神さま、踏み入れる。
「あれ?バッチャンだ」
「フェブラクアのメンテするって言ってなかった?」
「御使い様たち、バッチャンの知り合いなの?」
足元の方陣が光り、続々と転移してきた青年達が、矢継ぎ早に質問を重ねてくる。
さすがに孫……違う。
子孫達にみっともない姿を見せたくないと思える良心くらいはあるようだ。
無理矢理ひっぺがそうとしても一向に離れてくれなかったのに、青年組の姿を確認した途端、名残惜しそうにしながらも、ようやく離れてくれた。
本人も当たり前のように受け入れているので、その呼び方が普通なのだろう。
しかしこの二十歳程度の見た目で、しかもあの瑞基が‘’おばあちゃん‘’と呼ばれる立場である事実が、どうにも俺には受け入れ難い。
……あんなに小さかったのに。
大人になってしまったんだね。
「フェブラクアって?」
「ああ、あの正面のデッカイ機械のこと。
海水や不純物だからけの氷を、飲み水にしてくれるんだ」
「あぁ、あの濾過装置、そんな名前がついてんだ」
地下に造られた集落の生命線とも言える浄化装置を見上げる。
オプスクリス開拓村のものよりも、随分と古ぼけている。
そしてあちらよりも、何回りか大きい。
ちゃんと現状で満足せず、アップデートを重ねているんだな。
しかも不具合が起きたら、ちゃんと村人達で対処をして来たらしい。
所々、瑞基がやったとは思えない、大胆な修理が施されている所がある。
少なくとも、オプスクリス開拓村の機械には無かったツギハギ仕様になっている。
修繕が大雑把だとしても、村の人達が自力でメンテナンスをして、構造を理解した上で直そうとした証拠だ。
瑞基一人に依存しているのではないと分かって、ちょっと安心した。
「あら、猫は被っていないのですね」
青年達と丁寧語すら使わずに、砕けた口調で会話をしていたら、瑞基にツッコミを入れられた。
自分達には最初よそよそしい態度だったのに、ラクサリス村の村民達には距離を置いていないのが不服だそうだ。
村長のオッサン達に、ノックもせずに創った小屋に乗り込まれたせいで、初っ端から取り繕うヒマも無く素を見られてしまったからだと、事のあらましを説明した。
すると瑞基は方陣のすぐ横に備え付けてあるロッカーのような収納家具の方へと飛んで行った。
ソコで着込んでいた服を脱いでいたオッサンの一人――気配からして村長に、説教をしだした。
何を失言したのか、結局五人全員がその対象となったけれど。
その様子は、勢いから言葉選びまで、親が子を叱るような、近所のオバチャンが悪ガキにお灸を据えるような雰囲気、そのものである。
ちょっと怖い。
オッサン連中は身長から体格まで、外見に差がほとんど無かった。
もちろん喋れば声の違いで分かるけれど、外へ出て狩りをしようと言う段階になれば、獲物が逃げるといけないからと、皆寡黙になった。
そのため装備品で区別を付けていたのだが、帽子や手袋のような、特徴のある衣服を脱がれてしまうと、イマイチ分からんな。
特に今は正座をさせられコンコンと説教をされている。
背丈の微妙な差すら、俯いているせいで判断出来ない。
もう、誰が何やら全く分からん。
小屋で茶を出した時も、脱ぐと着るのが大変だからと、顔の防寒具をズラしていただけで、顔の全体図すら把握出来ていなかったもんな。
村の中を歩き回れるような、薄着になり、更に顔面を覆っていた防寒具も脱ぎ捨て軽装になった、その顔をシッカリと見てみる。
叱られている情けない姿であるため、ハッキリと断言は出来ないが、礽孫である青年組よりも、幾分か瑞基の父である基達の面影がある気がする。
つまり、カノンにも多少だが似ている。
基達がオッサンになれていたら、こんな見た目になっていたのかも、とちょっと夢想してしまった。
そう考えると、カノン的には父親である、自分の記憶の中の基未に似ていると思うのかな。
当然のように、俺が知っている十代後半の見た目のまま時が止まっていた、なんて事はないのだし。
いくら地球人と言えど、基未達は精霊術を使えなかっただろうから、瑞基よりも見た目の年齢を重ねていた事だろう。
瑞基は琥珀の暗躍のお陰で、体内に蓄積した霊力を発散させると同時に、自覚は無くても生命エネルギーを霊力に変換させる事が出来ている。
そうやって今も若々しい見た目を保てているだけだ。
彼女が例外なのである。
カノンの母親である徹の、その弟。
カノンの叔父にあたる灯なんかは、見た目が四十代から五十代のオッサンになっていた。
ソレもなるべく老いないため、長生きするために工夫をした上での見た目年齢だ。
対処をしていなかったら、もっとヨボヨボとしていたに違いない。
ソレはソレで見てみたかったかも。
基未なんかはそういう事に無頓着に生きていただろうし、きっと灯以上に年寄りになっていただろうな。
声と雰囲気からしてオッサンだと決め付けていた壮年組は、見た目の年齢は三十代から五十代までまばらだ。
カノンの視線は定まらないが、オッサン達の顔を眺めている時間が長いし、やはり面影を追っているのだろう。
なにせファザコンだし。
オッサン達はチームメイトだからというのもあるのだろうが、互いに親しく、信頼関係を構築しているように見えた。
きっと実年齢は、皆似たような感じなのだろう。
瑞基と血縁だと言っていたから地球人の血は確実に入っている。
だがシャンバラの現地民の血も当然のように混ざっているのだ。
地球人の血の濃さによって、外見と実年齢の差にバラツキが出ているに違いない。
「せっかくの収穫物が傷んだら勿体ない」「客人の前でどやすのは辞めてくれ」とメインで叱られていた村長以外のオッサン達がなだめ、「バァちゃん、話長い」「喉乾いたし下行こうよ」と青年組が言ってくれたお陰で、手持ち無沙汰な時間からようやく解放された。
「あら、つい」なんてホホホと笑うが、瑞基は瑞基で、俺に幾つも猫をかぶっていたんだな。
最初俺の正体に気付いていなかった時の余所行き用のものと、俺と気付いて以降の初恋の君を前にした時用のものと。
イヤ、女性は基本的に男よりも社交性が高く、細かく仮面を使い分けるのは知っていた。
その事に対して、特に驚きはしないのだけどね。
俺だって、歳の近い青年組に対してと、オッサン達壮年組に対する態度は多少ながら使い分けているもの。
カノンはいつでもどこでも変わらないよね。
数少ない歳上の、灯や瑞基に対しても、全っ然変わらない。
あるとしたら、どちらかというと、歳下に対してかな。
幼いと感じるヒトに対しては、気を使う傾向にあるように思える。
今も男ばかりの輪の中には入り辛いのであろう、少し離れた所にいるセリアの横に立ち、孤立しないようにコチラの様子を伺っていた。
とは言えカノンとセリアは、顔見知りではあるがそこまで交流を持っていたという記憶はない。
カノンは気さくに話しをするようなタイプでもないし、中途半端な気遣いしか出来ていないせいだろう。
セリアは俯き、どうすれば良いのか分からずモジモジとしている。
彼女には、どうやって接すれば良いのだろうか。
なにせセリアには、髪を染めていない、魔王スタイルの俺を見られている。
しかも宣言すらせず、了承も得ず一方的に新オプスクリス開拓村に転移させて以降、特に何も言わずに別離した。
詳細を説明するのが面倒臭かったのもあり、燼霊討伐後は村へは出入りしていない。
そのため瑞基にしかお別れをしていないのだ。
その瑞基は、ホント、何でココにいるのだろうか。
別れたの、ほんの数日前だよね?
新オプスクリス開拓村からラクサリス村までの地下道は、通していなかったよね??
そんな短期間で掘れるような距離じゃないよね???
疑問は尽きないが、狩った魔物が腐るといけないのは、全面的に同意する。
瑞基を先頭に招かれるまま、オプスクリク開拓村と構造が似ている、しかし何処か間違い探しのようにささやかながら違いが要所要所にある地下の村に、ようやく一歩、踏み出した。




