神さま、瀬踏みする。
キノコの栽培キットを四次元ポシェットから取り出す振りをしながら「スキル」で創り、机の上に並べていたら、どデカい溜息を吐かれた。
カノンからではない。
まだ彼のやり過ぎセンサーに引っ掛かる程の事は、していないもの。
では誰か。
そりゃあ当然、瑞基からである。
何故彼女に溜息を吐かれなければならないのだ?
理由が全く思い浮かばない。
「そっちの自称賢者様より、貴方が賢者と言われた方が、納得できるわ」
「どうしてです?」
「自称賢者様よりも、貴方があくせくと動いているじゃない。
それにそのポーチ、今まで見たことがないわ。
中から出した量と、見た目の大きさと釣り合ってないでしよう?
持ち物からして、普通じゃないもの。
……一体、どんな仕掛けになっているの?」
カノンが熟考タイプなせいで、要らん疑いを掛けられた!
それとも俺がマイペースに動き過ぎてしまったせいか??
コレでも加減しているのに!!!
「師匠も同じ物を持っていますよ。
賢者とその弟子にと、時の大精霊クロノス様が与えて下さいました」
必要な物は全て出したし、創った。
使用者として登録されている俺以外には、使えないようになっているので、渡した所で何の問題も無い。
ベルトから外して、瑞基に手渡した。
覗き込んだり、逆さまにしたりしながら、不思議そうに首を傾げている。
分かる。
科学が発展していた地球にすら、容量無限大で中に入れておけば時間の経過もしないなんてこんな便利な道具、無かったものね。
下手に科学知識があると、余計に混乱するよね。
「くろのす?
聞いたことがない精霊の名前ね」
「時間の流れを司る精霊様です。
一般的には知られていない精霊様の御名を把握し、その御力を行使する事が出来る。
その事実は、賢者たる立証にはなりませんか?」
「ならないわね」
面っ倒臭っせぇぇぇっっっ!!!
キッパリと、素気無く申し出を却下され、思わず顔が引き攣った。
顔のマッサージをしないと、表情筋を取り繕い過ぎて、笑顔のまま固まってしまいそうだ。
その前に、頭の血管がプッツンしないか心配である。
なんでこうも頑ななのかね。
「我々を中に立ち入らせたくない、理由でもあるのか?」
「そりゃあ、賢者を名乗る不審者だもの。
当然でしょう?」
「そうではない。
外部の者を一切受け入れるつもりがないのなら、冒険者を招き入れる部屋が複数あるのはおかしい。
我々が賢者だと名乗らなければ、通例通り部屋に通したのではないか?」
「そ、それは……」
ずっと黙っていたカノンが口を開き、瑞基に疑念を提示する。
俺達を賢者と認めないその理由が、俺達の言葉が信じられないからではなく、別の場所にあると考えたようだ。
言い淀んだ時点で、肯定と受け取って良いだろう。
回復薬の材料と言われる、角骸鯨を提供出来る実力者である保証済み。
セリアが詳細を話していたのなら、角骸鯨を難なく倒せる事も把握しているはずだ。
樹化病の脅威に村全体が飲み込まれそうな現状、セリアに渡した欠片では全く足りない。
そういう量を渡したのだ。
当然である。
村人全員に飲ませられるだけの角を提供し、更には食糧難まで解決してくれるかもしれない。
そんな実力者が、俺達だ。
本来ならば、もてなしゴマを擦りまくって、崇め奉る勢いで媚びへつらう所だものね。
瑞基がぞんざいな態度を取る度にセリアが困惑していたのは、普段の彼女と全然違う雰囲気だから、というのもあるだろう。
だがそれ以上に、村を救う手立てが見付かったかもしれないと言うのに、ソレを無下にするような扱いをしているからだという理由の方が大きいように思える。
戸惑いながらも反論をせず、素直に俺のおかわりに応じたのも、俺達が腹を割って話す時間を取ろうと気を使ってくれたのだと思う。
聡い子だからね。
セリアには聞かせられないような、重要な話をする可能性もあった。
なので彼女の気配はずっと追っている。
厨房があるフロアに留まり、ずっと動いていない。
時間を潰してから戻るつもりで居るのだろう。
ホント、賢いね。
「貴女が賢者と呼ばれて居る事に、関係しています?」
「……っ!」
図星のど真ん中を撃ち抜いたようだ。
やったね。
瑞基は分かりやすく身を強張らせ、顔を歪ませた。
唇を噛んでいるあたり、どうやら賢者と名乗っているのは不本意な事らしい。
賢者と言われれば、英雄の子供であり、王の権限を与えられた存在以外に無い。
ソレは有名過ぎて、どれだけ外部との交流が断絶された地域だとしても、揺るがない事実だ。
稀にであっても冒険者が訪れるのであれば、外部の情報を仕入れる時に、必ずと言って良い位に上がるのが、賢者の二つ名のその武勇伝だろう。
世界の危機を、何度も救って居るのだもの。
実はカノンは、世界レベルの超有名人である。
ただのタレ目なシスコンじゃないのだ。
コミュ障故に、余り人と関わりを持とうとしないから、見た目の要素がスッポリ抜けて、実力と二つ名ばかりが伝わって居る。
せいぜい、タレ目とか身長が高いとか。
立派な杖を持っているとか髪が長いとか。
その程度だ。
瑞基は女性にしては背が高めだし、髪が長い。
顔面の構成要素もカノンに類似している。
強力な「地のスキル」を持っているのだから、人外めいた力を振るう事も出来る。
彼の名を語っても、疑問に思われはしないだろう。
その名声を利用して、瑞基は何をしているんだ?
カノンの名を語って、無償で宿や食事の提供をさせようと、狡い事を考える輩が居るのは聞いている。
だけどこの村を含めたオプリタス大陸の集落は、彼女が主導して造ったんだろ??
そんな事をしなくても、信頼も名声も、この大陸に限定はされるだろうが、十分に得ている。
セリアの目線が、ソレを物語っているもの。
わざわざ別人の名を名乗るような理由が、思い浮かばない。
「理由さえ説明してくれるのなら、我々はこの村では賢者を名乗らない。
セリアへの口止めは、必要だが。
他にも要望があるなら、可能な限り受け入れよう。
樹化病の脅威を、俺は嫌という程理解している。
全滅させ損ねた、過去の俺の尻拭いの意味も含めて、ミズキへの協力は惜しまないつもりだ。
……一応、血縁でもあるらしいからな」
おや、難しい顔をしていると思ったら、カノンは樹化病というか、 粉媒楢と対峙した事があったのか。
粉媒楢の繁殖力の強さを知っているのなら、殲滅させる重要性を把握していても当然か。
右目に霊力が集中していたから、既に彼も 粉媒楢が魔物だと理解しているだろう。
先程の部屋に居た人達が既に手遅れな事や、穀物に擬態して仲間を増やそうとする凶悪さも含めて、ココで暮らしている人達の理解と協力が無ければ、駆逐し切れない事も、よく分かっている。
だから瑞基に協力をして貰うべく、本来下げる必要の無い頭を下げてまで願い出た。
さて、瑞基は折れてくれるのか……




