神さま、試す。
畑の耕土はだいたい、四〇cm程の深さだろうか。
畝によって作っている作物は違う。
ソレに合わせて畝ごとにpH値を変えているようだが、 粉媒楢の汚染度合いは……変わらない、か。
瑞基が用意したのであろう、野菜を栽培するのに適した柔らかい土の部分は、全て漏れなく汚染されている。
瑞基達がオプスクリス開拓村に引っ越して、もう一〇〇年以上経っている。
そんな中で定期的に、 粉媒楢に汚染された角骸鯨由来の肥料を混ぜているのだ。
当然の事か。
しかしその下の岩盤は、 粉媒楢の因子は入り込んでいない。
元の形が樹木なのだから、根でも張りそうなものなのに。
粉媒楢とて、人の力が入らないような地中深くで根を張ろう等と、愚かな考えは持たないという事なのだろうか。
となると、木のくせに知能があるのか?
厄介だな。
実は夜な夜な、鉢植えから脱走して、村の中を走り回っているとか言わない、よな??
怪談話とか、冬にするのは非常識だと思うんだ。
……イヤ、別に、怖くねぇし。
相手は魔物だもの。
もし怪奇現象だとしても、そんな馬鹿げた存在をいちいち怖がっていたら、精霊の皆まで怖がらなきゃいけなくなるじゃん。
ココは異世界。
地球とは常識が違うのだ。
幽霊とかオバケみたいな魔物もいるのだから、怖がっていたら生活なんて出来ないよ。
「 粉媒楢は聖水や霊力で、浄化できるものなのか?」
「今浅葱に試して貰っているけど……
どうだろうな。
軽症者の部屋にいた人達に聖水入りの果実水を与えたけれど、劇的な変化は無かったんだよね〜」
言いながら、畝に盛られた土を、ひと握り分だけ手に取った。
へこんでいたって、事態は好転しない。
時間と共に解決するなら大人しく、地面に‘’の‘’の字でもひたすら書いているが、今はそんな時間の余裕は無い。
一刻を争うような、深刻な状態なのだ。
そんなヒマがあったら、少しでも解決の糸口を見付けたい。
鑑定眼では、残念ながら原因は直接判らなかった。
だが利用すれば、真実に辿り着けるかもしれないのだから。
少しでも動かなければ。
眼に霊力を込めながら、汚染度合いをパーセンテージで表示させようとする。
しかし最下層だから、月の光があまり届かない。
そのせいで鑑定眼が思うように機能してくれない。
あんの闇の精霊、もっと協力的になれよ。
この村の連中が全滅したら、どうしてくれるのだ。
腹を立たせながらも、手っ取り早い解決方法として、光の精霊神:稜霓の力を借りて、光源を生み出した。
普段の光量では、ココでは眩しすぎる。
眩しさを調節して、カノンに手渡した。
俺は鑑定眼に集中したいから、ソッチの制御は任せた!
まずは手のひらいっぱいの土に、俺の霊力を直接注いでみる。
しかし飽和状態になって物質として存在出来なくなる瞬間まで、 粉媒楢の汚染が解ける事は無かった。
こんなものをまとっていた所で、何の役にも立たない。
具現化させて、足元に全て落とした。
他の土と混ぜてみるが、霊力が豊潤なため汚染こそされないが、既に汚染された土が浄化される事は無かった。
ならばと地の精霊神:琥珀の力を借りてみる。
次は土そのものに働きかけ、無害化が出来ないかを試してみよう。
……一応、やって出来ない事はない。
だが土をそのまま総取替した方が手っ取り早いね。
霊力の消耗度合いの、割に合わない。
この村長ご自慢の広大な土地全ての耕土を取り替えるとなると、瑞基の負担が大き過ぎる。
だからといって、他の住民が精霊術を覚えるまで、このまま放置というワケにはいかない。
地精霊術が不得手なカノンには、丸投げ出来ないし。
賢者様が出来ない事を、弟子の俺が出来るのも、変な話だし。
カノンの不得手で分かる通り、地属性と風属性の相性は悪い。
そのため、颯茉には最初から頼らない。
除け者にするなとギャンギャン騒いでいるが、スルーする。
光照射はどうかと稜霓の力も試してみたが、琥珀の時と同様、霊力の消耗が激し過ぎるな。
紫外線による核酸破壊は、除染の基本なのだが。
やはり無理か。
残念だ。
ならば火の精霊神: 紅曜の力を借りたらどうなるだろう。
……精霊術のフルコースで 粉媒楢に挑んでいるな。
そんな凶悪な魔物でも無いのに、過去一で対処に手間が掛かっている気がする。
当たり前のように、土に混ぜられた 粉媒楢の骨が溶ける前に、土が溶けてマグマに変わってしまったため、実験は失敗に終わった。
一応で言うのなら、骨が変質する高温まで上昇させたら、無害化はされたけれど。
火山岩状態になってしまった、元土では作物なんて育てられない。
火精霊も無理か。
ならば逆に冷やしてはどうかと氷の精霊に凍らさせたが、全く変質せず。
元素の精霊の力だと、物質そのものを書き換えてしまうから、なんか違うよな。
村の人達が出来る、対処法が無いかの実験だからね。
彼女の力は今回は借りられない。
残るは闇の精霊と時の精霊か。
時の精霊も元素の精霊と同様、他の人達には使えない精霊の力だからなぁ。
無害な時期まで、土の状態を巻き戻すだけだし。
根本的な解決にはならないから、無しだね。
闇の精霊の力、となると、まぁ、 粉媒楢が木の魔物と考えれば、一切の光が通らない暗闇に閉じ込めておけば、もしかしたら枯れてくれるかもしれないが……
契約をしていないから、他の精霊達と違って、イメージだけ伝えて術を使う事が出来ないんだよね。
少々面倒臭い。
「包闇封」
闇そのもので出来た風呂敷で、新たに拾い上げた、汚染された土を包む。
風呂敷の中は外界と完全に隔絶された、亜空間のようなものだ。
内部の環境は、術者の俺が任意で変更出来る。
霊力も魔力も、更に言うなら空気すら取り除く。
ひとつずつ空間を構成する要素を削ぎ落としていく。
粉媒楢に反応が起こったタイミングで、先に無くした要因を順番に足してみる。
粉媒楢の生体反応が弱まったのが、複数の因子の相乗効果によるものなのかを確かめなきゃいけないからね。
あぁ、あとは活性化する要素も特定しておくべきか。
俺が 粉媒楢が混ざった土をこねくり回している間、カノンは角骸鯨の角が、どのように 粉媒楢に作用するのかを実験する事にしたらしい。
メスとオスの角の先端と末端の欠片をそれぞれニcmずつ寄越せなんて細かい指示をされたので、四次元ポシェットの権限の範囲を変更する。
俺は俺で忙しいのだ。
そんな面倒臭い指定をするなら、自分で勝手に取れ。
ポシェットの見た目と違和感ありまくりの、太くて長い角をズルズルと引きずり出す。
なんか、手品でも見せられている気分だな。
口から剣とかの長物を出す、パフォーマンスみたいだ。




