表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【2巻11月1日発売】異世界ラーメン屋台、エルフの食通は『ラメン』が食べたい  作者: 森月真冬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/195

愛しの『ラメン』

 

 私とオーリは、顔をほころばせ何度もコクコクと頷いた。


「そう! 『ラメン』だよ!」

「おおっ! レン、やはり君も『ラメン』が作れるのか!?」


 レンは大きくうなずいた。


「もちろんよッ! 俺は自分の店を持つために、この年までラーメン一筋で色んなラーメン屋で修業してきた……今じゃあ俺のラーメンは、有名店にだって負けない味だぜ!」


 な、なんとっ!? タイショの世界の有名店にも負けない味だと!?

 私の喉がゴクリと鳴る。

 タイショのラメンは凄かった。あれより美味いラメンを、私は知らぬ。

 だが、もしかしたら……レンのラメンは、それを超えてしまうかもしれん!

 私たちは、そわそわしながらレンに問うた。


「で、そ、そのラメンって……?」

「わ、私らにも、食べさせてもらえるのか……?」


 レンは苦笑し、ヤタイから椅子を取り出して並べ始めた。


「おいおい、あんたら。俺が、何のためにこの世界に来たと思ってるんだい? 本棚の奥から偶然みつけた、親父の遺品の日記帳。深夜2時、ラーメンの材料を積んだ屋台を引いて、盛戸流もるどる町3丁目4番地の路地に入るべし……ボロボロだった屋台をレストアし、そんなバカバカしい話を信じて実行したのは、母さんの命の恩人にお礼を言いたかったのと、死の間際の親父の願いを叶えるためなんだ」


 そして腕組みポーズで顎を上げ、私たちに宣言する。


「食わせてやるよ、極上に美味い俺のラーメン! 二人とも、心置きなく味わってくれ!」


「や、やったー!」

「うほほーい!」


 その一言に、私たちはいそいそと椅子に座って、笑顔でラメンが出てくるのを待ち続けた。

 レンは、ヤタイの裏に回って湯を沸かし始める。


 私の胸がドキドキ高鳴る。

 ああ、もうすぐだ! もうすぐ、恋焦がれてた『ラメン』が食えるのだ!

 しかし……なにかが……おかしい……?


 オーリも、それに気づいたようだ。

 彼は私の耳に口を近づけ、(ささや)いた。


「よ、よう。リンスィール……なんか、変な匂いしねえか?」


 その言葉に、私も顔を(くも)らせる。


「う、うむ。なんだろうな? この匂い……タイショの作る(かぐわ)しいスープとは、似ても似つかぬ匂いがする……てか、はっきり言ってこれ、悪臭の部類だぞ!」


 私たちの不安をよそに、レンは真剣な顔で『ラメン』を作っている。

 彼はメンを茹でると、タイショのものとは少し形が違う、深いカゴのような網で湯を切った。


 ザッ、ザァ!


 ううむ。息子を名乗るだけあって、メンを扱う動きは、確かにタイショと似ているぞ。

 しかし……やはり、この匂いが気になる。

 レンはドンブリにスープを注ぎ、メンを入れ、具材をのせる。

 そして、出来上がったラメンのドンブリを私たちの前に置いた。


「さあ、食べてくれ! こいつが俺のラーメンだ!」


 差し出されたドンブリの中をみて、私もオーリも驚愕(きょうがく)した。

 具材は三種類。薄いチャーシュ、少々ぶ厚いメンマ、細切りにした大量のヤクミである。ナルトがないことや、量や形が少し違うが、ここはタイショのラメンとあまり変わらない。

 だが……スープが……肝心の『スープ』が違うのだ!


 それはタイショの作った、褐色で油のキラキラと光る、あの美しいスープとは似ても似つかぬ代物だった!

 なんとスープが白く、煮詰めたミルクのようにドロドロと(にご)っているのである。そのドロドロスープからは、ニカワでも煮出したような、独特の臭気が立ち昇る。

 私は、思わず立ち上がった。


「な、なんだこれはぁーっ!? ちっがーうっ! こんなのは『ラメン』じゃなーい!」


 私の叫びに、レンの顔色が変わる。

 彼は例の腕組みポーズで怒ったように顎を上げ、私を(にら)んで言った。


「ああん? 俺のラーメンに、文句あるってのかよ?」


 私は、恩人であるタイショの息子と喧嘩することに躊躇(ちゅうちょ)し、グッと言葉につまる。

 だが……それでも我慢できずに、口を開いた。


「もちろんだとも、大いに文句がある! なんなのだ、これは……上に乗った具材はいい。メンも茹でてる所を見る限り、まともに見えたぞ。だが、肝心のスープが白くてドロドロに濁っていて、見た目も匂いも最悪じゃないか! どういうつもりかわからぬが、こんなものを『ラメン』と認めるわけにはいかぬっ!」


 レンは、キョトンとした後で言った。


「はぁ? これがラーメンじゃないだと……じゃあ、あんたの言うラーメンってのは、どんなのなんだ?」


 私は胸を張り、かつてタイショが作った、素晴らしき『ラメン』を思い浮かべて言う。


「ラメンとは、熱々の澄んだ褐色のスープにキラキラと光る油が浮かび、その中に細くて黄色いメンが沈んだものである! 一口(すす)れば小麦の香りが口いっぱいに広がって、そこに魚介と鶏の混合出汁のしょっぱさが絡み合い、舌の上で得も言われぬ快楽を生み出す……まさに、『食の芸術品』だ!」


 私の言葉に、レンは眉を寄せる。


「澄んだ褐色スープに、魚介と鶏の出汁だと……?」


 それから、合点がいったようにポンと手を打つ。


「ああ、なるほどね! 親父は、昔ながらの中華そば一筋だったからなぁ」


 だが彼は挑戦的にニヤリと笑って、また腕組みポーズで声を張り上げる。


「だがな、俺のラーメンは『ベジポタ系』の超こってりスープよっ! 砕いたガラと一緒に白菜やジャガイモなんかのデンプン質豊富な野菜を、トロトロになるまでひたすら寸胴でじっくり煮込んで作り出す。その味の奥深さ、広がりは、まさにあんたの言う『食の芸術品』だぜ……さあ、早いとこ食ってくんなっ!」


 な、なんだこいつ……私の言ってること、全然わかってないじゃないかっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ラーメンの味も20年で様変わりしましたからのう……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ