神さま、報告を受ける。
精神的なショックから立ち直るのには、どうしても時間がかかる。
俺自身にはその自覚が無かったのだが、周囲は目敏く察するものらしい。
サッサと村長の処分をどうするか決定をして、俺の中で既に亡きものとしたい部分があったのだが、どうやら無意識に話題が出ると、身体を強ばらせてしまうようだ。
明らさまに、カノンと瑞基は村長の話題を避けた。
むしろ気にされる方が、気になってしまうのだけれど。
だが……まぁ、厚意を無下にしてはいけないよな。
そう思い、せっかくなので病室の人達の様子が、一晩でどれだけ改善されたのか、報告を聞く事にした。
昨日の夕飯の時点で渡した薬は、角骸鯨の角を使い、カノンの助言を貰いながら作ったものだ。
俺が「スキル」を使って創ったものや、ソレを手本にカノンが作ったものよりも、効果はだいぶ劣る。
しかしちょうど良い俺の学びの場になるからと、質の良い薬草をふんだんに使わせて貰ったし、ビタミンたっぷりのジュースも飲ませた。
ろくに栄養を摂れていなかった人達には、むしろ効果が高過ぎて負担になるのではないか。
その懸念があったのだが……幸い、軽症者は分かりやすく回復していたそうだ。
病室には入っていないが、熱があったり倦怠感が続いていたりしていた人達も、見事に回復したらしい。
今朝は量こそ少ないが、久方ぶりに普通の食事が食べれたと、嬉しそうにしていたそうだ。
それは良かった。
食事は、生きる気力に直結しているからね。
だけど健康に良いものって、基本、ジワジワと効いていくものだよね……
そんな劇的に効くって、むしろ毒物なんじゃなかろうかと疑いたくなるのだが。
本当に大丈夫なのか?
まぁ、カノンも頷いているのだから、鑑定眼で、問題が無いかのチェックはしているはずだ。
彼が注釈を入れてこないという事は、特筆すべき重篤な副作用は無く、認容性の高い薬だったと言えるのだろう。
それなら、俺が「スキル」で創った見本薬も、カノンが夜通し作ったお薬も、要らなかったかな?
そう考えたが、身体の一部が既に 粉媒楢に変化してしまっていた、本来ならばもう助けられない段階にあった人達には、昨晩配布した薬は、ほとんど効果が無かったそうだ。
固形物が摂れないのだから、丸薬一粒飲むのですら、かなり負担になっただろう。
症状が重い人は、何粒も飲まなければならなかったし。
表面的にはあまり変化が出ていなくても、内臓が変化し始めていたら、消化吸収代謝のプロセスが上手くいかないだろうし。
だけど今朝はいつもより積極的に水分を摂ろうとしていたし、排泄もシッカリしていたそうで、回復の兆しは見えているようだ。
なので今朝飲ませた、カノンが作った水薬で、どれだけ良くなるか、暫くは経過観察をしなければならない。
内臓に関しては、エコーもMRIもないから、カノンと俺の眼が無ければ、どのように改善しているか、悪化しているか判断しようが無い。
……そうなると、滞在期間を延長しなきゃいけないよな。
村長への処分も、ね。
元々の予定ならば、彼等は魔物になる事が決定していた。
そのため本来ならば、処分しなければならない範囲にあった。
だけどもしかすると、助けられるかもしれないね。
いやぁ、村長達の命の代わりと言ってはなんだけど、コレで村の人口がプラマイゼロになりそうだし、良いのではなかろうか。
肉体の半分が既に樹木化しており、呻き声しか上げられない状態になっていた、既に完全に手遅れになっていた人達は、一応口から水薬を注ぎ入れ、更に塗り薬も塗布して来たそうだ。
ガーゼが備品に無かったため、塗るだけに留めたのだそうだ。
最初に言っていた言葉通り、本当に実験に使うのならば、煮沸消毒した布を患部に巻く人を何人か用意しても良いかもしれないと進言した。
今朝は一律で同じ塗り方をしたようだが、どうせある程度の日数滞在するのならば、擦り込まずに薬を置くような感じで広げるパターン。
薬が残留している事が分かるレベルで厚塗りをするパターン。
ガーゼで保護をするパターンと、グルーブ分けして観察しても良いだろう。
木肌によって塗りムラが出来てしまい、上手く濡れなかった個体もあったと言われた。
確かに用意したローションのようにサラサラしたものでは塗りにくいだろうという事で、軟膏剤に変えて、ガーゼに塗ってソレを塗布する形にするよう指示をした。
何せ絶対安静と言われてしまっているので、俺はこの部屋から出られないからね。
偉そうに指示するしか出来ないのだ。
大袈裟だよなぁ。
大量のガーゼを用意しなければならないと、瑞基が一度席を外すと言うので、許可を得てノートを借りた。
村長がどのページを見ていたのかが分かれば、他に何か出来る対策が無いか、詳しく読んだら糸口が見い出せるかもしれないからね。
「瑞基様は、特定の……箇所をよく読んだりしていらっしゃいましたか?」
質問を書いしようとして、気付いた。
ページって、日本語で何て言うんだ!?
タバコを‘’煙草‘’、ビールをの‘’麦酒‘’のように、江戸時代後期から外来語を漢字に宛てる際、ページには‘’頁‘’の漢字を宛てられた。
それまで本は袋とじの和装本で、折られたページが裏表で一つのまとまりと考えられていた。
単位は‘’丁‘’で、そのオモテ、ウラで指定をしていた形だ。
一ページ目なら‘’一丁のオモテ‘’、二ページ目なら‘’一丁のウラ‘’みたいに。
こんな面倒臭い言い回しをするのかどうかが、分からん。
判断がつかない。
カノンから勉強のために書物を借りる事はあれども、特定のページだけを見るように指定された事なんてない。
そのせいで分からない。
カノンは俺が日本語以外の表現を用いた時、その単語の意味が分からなくても、前後の文で何となく察してくれる。
それでも分からない時は、自分が学べば良いと思っているようで、どういう意味かを尋ねてくる。
コチラの言葉ではこう言うのだ、と押し付けては来ない。
その弊害が、まさかこんな所で出ようとは……!
ぬかった。
こういう事が、今後も出てくるだろうし、俺も怠らずに勉強をしなければならないな。
俺が地球で学んだ事なんて、このノートに詰まっている、その半分にも満たないのだから。
今からでも遅くない。
何でも、貪欲に学ぼう。




