神さま、迎合する。
揚げドーナツの出来を褒めてくれたのは、素直に嬉しい。
俺が作ったものでは無いが、友人が褒められたのだ。
嬉しいに決まっている。
だがソレに対して「出してくれても良い」って、どういう事?
いつ俺が「どうしても食べてくれなきゃ嫌ですぅ」なんて言った??
脳ミソ 粉媒楢に侵されてんのか???
そんな気配は、無いのだが。
自分の都合の良いように、脳内変換をしているのだろうか。
最低最悪な自動翻訳機能だな。
BADボタンはどこだ。
適切な翻訳ではないと報告する歯車マークはどこにある。
コイツの中で、いつの間にか俺がオッサンに気がある事にされてたらどうしよう……
想像しただけで吐き気が込み上げてくる。
いるよね、一定数。
社交辞令を優しくされたと勘違いし、愛想笑いを微笑みかけてくれたと錯覚し、美辞麗句を本気にして口説かれていると妄想してしまうヤツ。
とても気持ちが悪いから、サッサと関わりを断ちたい所だ。
琥珀の遺品を回収するまでは、ガマンしなければならないが。
生前彼が暮らしていた部屋は、施設のA舎だ。
まだ俺が、この世界に来てから行った事がない場所になる。
行った事が無かったとしても、場所さえ分かれば、座標を指定して瞬間移動が出来る。
どの遺品が無いのか、琥珀に直接確認して貰い、複製出来るものならしてしまうのだけれど。
一応、記憶から再現する事も出来るからね。
現地に行かなくても創れないか、琥珀に聞いてみたけれど、瑞基の話を聞いただけでは、一言で日記と言われても、何を盗まれたのかは分からないと返答されているんだよね。
日記って、そんな何冊も積み上げるようなものだっただろうか?
まぁ、毎日四〇〇字は最低書くとか、物心ついてからずっと日課にしているとか言うのなら、二十年以上生きているのだ。
そういう事もあるか。
だからそんなに沢山あるのだろうと思っていたら、テーマごとにノートを使い分けていたのだとか。
何だよ、テーマって。
一番持ち出された確率が高いのは、日記兼研究書としていたノートだそうだ。
しかし隠してあったヤツならば、そのまま瑞基の手元には返さず燃やして欲しいと乞われている。
詩集とかポエム集とか、そんな感じの恥ずかしい物なのだろうか。
確かにソレは形見として大事にして貰えていたとしても、世に出されたら困る物だよね。
ヒッソリと見なかったフリをして処分して貰いたいと、俺でも思う。
イヤ、俺はそんな物、作ってないけどね。
「お連れさんはどちらに?」
「今朝作ったお薬を、賢者様と一緒に皆さんへ届けに行ってます。
まさか旅の途中で高名な賢者様に出会えるとは思っていなかったので、とても嬉しいです。
何かしら、勉強させて頂ける時間を設けて下さると有難いのですが」
頬に手を添え憂いを帯びた表情で、斜め四五度の角度に首を動かし下に視線をやる。
タイミングの良い事に、薬研車を動かすのにジャマだからと、髪をひとつにまとめてある。
傷を隠す為にハイネックを着ては居るが、好きな人は心を奪われる事だろう。
後れ毛と、うなじのラインに。
「ほ、ほぉ……
彼女から預かっている、書物ならいくつか持っておりますぞ。
あれも忙しいですからな。
興味があれば、今から部屋に参られますかな?」
よっしゃ!
釣れた!!
「あら、そんな貴重な物を宜しいのですか?
さすが村長様は、信頼されていらっしゃるのですね。
素晴らしいです」
手を叩いてニッコリ微笑めば、分かりやすく鼻の穴を膨らませるのだから、救えないオッサンだ。
さすが!
知らなかった〜
凄い!・ステキ!
センスあるね!
そうなんだ〜
なんてほぼ初対面の女に言われても、媚びを売っているようにしか思えないと思うのだが。
イヤ、好意があるから媚びてくるのだと考えれば、悪い気はしないのか?
異性にモテるのは男のステータス、と思っている人はいるだろうし。
それにこのテンプレを知らなければ、褒められて嫌な思いをする人なんて、余程のネガティブな少数派だろう。
まさか男が喜ぶさしすせそなんてテクニックを、俺が使う側になるとは、今この瞬間まで思わなんだ。
対話型人工知能に、会話を全て丸投げしたい。
施設のマザーコンピューターに接続したら、自動音声による返答をしてくれやしないだろうか。
……マザコンと繋がっている、稜霓に嫌がられるか。
上っ面だけの、おべっかばかりを並べた中身の無い会話は、部屋を出てから階段を降りている今までの間、ずっと続いている。
この状況は、周囲からどう思われているのだろう。
表情筋がこの形で固まってしまわないか、明日には筋肉痛になるのではないかと、心配になるくらいには負荷が掛かっている。
ファンデーションが、引きつった笑い皺の中に入り込みやしないかが不安だ。
イケメンな連れがいる、手に職を持っている美女(男)が、ハゲ散らかした虚栄心の塊のような、扱い辛いオッサンに好意を以て接していると、本気で思い違いなんて出来るものなのか?
取り巻き達は、傍から見て何も不思議に思わないのだろうか??
朱に交われば赤くなると言うし、この取り巻き連中も、「ワンチャン自分もグッヘッへ……」とか思っているとか???
だとしたら、余りにも救えない。
俺達が何か企んでいるとバレていて、一人になった俺を狙った。
そう言われた方が納得出来る。
一応半分は男なので、野郎の心理も理解出来なくは無いのだが、なんと言うか……ちょっと、この人達って、前時代的な考え方を持っている気がする。
文明的な話ではなく。
王都に住む人達だって学は無かったし、素で男尊女卑な思想を持ってはいた。
だが女性をこんな貶め見下し、モノ扱いをするような人達は極々小数だった。
確かに女には出来ない、難しい事もある。
ソレを代わりに男がしなければならない。
だがソレと同じ位、男には出来ない事をしてくれる。
そうやってちゃんと、一個人として尊重している。
閉鎖的だからなのだろうか。
気質なのだろうか。
それとも地球人の血を濃く引く事による、作用なのだろうか。
後戻りが出来なくなるまで同族同士で争い、ひとつの惑星を滅ぼすような、救いようのない粗暴な人種の血が濃く入っているのだもの。
可能性としてはあるよね。
施設には遺伝子として優秀な人達が残されていたが、やはり鬱火病のような、遺伝子由来で発症する病気がある民族の血は、残すべきでは無かったのではないかと、考えてしまう。
選民意識は良くないと、同時に思いはするけれど。
まぁ、そうやって優秀な血脈だけ残したとしても、どうしたって突然変異というものは起こるのだ。
選り好みをした所で、さして意味は無いか。
単に増長した結果、こういう性格になっただけって話も、可能性としてはあるだろう。
村長職が世襲制ならば有り得る。
親の七光りを自分の実力と勘違いして、偉ぶった中身の無い人間が出来上がる事は、多々とあるからね。




