神さま、傷病分類する。
除菌や殺菌なんて、生ぬるい。
両手がズタボロになるまで、徹底的に滅菌したい。
そんな事を考えたせいだろう。
両手が水で覆われた。
水の精霊神:浅葱の仕業である。
そんな風に言ったら、余計な事をしたと思われてしまうか。
むしろ、感謝すべき所だもんな。
浅葱のお陰で、手にまとわりついて乾燥した、ニッチャリとした手汗は、聖水によってシッカリ綺麗に落とされた。
しかもこの数日、寒さによってかじかんで切れていた指先まで、潤いに満ちている。
保湿までしてくれるとは、サービスが良いな。
心の中で感謝をしつつ、 粉媒楢に肉体を巣食われている人々がいる部屋へと向かう。
因みに、瑞基は村長一派に煙たがられ、案内の途中で追い返された。
セリアは持ち帰った薬草を煎じたいと言って、自ら別行動を取った。
両親に飲ませるのなら、俺とカノンが作った薬を先んじて渡そうかと尋ねたが、ソレは断られてしまった。
まだ軽症だし、贔屓をするのは良くないそうだ。
症状が軽いとはいえ、親が倒れているのに、この気遣い。
稀に見る善人だな。
というか、凄い日本人気質と言うべきか。
彼女も地球人の血が入っているのかな。
自分や身内が困っていても、周囲を見るのが日本人だものね。
それで共倒れになったら、ただの愚か者だと笑われる所だろう。
だがそうならないように、自分に出来る事をしたいと、少しでも薬を作ろうと言うのだから立派である。
……ゴメンな。
キミのその頑張りが無意味なものだと知っていながら、俺は真実を打ち明けられない。
集めた薬草の中から、毒物を抜き取った事でチャラにしてくれ。
粉媒楢の種子や花粉に体内を侵されたら、生体防御反応がどれだけ強いかが命運を左右する。
白血球が排除してくれれば、発熱の後に症状は落ち着くからだ。
病原菌やウイルスと一緒だね。
だが排除し切れなかった場合、粉媒楢の細胞は、短期間で体内増殖をする。
この時点で外的要因によって体外へ排出出来れば、まだ助かる。
しかし 粉媒楢の増殖した箇所が骨髄だったりリンパ節だったりすると、血液中やリンパ液にも溢れる事となり、一気に体内を巡ってしまう。
進行の早さが個人で違う理由には、栄養状態によって左右される免疫系統の問題もあるが、一番は最初に寄生した場所がどこかによるのだと思う。
人間の胃酸というのはなかなかに強力な酸性をしている。
レモンやお酢より、余程強い。
なので 粉媒楢の種子を誤って食べてしまったとしても、かなりの量を摂取ない限りは、胃酸に溶けて無害化される。
胃酸で溶けきらなかった分が、腸を通して体内に吸収され、増殖してしまう。
花粉による呼吸器官への感染が、一番疑いが強いだろうか。
樹液を浴びて体内に入り込むパターンは少ないだろうし。
しかし、大抵の村民は、村の外に出ていない。
そしてこの近辺の森では、 粉媒楢を見ていない。
……感染経路が不明なのが、気持ち悪いな。
「失礼致します」
大きめの音を立ててノックをし、返事を待たずに中に入る。
病に侵されているのならば、皆大人しく寝ているだろう。
そうじゃなくても、身体が辛くて返事をするのもままならないに違いない。
何せ魔物が体内に入り込んでいるのだから。
なので返事を待つだけ、時間のムダだ。
「カノンは男性を視て下さい。
私は女性を視ます」
「名前と特徴は分かるが、侵食度合いは、俺の所見でいいのか?」
「いえ……そうですね。
あの方を一、あちらの方を三として、格付けをして下さい。
それぞれの症状に見合った薬を作ります」
「分かった」
誰が聞いているかも分からないので、一応カノンを苗字で呼んでおく。
そして俺も口調は崩さない。
アチコチ散々歩き回ったので、お化粧が崩れていないかだけが心配だ。
ファンデーション浮いてないかな。
汗でアイシャドウ落ちてないかな。
カノンも鑑定眼で視れば、症状の度合いは分かるだろう。
多少迷いはするだろうが、三段階査定ならば軽症か重症か、それ以外に分ければ良いだけだ。
まだ発熱しているだけの段階。
粉媒楢化が始まっていて、通常は助からない手遅れの段階。
そしてその間の、今処置をすれば持ち直せるかもしれない段階に分けるだけだもの。
薬を創るのは任せて貰えば良いが、出来るだけ多くの人を救うならば、俺とカノン二人の手だけでは圧倒的に人手が足りない。
なので後で人員を貸して貰い、その人達に薬を配って貰おうと思っている。
その時に誰にどの薬を渡すのか、いちいち付きっきりで説明をせずとも、名前が分かっていれば、配りやすいだろう。
なので名前と評価、そして患者の特徴をセットで記して貰う。
トリアージのように五段階判定にする事も考えたが、ややこしいので待機・緊急治療・死亡の三段階にさせて貰った。
既に手遅れな、死を待つばかりの人達をどうするかに関しては、カノンと二人きりになった時に要相談だ。
俺の神の名を冠するスキルのひとつ「完全再生」ならば、もしくは時の精霊の力を借りて時間を巻き戻すのであれば、黒判定の人達も漏れなく救える。
だがそこまでして良いのか。
それだけをする価値があるのか、俺には判断が出来ない。
出来れば瑞基も交えて、話したい所ではある。
だってあの村長は、自分に災難が降りかからなければ、全部軽傷だと思っているような人間だもの。
ろくな判断をしないと最初から分かりきっているのだ。
話をする時間が勿体ない。
だが瑞基にとっては、ここの住民は皆、我が子も同然なんだよな。
そう考えると、助ける一択だろうなぁ……
既に完全な 粉媒楢になっている人達まで、全て助けるとか言い出しそうなので困る。
助けられなくはない。
それだけの力を、俺は持っている。
だが、精霊信仰促進委員会の勤めは果たせても、賢者と精霊の使者布教活動には直結しないんだよなぁ、と考えると、手間やしがらみの方が強く傾いてしまう。
俺達の利益が、余りにも少ない。
だってもう、魔物になってしまった人達なんだもの。
そして過去には、 粉媒楢によって全滅した集落もあるのだ。
この村だけ贔屓をするっていうのもね。
間に合った人達は全力で助けるけどさ。
いくら神の如き力を持とうと、助からなかった命まですくい上げるのは、なんか違うんじゃないのだろうか。
その答えは、ずっと、出せていない。




