神さま、作る。
カノンが俺の傍らしていた実験のお陰で、角骸鯨 の角には、 粉媒楢を不活性化させる要素が含まれている事が判明した。
角の粉末を飲むと楽になるだなんて言われても、眉唾物だと思っていたが、実際に効果があるのだそうだよ。
ビックリだね。
摂取し体内に入った角は、中和作用を持つ抗体のような働きをしてくれる。
角骸鯨 が死ぬまでに、 粉媒楢の因子が芽吹かない理由のひとつが、この角の効果によるものなのだろう。
粉媒楢が体内に入り込んだタイミングで、無害化させる成分が角から分泌されるのか。
はたまた 粉媒楢を無害化して体内から排出した結果角になるのかは不明だ。
分かるのは、角骸鯨 の角の効果が、人間にも有効だという事である。
カノンは効果以外の細かい部分も気になるようだが、今の所はソレが分かれば十分だ。
なので研究したいなら、家に帰ってから時間がある時にジックリとすれば良い。
それなら没頭して徹夜しようが何をしようが、問題無いからね。
軽症ならば、角骸鯨 の角をそのまま摂取すれば良い。
歯と顎が丈夫なら、ワイルドに丸かじりして、ガリゴリと噛み砕いて身体に取り込んでも良いだろう。
どんな形でも、供給さえあれば良い。
だがやはり、細かい方が吸収率は高くなるが。
あとは、女性ならばメス、男性ならばオスの角骸鯨 の角の方が効果が高い。
生成された後、時間が経過していて成分が凝縮されているのか、根元よりも先の方が良いんだって。
なので今は軽症の人向けに、根元に近い部分の角を、薬研を使ってゴリゴリ粉砕しているワケだ。
他にも手持ちの薬草で、解毒や新陳代謝促進効果があるものを混ぜている。
時折カノンに確認を取って、次に何を混ぜるか、どれだけ細かくすれば良いかを指導して貰う。
こうしていれば、ちゃんと師弟っぽく見えるだろう。
こんなの、適当に薬研車を前後に動かせば良いだろうと甘く見ていた。
体重を乗せないと車自体が動かないし、その際の重心移動が上手くいかないと、思うように角も乾燥させた薬草も潰れてくれないのだから、意外と奥が深い。
角から切り取る時に使ったのが、「スキル」で創り出した愛用のナイフだったのでアッサリ切れたから、油断してた。
使い慣れない道具で砕こうとすると、なかなかに難しいものだな。
薬なんて「スキル」で創れば、一瞬で出来上がる。
体内に巣食う 粉媒楢を、全て排除するようにイメージすれば、不要な部分は適切に補完され具現化する。
出来上がった薬を鑑定眼を通して、成分や作り方を視れば、「スキル」を使わなくても複製が可能になる。
成分は変わらないのだから、効果だって変わらないはずだ。
なのにこうして手間暇を掛けた方が効果が高いなんて思い込みが生じるのは……分かる気がするな。
愛情が込められてるからだよ。
そんな寝惚けた意見があるかもしれないが、この際込められてるのは「早く細かく砕けろや、ボケェ」って怨嗟の念なんだけどな。
どっちかっていうと、具合が余計に悪くなりそうな気待ちがコレでもかという程こもっている。
けれど、飲んだら効きそうなのはどっち?と聞かれたら、手作りの方なんだよね。
何でだろう??
コレも霊力のなせる技なのだろうか。
怨念はこもっているけれど、実際治るようにとも思っているし。
細かくした粉は、乳鉢に移し少量の油を入れて、ひたすら練る。
油を入れ過ぎて緩くしたら、飲みやすい丸薬にはならない。
そのため混ぜにくいが、少々硬い。
それくらいが丁度良い塩梅だと言われた。
だんだん油が馴染んでくると、ネッチョリもっちりとした半固体になる。
わらび餅よりは硬いが、葛餅ほどプルプルはしていない。
何とも言えない感触だ。
ソレを 扇形製丸器に空気が入り込まないように気を付けながら押し込む。
型からはみ出た分は、ヘラでこそいで取り除く。
型を広げると、丸く均一に形成された薬が外れる。
配りやすいように、酸化重合させて乾燥膜を表面に作る。
コレで触ってもペタペタしないから配りやすいし、口の中で溶けにくいから子供や年寄りでも飲みやすかろう。
「カノン、確認をお願いします」
男女の薬をそれぞれ別の容器に入れて渡す。
手渡された丸薬の重さに差がないか、カノンは風精霊術を使い、浮かせて確認する。
家では秤を使うけれど、流石に持ち歩いていないもんね。
体重によって、また 粉媒楢の侵食加減によって薬の量を変える。
また中等症の人は、一番効果が高い角の先端部位を使わねばならないので、また別に用意をする事になる。
作った分は全てOKが出たので、そちらを作るのに取り掛かる。
「それで……重症者達を救う手立ては……」
「無い。
諦めろ。
これ以上被害を拡大させないため、全て処分することを強く勧める」
「処分って……そんな言い方ないでしょっ!」
カノンの非道な物言いに、つい感情が昂ぶったのだろう。
語気が強くなった瑞基は、ハッとした後視線を彷徨わせ、それでも「ごめんなさい」と、バツが悪そう……イヤ、悔しそうに、謝罪の言葉を口にした。
カノンに怒っているのではない。
何も出来ない自分の無力感が、腹立たしいのだろう。
しかも村人達の同意もあったとは言え、貴重な樹木だからと後生大事に世話を見ていた 粉媒楢が、実は魔物だったなんて言われたら。
更にはそのせいで被害が拡大していたなんて聞かされたら。
ほぞを噛むような気持ちにさせられても仕方がない。
自分の決定のせいだもの。
本来そういう責任感を背負うべきなのって、村長の立場にいる者なんだけどね。
しかしカノンと二人、あのオッサンに話をする前に瑞基にするべきだと判断し、こうして今、話している。
村長には言うつもりのない、村全体が汚染されている現実と、その解消策や難易度。
それとこの村を棄てて、新たな村を興す事は可能かどうか。
その話をするために。




