神さま、傾聴する。
ご覧頂きありがとうございます。
誤字報告、ありがとうございました。
‘’無双‘’こそは少なくしようと何度も見直ししているのに……!
全くの無意味なようです。
ご迷惑おかけします。
決して自ら‘’賢者‘’と名乗り始めたのではない。
否定をしなかったのは事実だが、詐称の意図を以てして、その呼び名を肯定するようになったのは、オプスクリス開拓村が今代の村長となった、ここ十年程の話だ。
そう前置きをして、瑞基は深〜い溜息を吐きながら、茶を入れてくれた。
小ぶりだったり、虫食いによって食べるのが難しい 蕃藷を焙煎したお茶だそうだ。
ほんのり甘く、サツマイモのような香りがする。
どっちかと言うと、香ばしさもあるから、焼き芋的な匂いかな。
子供が好きそうな味だ。
あぁ、なるほど。
食事で不足しているビタミンや食物繊維を、こうやって摂っているのか。
生活の知恵ってヤツだな。
賢いね。
かつてはカノンを東と置き、南北の賢者が別に居た。
瑞基は‘’西の賢者‘’と呼ばれていたそうだ。
もう随分と前に、南北の賢者は亡くなったそうだが。
カノンは過去にそんな事があった気がする、程度の認識で、他の賢者が居た事実は、言われてようやく思い出したらしい。
それも、なんとなく、そんな気がする程度のようだ。
自分の事には、ホント無頓着と言うか。
賢者の称号は、彼にとって然程重要なものではないと、分かりやすく証明されてしまった。
少しでも執着をしていたら、他の賢者の同行を追っていただろうからね。
他の賢者も施設出身者の地球人だった。
そのためカノンの父親とは知り合いだったようだ。
名前だけなら知っていると言う事だったが、裏を返せば、名前しか知らない。
その程度の繋がりとすら呼べないような関係しかなかった。
そして西の賢者である瑞基は、カノンには会った事が今まで一度も無かった。
だが彼の父親には、大昔に会った事が一度だけあるのだそうだ。
そう言う瑞基は、遠い記憶にある、自分の父に似ていたと……無意識なのだろう。
記憶を手繰るように目を細めて、微笑んでいた。
……よく、懐いていたもんな。
俺の中では、それぞれ二人の父親の姿を思い返しても、似ているとは余り思わないのだけれど。
イヤ、兄弟だし、血縁なんだろうなと思う程度には似て居るよ?
髪色こそ同じだが、肌の色からしてイエベ秋が瑞基の父で、イエベ春がカノンの父。
身長も前者が一八〇cmをゆうに越していたのに、後者は一六八cm。
二人とも柔らかい目元をしていたけれど、カノンを見れば分かる通り、彼の父親の方がタレていた。
性格は片やおっとりと穏やか。
片やネチネチと事ある毎に俺と自分を比べては悲観し、グチを言って来た。
ちょっと考えただけでも、コレだけの差が挙げられる。
まぁ、俺が一度死んで、施設がこの世界に来てから今日まで、何百年と経過しているのだ。
もしかしたら、俺が知らない時間の間に、彼も成長期だったのだから、背が伸びて大人っぽくなっていたとしても、おかしくない。
俺だってこの世界に来てから半年で、少し身長が伸びたのだから。
俺の中での彼は、十六歳の姿のままだ。
だがこの世界に来て、随分昔に大人になり、子供まで誕生している。
俺の彼に対するイメージと、ココで過ごした実際の彼のイメージが乖離していても、ソレは当然の事なのだ。
……俺だけ、取り残されてしまっているなぁ。
あんなに小さかった瑞基も、立派過ぎる程の淑女になっているんだもの。
琥珀に抱き上げられて喜んでいた、かつての面影は、どこにもない。
俺の十歳以上歳下だったのに、今では何百歳上なんだか。
あ、女性の年齢を探ったり伺ったりするのは、マナー違反だな。
間違っても再び思い起こしたりしないよう、思考を埋めておかなければ。
「オスクロル村からオプスクリス開拓村に引越しをする際に、その形見を奪われてしまった、と」
「そう。
賢者様が後生大事にしているものだから、余程価値が高いものなのだろうって思い込んでいるのでしょうね。
冒険者に売り付けようと、どこかにしまい込んでいるのは、確かなのだけれど……」
当初‘’西の賢者‘’と呼ばれていた瑞基は、次第に‘’賢者‘’とだけ呼ばれるようになった。
毎度呼ぶには、長いもんね。
呼び始めた人達は、頭の中で区別を付けていただろうが、時間の流れと共に、周りがカノンと混同してしまうようになったのは、自然な流れだ。
最初は否定をしていたけれど、次第に面倒臭いと思うようになってしなくなった。
肯定をした事は無かったけれど、害は無いから良いかと放置していた。
問題が起きたのは、ここから北東にあるオスクロル村がまだ開拓村だった時の事だ。
手狭になって来たからと、そろそろ南へ開拓をしようという話が浮上した。
つまり、オプスクリス開拓村を作ったタイミングだ。
地中の居住空間を整えるため、瑞基は一人、暫くオスクロル村を離れた。
オプリタス大陸開拓チームの拠点が、南へと進む度に行っている。
初期は他の地球人達も行っていたが、純血の地球人は今や瑞基一人なのだから、仕方ない。
いつもの事だ。
いつも通り一週間程かけて、田畑を含めた共同で使用する仕事場の区画と、厨房やトイレ等の設備を造り、空間を適当な大きさに区切って部屋を造った。
明り取り用の機器も設置して、人が住むのに不自由ない状態までいつも通り整え、希望者を迎え入れた。
オプスクリス開拓村に拠点を移すため、瑞基は自分の荷物を取りに、一度オスクロル村に戻った。
この時にはまだ、遺品が手元にあったのを確認している。
次の村を造るための期間は、彼女が居なくても、問題なく生活が出来るかの、お試し期間も兼ねている。
オスクロル村に戻り荷物をまとめ終えた途端、問題が起きたと、アチコチから呼び出しが掛かった。
何か変だな、とは思ったそうだ。
普段なら自分達で解決している、煙突の煤取りや扉の建付けの改善みたいな、細かい事で呼び出しをよくされた。
だがソレは、離れ難いと思ってくれて居るのだろうと、呑気に考えていたそうだ。
少なくとも、今まで悪意を向けられた事が無かったから。
開拓村の住民とは、長年共同生活を送っていたのだ。
大きな家族のような、絆さえ感じていた。
ちょっとの事だからと思い、まとめてあった荷物を、不用心にも鍵が掛かった自室から出した状態で、その辺に置いてしまった。
なにせこの場にいるのは、家族同然の住民達だけだ。
少しの間くらい、問題無い。
そう判断したのが運の尽き。
その間に、中身が抜かれてしまったらしい。
袋の形が、置いた時と違えば分かったのだろう。
だが仕事を終えた後、忘れないようにと言って、荷物を手渡しされたために気付くのが遅れた。
容疑者はオスクロル村の住民と、オプスクリス開拓村へと移る人達全員だ。
その数は、約一〇〇〇人。
その数だけ聞くとゲンナリするが、ピンポイントで遺品だけが抜かれていた事。
いつ戻って来るかも分からない状況で盗まれた事。
その二つの点から、遺品の存在を知っている人の犯行だとすぐに分かった。
そして知っているのは、歴代の村長を務めている家族と、瑞基の弟子になった人達だけだ。
そして弟子は除外出来る。
遺品が何なのかを、知っているから、盗む理由がない。
なんなら見せた事も何度もあった。
見せろと言われれば、喜んで見せてくれる事も、その遺品に金銭的価値が皆無な事も知っている。
そうなると、オスクロル村の村長家族か、オプスクリス開拓村の村長家族のどちらかになる。
カマをかけて引っ掛かってくれたお陰で、オプスクリス開拓村の村長とその周囲の人間が画策、実行した事は分かった。
だが、ソレがどこにあるのかが、分からない。
オスクロル村で開拓村の村長達が暮らしていた部屋は、住民に協力して貰い家探しをしたが見付からなかった。
だからこの村のどこかにはある。
村長が息子に代替わりをした際に尋ねたが、知っているし持っては居るが、返却はしないと突っぱねられた。
そのため今日に至るまで、彼女の手に戻って来ていない。
瑞基にとっては余程大切なものらしく、事ある毎に村長一派はソレを盾に、瑞基を良いように使って来た。
自分達の部屋を整えさせたり、仕事を押し付けたり、その程度のものらしい。
だが弱みに付け込まれて、パシリとして利用されるのは、良い気分はしない。
しかも相手が圧倒的な弱者なら、余計にだ。
琥珀の前世の遺品という程度なら、執着なんてせずに、くれてしまえば良いのに。
遺品が蔑ろにされたとしても、愛娘がこんな状態である方が、彼は嫌がるだろう。
「どこにあるのか、目星は付いていないのですか?」
「たぶん、常に持ち歩いていると思うのよね……
コッソリ部屋に忍び込んだ時に、見付けられなかったし。
それが一層、腹立たしいっ」
ダンッ!と思いっ切り机を両手の拳で打ち付けたせいで、お茶が零れた。
余程腹に据えかねているようだ。
「その盗まれたものとは、何なのだ?
貴重なもので、冒険者に売り付けようとしているのだろう?
ならば我々が買取り、ミズキに渡せばいいのではないか?」
質問は小分けの、一問一答形式でお願いします。
そう言いたいが、まぁ良いか。
俺もいい加減、ブツの正体を知りたいし。
瑞基の父親の、料理や地質の研究ノートだと思うんだけどね。
この世界で使われている文字と、日本語では書き文字が違う。
書かれている内容が分からないから、価値の低さに気付かず、犯人達は売り払う事に固執しているのだと思うのだけれど。
いっその事、内容をバラしてしまえば良いのに。
……信じて貰えないか、信じたとしても、賢者様が大切に保管していたものと言う時点で、付加価値が付いてしまっているのか。
盗んだ物を転売しようとするなんて。
そんなヤツが、この世界にもいるのだね。
犯人達の誤算は、滅多に人が寄り付かないオプリタス大陸の、前人未到な南側に冒険者が来る事が全然無かった事だよね。
オプスクリス開拓村に訪れた冒険者は、過去に一組だけなんだって。
しかも移住して来て割とすぐに来たから、次に来るのもそう遠くない未来だろうと思い、売りを渋った。
そこから何十年と経過しているのだから、笑えない。
イヤ、売られなくて良かったけどさ。
「盗まれたのは……日記帳よ。
英雄の」
その言葉に、カノンが思わず、といった雰囲気で立ち上がった。
さすがシスコンな上に、ファザコン・マザコンでいらっしゃる。
英雄の言葉に即反応するね。




