神さま、止める。
勘違いをさせてしまったと、すぐに気付いたのだろう。
カノンの反応に驚いた瑞基は、すぐに謝罪をした。
英雄と言っても、カノンの父や母を示す三英雄ではないそうだ。
……明らさまにガッカリしている。
カノンの父親も日記を遺していたが、遺言に従って今、彼の手元にソレは無い。
遺品整理をしていた時に見付けたソレには、来たるべき時が来るまで、誰の手にも渡らないように、誰も見る事が無いようにと書かれた紙が挟まっていた。
そのため、その紙が挟まれていたページまでしか、読めていないのだと言っていた。
どうせ死んだ人間の遺した言葉なのだ。
誰も咎めやしないのだから、そんな言葉、ムシして読んでしまえば良いのに。
律儀なヤツである。
その後は記載されていた指示に従い、精霊に隠して貰ったので、見付けられれば続きが読めると解釈しているらしい。
なので彼は全世界を津々浦々と旅をしながら、父親の日記帳を探している。
その時が、ようやく来た!
そう思ったのに肩透かしを食らってしまったのだ。
落胆しても仕方が無い。
だって極度のファザコンだからね。
では彼女の言う‘’英雄‘’とは誰か、と問えば、やはり父親をさす言葉だと返された。
ココの兄弟は、日記を書くように育てられたのか?
二人揃って遺品が日記って。
……二人の弟である、火の精霊神: 紅曜まで、書いてたりしないよね?
タブレットにならまだしも、紙に書くとか。
資源が少なかった施設では、紙は貴重品だったんだぞ。
何か書く事に使うくらいなら、トイレットペーパーにした方が、余程有意義だからね。
勿体ない事をしやがる。
「私は早くに父を亡くしているの。
思い出も朧気だけど、その日記を読み返している間は、父を身近に感じる事ができた。
辛い時に励ましてくれるような、嬉しい時に分かちあってくれるような……そんな気持ちにさせてくれる、私の、お守りみたいなものなの。
……だから、取り返すためなら何でもする。
協力してくれるなら、今までの非礼を詫びて、貴方たちの望むようにするわ。
お願い。
……いいえ、お願いします」
言ってまさかのDOGEZAスタイルを取ろうとしたので、慌ててデコをキャッチして食い止めた。
女性の肌に断りもせずに触れてゴメンよ!
「村長共にミズキが賢者だと勘違いさせておかなければ、腹癒せに燃やされると思ったのだろう?
理由があっての態度なら、気にしない。
……だからお前も、頭を下げるのを止めたのだろう?」
「えぇ、カノンの言う通りです。
それにお二人は、身内なのでしょう?
家族を助けるのに、いちいち理由なんて要りません。
だから貴女も、今まで家族同然の村人達のために、粉骨砕身、開拓に勤しんで来たのでしょう??
同じですよ。
是非カノンをこき使って下さい」
「ふふっ。
……弟子の立場の貴方が、それを言っていいの?」
クスクスと笑いながら、瑞基はありがとうと言って頭を下げた。
結局下げるんか〜い、とツッコミを入れたくなるが、まぁ、謝られるよりは良い。
感謝の言葉は幾ら言っても良いものだからね。
何より、やはり女性は笑っているに限る。
難しそうな顔をされたら、カノンが二人居るような錯覚をしてしまって最悪だったからね。
アンタ等似すぎ。
「セリアが件の村長に、俺たちのことを何と伝えたかが気になるな」
「既に賢者が来たと伝えられていたら、カノンか瑞基様のどちらか、あるいは両方がニセモノだと思われていそうですもんね。
そうじゃなくても、無償で樹化病を治すと話を通されてしまっているなら、ソレを交渉材料に日記を回収する事は出来なくなります。
お金を払うのは吝かではありませんが……と言っても、この辺では貨幣は意味を成さないでしょう?
その人達は、何と日記を交換しようと望んでいるのでしょうか??」
角骸鯨の角を持っている事は伝えられているだろう。
入村の条件を緩和して貰おうという打算で、欠片を渡したのだから。
別にソレは良いけど、期待値MAXな説明を既にされてしまっていたら、問題の解決の代償に日記を寄越せとは言えなくなる。
言ってしまったら、カノンの賢者様の二つ名に傷が付きかねない。
人々の意識の中の精霊の立ち位置を上げ、信仰心を増やすためにも、‘’賢者‘’と‘’精霊の使者‘’の二つ名に瑕疵が付くのは避けたいからね。
神の野郎の存在をこの世界の住民の心から追い出すためには、困った時に縋り付く先を、精霊か俺達にしなければならない。
なのに悪評が広がってみろ。
火のないところに煙は立たないと言うのだ、
幾ら善意を振り撒いて回っても、何か裏があるのだろうと勘繰る人が出てきてしまいかねない。
カノンも俺も、人々の前では清廉潔白でなければならないのだ。
魔王と恐れられる俺が、と考えると、何のギャグだよと腹がよじ切れる位に笑いたくなるが。
「お金の流通もあるわよ。
オプリタス大陸から出たがる子供がたまにいるから、貯めてあるの。
開拓を申し渡された時に渡された資金や、村を訪れた冒険者と取引をした時に手に入れたお金。
あとは簒奪者が現れた時に剥いだ身ぐるみから得たもの。
各村にある程度の金額は管理させているわ。
確かに使い所は少ないけれど。
あの子たちが要求するとしたら……食べ物や日用品かしらね?
幼い頃はよく外の話を聞きたがっていたから、冒険譚を要求してくる可能性もあるかもしれないわね」
……あぁ。
なるほど。
瑞基が犯人に強く出られないのは、幼少期の可愛い時代を知っているからなのか。
純血の地球人はもう、瑞基だけだと言っていた。
そして混血し、地球人の血が薄まれば薄まる程、生命エネルギー、つまり霊力の総量が減っていく。
ひいては寿命が縮むと言う事だ。
何代経ているのはは不明だが、村長の年齢は瑞基よりも、遥かに若い。
ココで暮らしている人達は皆、家族のようなものだと言っていた。
つまり、何百年と生きている彼女にとっては、子供のような、孫のような存在なのだろう。
見た目はジジイになっていて、他人の物を盗むような悪人に育っていたとしても、彼女にとっては、ソイツ等ですら、守るべき、愛する子供達なのだ。
だから強く出られない。
イタズラをした子供を、強く叱れない親が居るように。
大切な日記を返してさえくれれば、大したお咎めもせずに、許してしまう程度には甘いのだろう。
時には叱る事も、大事だと思うのだけれどね。
大人を舐めたまま歳を重ねたら、誰も咎めてくれる人がいなくなって、増長していつか酷いしっぺ返しが来るぞ。
ソレが寝たきりの老人になった時に、介護してくれる人が居ないという形で訪れるのか、ロクな死に方が選べないという形で現れるのかは、それこそ、神のみぞ知る案件だろうが。




