神さま、引き攣る。
ヒマだからと言って、何もしないでいるのはちょっと気が引ける。
セリアは歳下。
瑞基は朝のひと仕事を終えている。
カノンは薬を完成させた。
対して俺は、寝ていただけ。
……うん、何かしなきゃだね。
化けの皮を顔面に塗ったくった後、カノンが作った薬と、同等の物を複製する作業に取り掛かった。
俺の創った薬は、侵食度合いが余程酷くない限り、一回の使用で効果が出る。
特に水薬は一度の服用で体内の 粉媒楢の因子を全て排除出来る。
しかしカノンが作った劣化版だと、毎食後の服用は基本として、ソレを何日間続ければ良いのかは、まだ分からない。
完全に手探り状態だ。
安全性が確保されていない上、治験をせずに重篤な患者に新薬を投与するなんて、とは思う。
しかしそんな悠長な事は言ってられないし、何よりカノンには鑑定眼がある。
何か事態が急変しても、対応出来るしなんとかなるだろう。
その場合、もしかしたら身バレするかもしれないけどね。
賢者が対応し切れなかった問題を、アッサリ対処したとなれば、コイツは何者だ?と疑念を抱かれるのは、至極当然の流れだろう。
瑞基は長年積み重ねてきた信頼があるから、村八分にされるような事にはならないと思いたいが。
実は世界的に有名な賢者様は瑞基じゃないんだよ、と知った時のセリアのように、多少の落胆位は覚えるだろう。
それでも、自分達が信用し、今まで自分達に尽くしてくれたのは瑞基だから、そんな称号は関係ない。
そう言った彼女のように、他の人達も同じように思ってくれると良いのだけれど。
周囲に一切の配慮をしない、むしろ自分に注目を集めるためにワザとやっているだろう。
そう思わせる大きな足音が、部屋に近付いて来た。
……村長一派か。
そう思った瞬間、扉が乱暴に開かれた。
ノックなし。
声を掛けるような前置きもなし。
一応、対外的には女性が泊まっている部屋なのですが?
着替え中だったらどうすんの??
……あぁ、ラッキースケベを狙ったのか???
クズだなぁ〜。
朝っぱらから、歩く猥褻物みたいな顔面してるもんね。
俺のムダに高い顔面偏差値を、分けてあげたいよ。
「お早う御座います。
何か御用でしょうか?」
悪態も悪口も、おくびにも出さずに表情筋だけで笑って村長を出迎える。
今しがた薬研に放り込んだ薬草は、すり潰してから時間が経ち過ぎると変質してしまうのだが……
まぁ、手遅れになってしまったら、その時には時間を巻き戻せば良い。
今は村長の機嫌を損ねないようにするのが先決だ。
しゃらくせぇヤツである。
「なにやら薬を配っているようですな」
「えぇ。
角骸鯨の角に、 蕺草や 長寿菜等を混ぜた物を。
村長様は、飲まれましたか?」
挨拶をされたら返事をするのって、常識じゃ無かったのかしら?
された挨拶を返さない人って、後暗い事がある人が多いから、不審者として通報して良いって法律は無いのかしら??
もしくはワンパン喰らわせて良いって制定してくれないかしら???
国王陛下、今この瞬間に作ってくれないかなぁ……
フンッと鼻クソでも飛ばしてきそうな勢いで、大きく鼻息を噴出さてふんぞり返った村長は、「安全かどうかも分からないものは飲めない」と嘲笑した。
そんな村長とは裏腹に、取り巻き連中は「えっ!?」って心底驚いた表情をしている。
自分は安全が確保されてから飲むと言うのに、周囲の親しい人達まで使って人体実験を無断で敢行しているのか。
ゲスいな〜。
そして心底失礼なヤツだな。
昨日の薬は紛れもなく俺が作ったものだが、今朝の薬も含めて対外的には作ったのは薬師として紹介された俺になっているはずだ。
製作者本人の前で、信用出来ないから飲まないって言ってしまえるその神経、凄過ぎないか?
余りにも不遜過ぎて、逆に拍手を送りたい。
「あら……
となりますと、食後の甘味もご賞味頂けなかったのですか?
力作でしたので、残念です」
しおらしそうに頬に手を添えて、眉を八の字に下げる。
グッと息を飲んだのは、取り巻き達だ。
何でお前等が動揺するんだよ。
別に食べて欲しかったのは、コイツ等にではない。
なので食べてなくても、何の問題はない。
俺が食べて欲しいと思ったのは、 粉媒楢に侵された子供達にだ。
あとは善良な一般村民達ね。
生の果物を摂って欲しかったが、寒い地域だし身体を冷やすのは良くない。
隔離されていた人達みたいに、固形物が摂れないワケでもないのだ。
ならばと、ドライフルーツやナッツをふんだんに入れた、揚げドーナツを作ったのだ。
いつの間に?等とは言うなかれ。
時間も次元も思いのままに行き来出来る俺だからね。
そんなものは、文字通り、朝飯前だ。
単に今回は琥珀に王都にある俺ん家で作っておくよう命じておいて、俺はデリバリーをしただけなんだけどね!
流石に四次元ポシェットの中に、村ひとつ分の住民を賄えるだけのお菓子は持ち歩いていなかったんだもの。
プチパンケーキでも良かったけれど、とにかくここの集落の人達にはカロリーを取って欲しい。
苦肉の策にはなるが、焼くよりも揚げた方が、油の分摂取カロリーが増える。
年配の人には少々油っこく感じるだろうが、子供の健康が優先だ。
既に発症している人達には、まだ固形物は辛いだろうから、この後また、フルーツジュースの差し入れでも持って行こうかと思っている。
飲み合わせが悪い果物が無いか、確認しないとだよね。
グレープフルーツや文旦に含まれているフラノクマリン類が高血圧の薬や向精神薬の相性が悪いように。
りんごやオレンジのジュースに含まれているフェキソフェナジンがアレルギー治療薬に影響を及ぼすように。
意図しない所で悪影響を及ぼす危険性はある。
薬は基本水で飲むのが正解だ。
そして影響を及ぼす食品は、薬を飲んでいる間暫くは、摂取しない方が良い。
……ソレを考えると、揚げドーナツはちょっと浅慮だったかもしれない。
地球の常識では、薬の服用中でも食べて問題無しと判断される果物に類似したフルーツを乾燥させたものを入れたけれど、この世界でソレが通用するとは限らないんだもの。
後でカノンに言っておかなきゃな。
彼なら、長年薬師としても活動しているのだし、一定の食事と薬では飲み合わせが悪いものもあると、知っているかもしれないが。
もしそうなら、今回使った材料に該当する物があったら、使おうとした時点で止められているか。
「あの甘味はなかなかのものだったな。
滞在中、毎日出してくれても構わない」
……何言ってんだ?
このオッサン??
思わず貼り付けた笑顔が崩れそうになる。
会話のキャッチボールは、IQが三〇離れると成立しなくなると言うが……ソレか?
ソレなのか??
イヤ、価値観が違えば前提が異なってくるのだから、会話が成り立たないなんて事は往々にして有り得る。
バカだと見下すのはまだ早い。
だが薬は飲みたくない。
けどお菓子は食べたい。
そんな幼児のような理論がまかり通っていると思うような価値観を持ってるいい歳したオッサンなんてさ、バカとしか言いようがないよね。
後先考えずに右ストレートを決めたくなるな。
メリケンサック付きで。




