神さま、憂う。
付与は魔物の死体から剥ぎ取った素材を使って、任意の道具に施し、強化する技術だ。
付与の方法を簡単に説明するならば、まずベースとなる魔物の素材を用意をする。
ソコに、少量の霊力を使って別の魔物素材からその特性を剥ぎ取り、重ねる。
……で、良いと思う。
例えば俺の装備品なら、魔鷹馬の革を使って作られた靴に王冠魔鳥の羽を使って速度上昇を。
魔神羊の毛の繊維を織り込んだマントに、白龍や蒼龍のウロコを使って外気温遮断と保温の効果、それと防御力向上をそれぞれ付与をした。
このような感じだ。
他にも細々と色んな付与をしてあるが、メインで一番大きい容量を取ったのが、ソレ等の効能となる。
ベースが箱で、付与素材がボールとしよう。
ただ箱にボールを入れるだけなら、簡単な作業だ。
適当に放り込めば良いからね。
しかしベースとなる箱の大きさは様々だ。
そこに入るボールの質感も、固いもの柔らかいもの。
小さいものに大きいもの。
他のボールと反発するものや、くっついて取り込んでしまうものと、色々な性質を持っている。
その箱に、何をどうやってどの順番で何を詰め込んで行くか、考えなければならない。
そうじゃないと、希望するボールが全部、収まりきらないでしょう?
消えない落ちゲー感覚かな。
イヤそれよりも、ソコにマージ系ゲームの要素も追加したパズルゲーム。
リンゴから始まり、スイカに育てるヤツがあったじゃない。
アッチに近い。
アレは基本の形が丸いけれど、付与の場合はブロックの形が尖ってたり丸かったりする、更なる鬼畜仕様だ。
当然のように、消えないし。
イヤ、付与が消えられても困るんだけど。
よく考えないと空間が空いてしまい、ヤキモキする事になるという点では、とても秀逸な例えだと思う。
その話は横に置いておこう。
付与は、魔物の素材にしか出来ない。
問題はココだ。
人には出来ないんだよ。
出来たら滅茶苦茶楽だったんだけどな〜。
俺が魔王だとカノンに知られてから、彼の助言により、マント全体に認識阻害の付与を施した。
ただすれ違っただけの場合だと、周囲の景色に溶け込んだように見えるというか……
……そうだな。
物凄く影が薄くなる感じかな。
俺の特徴を認識出来ないように荒くぼかしがかかる、フィルター越しに見ている印象しか残らないようになっている。
大まかな身長や体格、どんな髪や服の色をしていたか。
思い出そうとしても、酷く朧気な印象しか残らない。
誰にも認識されないと、ぶつかったり、馬車に轢かれる危険性がある。
そのため効果は加減していて、ジッと見詰められ続けたら意味を成さないような、ごくごく軽いものにしてある。
更にフードを被った時には、幻影の効果が追加で発動する付与を施した。
コチラは後から思い出そうとしても、夢や幻でも見ていたのではないかと錯覚させる程に強力なものだ。
そもそも思い出しにくいようにもしてある。
認識阻害よりも強力なため、発動中は多少だが霊力を消費する。
ソレもあって普段は被らず、顔見知りの地球人がいる街を訪れる時に使おうと思っていた。
どんな酷暑の中だろうと、フードを被っている事にすら疑念を抱かせないようにしてある。
精神的な部分にも干渉を及ぼすって事だ。
しかし、唯一の弱点がある。
フードをあらかじめ被っていないと、意味が無いのだ。
話しをしている途中で、顔を隠し始めたら、不審者にしか見えないだろう?
しかも被った途端顔が認識出来なくなるとなれば、付与の知識を少しでも持っている人ならば、すぐに看破されてしまう。
長生きしている分、地球人の知識は膨大だ。
瑞基も例に漏れず、付与が出来なかったとしても、知識くらいはあって当然。
そう考えておくべきだ。
俺が魔王だとバレるかもしれないからと、安易に誤魔化す行動を取ったら、逆に怪しまれてしまう。
ココはカノンに丸投げして、大人しくしていよう。
そのカノンは、瑞基と口論真っ最中だけど。
最初の要求通り、コチラは漢字で書いた名前を提示したのだ。
結果は予想していたものと違ったのだろうが、ココは瑞基が折れて、要求を聞き入れてくれれば良いのに。
だって村では、死者が出るレベルの病気が蔓延しているんでしょ?
悠長に言い合いをしている余裕は、無いんじゃないの??
そのオプスクリス開拓村は、どうやって造ったのか、地下にある。
ろくに空気の入れ替えも出来ない閉鎖された空間で、感染症の被害が今も拡大中だと言うのなら、全滅するのは時間の問題だ。
薬師としてのカノンがどれ程有名なのかは知らないが、少なくとも王都では、知らない人はいないレベルの有名人である。
賢者の証明が出来なくても、国王の勅使として、薬師として入村する許可くらい、出してくれれば良いのに。
何にこだわっているのか知らないが、ソレで今はまだ息がある人達が死んだら、どう責任を取るつもりなのだろう。
……知り合いから説得して貰った方が、手っ取り早いかな。
大人気なく口論をし続けるカノンと瑞基を見て、オロオロとするしか出来ないセリアの傍に、スススと近寄る。
「森から帰って来たばかりで疲れている女性を放置して、悪い大人達ですね。
寒くはありませんか?」
営業スマイルを浮かべながら、身体を屈めて目線を合わせる。
さりげなく、手を取るのも忘れない。
ビックリしたように身体が跳ねるが、手を引っ込めないあたり、嫌悪感は抱かれていないようだ。
むしろ森でも思ったが、勘違いでなければ、結構好意的に思える。
ヨシ!落とせる!!
内心クククとほくそ笑みながら、子供には似つかわしくない程に冷えてしまった手を、両手で包み込んだ。
スルリと指を少し絡ませ、更に撫でて、ゆっくりと離す。
一瞬伸ばされる、セリアの右手。
すぐに引っ込んでしまったが……その、慌ただしい仕草よ。
目線の動きが、赤らめた頬が、触れ合いが終わってしまった事を名残惜しんでいるのだと、如実に物語っている。
「冷えてしまっていますね」と言いながら、失敗作のマントをセリアに羽織らせる。
失敗作と言っても、作業に慣れておらず、高度な技術に分類される認識阻害や幻影の付与に失敗しただけのものでしかない。
元の素材のお陰で、暖かさは抜群だ。
小さな肩にマントをかける時、その耳元に口を寄せた。
「貴女から、アチラの女性を説得して頂けませんか?
このままでは、貴女が凍えてしまいます。
我々はこのまま去り、別の開拓村へ向かっても良いのですが……村には、病人がいるのでしょう?
賢者様ならばすぐにでも治せるというのに、今この瞬間に、病による犠牲者が増えてしまったらと思うと、心が痛むのです」
別に俺達は村に入らなくても良いけれど、お前等のためを思って言ってやってんだ。
つべこべ言わず、サッサと入れろやゴルァ。
副音声が入るなら、こんな感じだろうか。
イヤ、こんな無作法過ぎる事までは考えていないが。
だが忖度なしに大袈裟に誇張増し増しで言うなら、こんな感じになる。
実際問題、俺もカノンも、オプスクリス開拓村への入村にこだわる理由は無い。
あくまで国王であるカノンの妹君から、旅の道中寄れたら寄ってみて、と言われたから行ってみようとしただけなのだ。
国王は人材不足もあり、王都とその周辺の問題の対処に、いっぱいいっぱいだった。
最近潰しはしたが、暗殺計画もあったしね。
そのため地方を治める貴族達がいない区域の治世を、長年放置しているような状態だった。
カノンが行脚して大雑把な対応はしていたものの、全世界を一人で回るとなると、大変なんてもんじゃない。
それでも集落の規模や魔物被害に合わせて、数年、十数年ごとに対応をしていた。
しかし魔物や瘴気による被害の報告がなく、税の滞納が続いているだけの町や、定期的に精霊が届けてくれる手紙――手紙で問題ナシと報告が上がってくる場所なんかは、後回しにされていた。
だって慢性的な、人手不足なんだもの。
問題無いとされる場所に顔を出す時間があったら、毀魔馬の目撃情報が上がった地方に向かうべきじゃない。
魔物は基本的に地球に生息していた動物よりも、大きくて頑丈だ。
その上魔法のような術も使う。
今まで見て来た中で、一番小さい妖兎ですら、小型犬……イヤ、中型犬くらいの大きさはあったもの。
そんなのに襲われたら、精霊術を使えない人達は、一溜りもない。
特に一般市民は、武器なんて持っていない。
あって包丁や農具程度だ。
そんなもので、どうやって山と見まごうばかりに大きい魔物に立ち向かえと?
近付いたらプチッと潰されて終わりだ。
そういう、遭遇したら死を覚悟する他ない魔物ですら屠り、諍い事があれば対処し解決策を導き出す事が出来るから、人々はカノンを‘’賢者‘’と崇めるのだ。
オプスクリス開拓村は、そういう理由があって後回しにされた集落のうちの、一つでしかない。
ココで立ち寄れなかったとしても、後回しにする期間がまた、何年か延びるだけ。
その程度の認識しかしていない。
その間に病魔によって滅びようが、世界単位で見れば、よくある話だ。
俺だってカノンだって、心があるもの。
傷付かないとは言わないさ。
救えなかったのは残念だと、後から思う日は来るだろう。
だがソレは、代表者が入村を突っぱねたせいだ。
良心の呵責は、最小限で済ませられる。
俺としては、ムリに入ろうとして交渉している今この時間のせいで、助けられるはずだった別の集落が滅びてしまわないか。
ソッチの方が気掛かりで仕方がないよ。




