神さま、納得する。
琥珀の前世である、瑞基の父親は、料理の研究に余念が無い人だった。
趣味でもあったのだろう。
仕事でどデカいシャモジを振り回しながら大量の食事を作り、休日は特別に自室に備え付けて貰ったキッチンで料理をしていた。
少しでも多くの人に、お腹いっぱい食べて貰えるように。
少しでも多くの栄養を取って、体調を崩す人が出ないように。
言い換えれば、生存権を奪われる人が少なくなるように。
よく実験と称して、出来上がった手料理を頂いたものだ。
役得ってヤツだよね。
その娘である瑞基には、もしかしたら彼の研究ノートが受け継がれているのかもしれない。
俺は「知識」でイタリア料理のオッソ・ブーコ、フィリピン料理のブラロやボーンマローステーキの情報を仕入れられるため、そういう料理がある事は知っている。
知ってはいるけどさ。
……コイツら、まさかの骨まで食っていやがった。
イヤ、正確に言うなら骨髄か。
この半分に切った丸太のようなものは、角骸鯨……ではなく、その近似種の魔海牛の骨。
そしてこの骨こそが、残り物だそうだ。
誰もが一度はチャレンジするが、二度目は無い。
そんな料理らしい。
他にお盆に乗せられていたのは、大量に作られた、お腹が空いたら子供ならいつでも食べられるようになっているスープ。
それと堅焼きの平たいパンが付けられた。
元々のメニューには、ココに燻製してあった角骸鯨 や魔海牛の肉が少しと、酢漬け野菜が朝食に付いたそうだ。
病気の蔓延によって狩りに出られる者がおらず、備蓄品である燻製肉を食べて、現状を凌いでいる。
ピクルスは、塩漬けの野菜と日替わりで出される。
夕食はスープに、古くなり硬くなったパンを削り入れたパン粥のみ。
あとは寝るだけだからと、夜は量が少なく、肉も出ないのだとか。
出された骨髄は、スープのダシにされたものになる。
周りの硬い骨は残し、骨髄部分をすくって食べる。
柔らかいし満足度が高い。
なのに誰も食べたがらず、残ってしまう。
普段は食堂から横に伸びる、ゴミ捨て場行きになる事が多いのだとか。
ゴミ捨て場とは、妖兜猪が複数匹いる空間の事をさす。
昔は妖鶏もいたのだとか。
妖兜猪や妖鶏、あとは妖鎧牛や魔馬なんかは、比較的家畜化させやすい魔物として有名だ。
懐きはしないが、エサをくれる人だと認識してくれれば、襲って来なくなる個体が多い。
ハズレにあたると、文字通り一生、命が尽きるまで暴れ回る凶暴さ加減だが。
ソレ等を家畜化出来ないかと奮闘した時期もあったけれど、狭い空間による、ストレスのせいだろう。
人間の被害が大きくなってしまったために、今は妖兜猪のみ、全く別の区画を設けてソコに放し飼いをしているそうだ。
ソレも一応家畜、と言うのではなかろうか。
だが瑞基達からすると、飼育している感覚ではなく、どちらかと言うと、残飯処理係の気持ちが強いみたい。
だから比較的育てやすい妖鶏ではなく、妖兜猪を残したのか。
廃棄を持って行く以外は、家畜臭と言えば良いのだろうか。
あの独特の臭気が充満しているから、その区画には立ち入らないそうだ。
放置してりゃ、そりゃ糞尿が溜まる一方なのだから、臭くもなるだろう。
他の街だとスライムがゴミ処理係の役目を担っているが、スライムは絶滅危惧種のレアモンスターだ。
確保出来なかったから、飼い慣らす事は出来なかったが、せっかくいるし、雑食で比較的何でも食べる妖兜猪をゴミ処理係にしているのだな。
んで、死んだら共食いをされる前に回収して美味しく頂くと。
やはり食に余裕があるようなメニューでも食糧事情でもない、よな。
なのに残る魔海牛の骨髄。
そんなにマズイのだろうか。
この世界に来て食べたもので、マズイと思ったものは無い。
味が薄いとか、独特な味付けだとは思ったけれど。
ココに来て、初体験となるのだろうか。
「いただきます」
両手を合わせて、スプーンを取り、ゼラチン質な赤茶色の部分をすくい、口に運ぶ。
……うん。
マズイ、ってことは、ないな。
……うん。
…………なんというか、脂っこい。
と言うか、脂身をそのまま食べてる感覚。
デロッとドロッとした脂が、ネチっこく口の中にまとわりついてくる。
しかもスープで洗い流そうとしても、スープのダシが骨髄から出てくるせいか、全然口の中がサッパリしない。
豚の脂身を食べながら、背脂マシマシな豚骨スープを飲んでる気分になる。
コレは、どれだけお腹がすいていたとしても、残してしまうと言われたら頷いてしまうな。
好奇心から一口は食べても、二口目は遠慮したくなる。
イヤ、一度口を付けたものだ。
責任持って食べるけどさ。
ラーメンを寄越せとは言わないけれど、せめて米が欲しい。
硬いパンでも良いけど、ボソボソした水分の少ないヤツだからか、脂が染みなくて口の中で変な舌触りになる。
せめてラスクっぽくしてくれれば、サクサクした食感で何とか誤魔化せそうなものなのに。
ネッチョリしたものが、咀嚼をする度に歯の隙間を埋めようとしてくる。
食後の歯磨きに加えて、フロスも必須だな。
……あ。
粉媒楢の分身が紛れている可能性があるから、米が食べれないのか。
しかも焼いてから時間が経った、安全なパンしか主食がないのか。
……不味くは無いのだけれど、キッついなぁ。
せめてもう少しスープの脂が薄かったらとは思うが、お湯で薄めたら、水分でお腹が膨れてしまって、カロリーが足りないのだろう。
だけどこのスープも、年寄りの胃を容赦無く凭れさせる凶悪さがあるよね。
年配の人達は、どうやって食べているんだ?
お椀から直接汁を啜ると、口の周りがグロスも付けていないのにツヤツヤとテカりそう。
俺の唇、光り輝いてないよね??
「カノンも食べてみる?」
「いい……見てるだけで腹が膨れた」
顔色悪く胃のあたりを押さえているのを見るに、お腹が膨れたというよりも、見ただけで胃がムカムカしてきちゃったかな。
臭いも凄いものね。
ニンニクとかハーブがあれば、解決するんだけどな。
骨髄を料理に利用するのは素晴らしい。
タンパク質やコラーゲン、脂を多く含んでいるし、骨を構成しているカルシウムやリン酸を始めとするミネラルも、肉体形成に欠かせないものだ。
少しのプラスアルファをすれば、何の問題も無く、食べられるようになる。
この部分はすぐに改善出来そうだ。
あとは野菜が漬物にされている事から、日持ちしない野菜が多いのか、長期保存する手立てが無いのだろう。
塩漬けの野菜には発酵段階で生食にはない新たな栄養素が生まれるし、酢漬けにすると抗菌・抗ウイルス効果が高まり食中毒を予防してくれる。
免疫力が向上するから風邪をひきにくくなるし、慢性疾患のリスクが減る。
湯通しをしていないのなら、作物から霊力を摂取出来る。
霊玉を持っている人達には、良い事尽くめだ。
霊力を溜め込むための器官である霊玉がない、生粋の瑞基には、毒になってしまうのだけれど。
……今の所、視る分には問題無さそうだな。
良かった。




