンでも女寄りの顔だと思っていたのだが。
悲愴と表現するのがピッタリな表情をされては、楽しそうとは思えども、強行しようとは思えない。
揉みやすいように、後ろから支えるだけに留めておいた。
だが、しかし。
そんな実験をしている所に瑞基とセリア。
二人の女性が入室してきた。
この二人が、ノックをしないとは思えない。
どうやらカノンをからかうのに夢中になりすぎて、気付かなかったらしい。
パッと見、俺が上半身裸の女性の状態で、カノンが前のめりになって胸をまさぐっているんだもの。
悲鳴を上げられても致し方が無い。
そりゃあもう、見られたのが不本意な事故だとしても、セクハラと訴えられても致し方ないような場面だよね……
鍵を取り付けておくべきだったな。
未成年者には刺激が強いシーンを見せてゴメンよ。
「薬の結果を早く報告したくて、返答を待たずに入室したコチラにも非がある」と言って、瑞基とセリアは、まだ耳を赤く染めたままだが、俺とカノンの謝罪を受け入れてくれた。
なぜあんな事をしていたのか。
その弁明をするのは、少々難しい。
理由が不確定要素を前提にしたものだし、もしその仮定が事実だとしたら、厄介な事になる。
彼女達を巻き込むべきではない。
なので瑞基の報告を先に聞く事にした。
つい礼儀を忘れてしまう程に、良い成果が得られたのだろう?
話したくてウズウズしているに違いない。
話題を変えるために、薬の効果がどうだったか尋ねたら、花が咲いたように明るい笑顔に変わったからね。
とても分かりやすい。
そしてチョロい。
話の誘導に、そんな簡単に引っ掛かってしまうと、この子は大丈夫だろうかと、少し心配になってしまう。
興奮気味に、身振り手振りを交えて、どのような変化が見られたのかを、途中から作業を手伝ってくれたセリアと共に説明してくれた。
まず朝食後にカノンが作った薬を服用した軽症者達は、既に寛解と言って良いレベルまで回復したそうだ。
朝食後から今現在に至るまでの時間って、どれだけ経った……?
俺が追加の薬を作って、村長に襲われてとしている間だろ??
三時間程度しか経っていないぞ。
ホント、なんでそんな効果が早く出るの?
怖いんですけど。
熱も下がり、何週間も寝たきりの生活をしていたとは思えない程で、足腰にも全く支障が出ていないそうだ。
寝返りもろくに打てず、周囲の介助も無かったために、褥瘡が出来ていた人達ですら、その傷も含めて何の問題も見られないのだとか言われた日にゃあ、薬ではなく劇薬だったのではないかと、疑うしか出来ない。
……やっぱり、効きすぎじゃね?
先程まで俺に向けられていたジト目をカノンに返すと、彼ですら想定していたよりも効き目が高かったらしく、「はて?」といった雰囲気で首を傾けた。
俺が「スキル」で創った方の薬を間違えて渡したのだろうか??
目で問うたが、ソッチの薬は成分の分析が終わって以降、研究用にカノンの四次元ポシェットの中に既に入れてあるそうだ。
なので渡し間違えは絶対に無いと、小声でだが断言された。
そうなると単に、カノンの分析力と、調剤の能力が高かったってだけだね。
さすが賢者様である。
……そういう事にしておこう。
この世界では、こういう事を深く考えたら負けな気がする。
回復した人達は、食欲も戻ったそうで、今は久方ぶりの食堂で食事を摂っているらしい。
長い間ろくに食べていなかったろうに、そんな急に健常者と同じ食事をして大丈夫なのだろうか。
お粥とか、重湯から始めるべきだと思うのだが……
薬のお陰で胃腸の調子も整っているのならば、問題ないか。
さて、本命の、本来ならばこのまま 粉媒楢になる道しか残っておらず助からないとされていた、肉体の一部が樹木に変化していた人達はどうかというと、その木になっていた部分が、肉体から切り離された人が出ているそうだ。
朝持って行ったローションタイプのものは、広範囲に塗りやすい利点があった。
また、どこからどこまでが肉体にカウントして良いかが判断出来なかった。
とりあえずオムツの交換もしなければならなかったし、悩んでも仕方がないと、全身に塗ったそうだ。
そりゃもう、眼球や鼻腔内のような、塗るのに躊躇するような場所以外は、全身くまなく塗ったらしい。
皮膚薬って、本来そういうものじゃないと思うのだけれど。
その全身というのは、 粉媒楢になってしまって、枝や葉が伸びていた部分も含まれる。
薬を塗っている最中は、触れば柔らかい、若木と新緑だったのだが、先程改めて顔を出したら、カチコチに固まって、根元からポッキリと折れていたのだとか。
見本として一本持って来たと差し出されたので、受け取る。
そこら辺に落ちている、焚き火をする時に使えそうな、よく乾いた枝だ。
人体から生えていたと言われなければ、誰も分からないだろう。
鑑定眼を通して視れば、‘’ 粉媒楢の枝‘’と表記されている。
人から生えた状態だと、どんな表記だったのかが気になるな。
鉢植えになっていた、元人だった 粉媒楢は‘’ 粉媒楢‘’と表示されていた。
そして人体から分離されたこの枝も‘’ 粉媒楢‘’の表記になっている。
因みに重症者として最初に通された部屋に置かれていた 粉媒楢は、違う名前が表示されていた。
‘’ 粉媒楢(人)‘’と記載され、備考欄に、恐らく 粉媒楢に汚染された人の名前が表記されていた。
この差を、どう捉えれば良いだろうか。
ワンチャン‘’(人)‘’表記の 粉媒楢は、元に戻るかもしれない。
表記の差がある時から、もしかしたらとは思っていたが……ガチで助かる見込みが出てきたな。
なにせ‘’ 粉媒楢(人)‘’の場合、ヒトと魔物が混ざっている気配をしている。
だから気持ちが悪くて、気配感知をOFFにしているのだもの。
既に手遅れなレベルで混ざり合ってはいるものの、ヒトの部分が残っている。
なので魔物の部分を正確に引き剥がす事が出来るかどうかが、分かれ目となるだろう。
ぶっちゃけ、無理だと思っていた。
だって赤と青、二つの色違いの粘土を一緒にこねたら、混ざって引き剥がす事は出来ないでしょ?
マーブル状になって、最後には全く別の紫色になる。
混ざって紫色になってしまった粘土から、赤色だけ、青色だけを取り除く事は出来ない。
だから表面こそ一部が木に変化してしまった人達の中でも、重要な内臓が既に 粉媒楢に侵されてしまっている人達は、既に助からないと判断し、部屋を離したのだ。
実際そういう人達は、重症者達と同じ‘’(人)‘’の表記になっていたし。
軽症者は状態異常の欄に‘’寄生( 粉媒楢)‘’と記載されていた。
明確に、表記が違うのだ。
なのでヒトを温床にして育ち、混ざりきっていない状態の 粉媒楢だと‘’(人)‘’の表記になるのだと思っていた。
そして暫くして取り込まれ、完全に魔物になると――魂も何もかも、全てが魔物に変化してしまった時に、‘’(人)‘’の表記が外れるのかと想像していた。
しかしこの枝を見る限りでは、その仮説はどうやら違うらしい。
先程まで、間違いなくヒトの身体から生えていたのに、‘’(人)‘’表記がない。
枝の根元を見れば、既に乾いてはいるものの、血が付着している。
肉体から生えていたのだから、切り離されれば血も出るだろう。
この枝は、間違いなく罹患者の血液が通っている。
でも、表記は 粉媒楢となっといる。
人体の要素が含まれているにも関わらず。
木の皮を剥いで、どのような内部構造になっているのか。
血管が枝の内部に通っているのか、それとも維管束のように植物の内部組織に血液が通っているのか。
はたまた両方が貫いているのか……
是非とも調べたい!
だが血みどろブシャーとなったら、先程のおっパブよろしくな光景よりも、更に酷い発禁指定を食らう光景が繰り広げられる事になる。
枝を何本か頂いて、後日時間が取れたら研究させて貰う事にしよう。




