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お前を本当の妻にする気はない? それは好都合です、私は三か月で帰国しますので!  作者: 千堂みくま


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1の5 強制的に連行されて

「ど、どうしたの? そんなに慌てて」


 私が問い掛けると、ハンスは青い顔のまま「早く街へ行きなさい」と言う。


「街へ行ったら、もうここへは戻らない方がいい。どうしてだ……なんで今さら……」


 何かブツブツ呟きながら私の背中を押して、裏口の方へ追いやろうとする。


「ねえ、どういう事? 説明がないと納得できないわ」


 よく分からないけど、あの立派な馬車はハンスにとって不吉な意味を持つらしい。

 でも状況が理解できない私は、とにかく事情が知りたかった。


「街へ降りてから説明するから、とにかく今は……!」


 ハンスが焦った様子で言い、二人でもつれながら裏口を開けると、そこには帯剣した男性が何人か立っていた。皆、絵本で見る騎士のような服装をしている。

 あまりにも場違いな雰囲気に呆然としていると、一人の騎士が私を見てから大きな声を出した。


「シェイラ殿下! ティナ王女を見つけました!」


 ティナというのは、私の名だ。

 でもなぜ私の名に、「王女」が付いているのだろう。


 状況が理解できずただ呆然と立ち尽くしていると、こつこつと足音が聞こえてきた。

 そちらを見ると、黒い服の女性が持つ日傘の下に、綺麗なお姫様が立っている。

 彼女の顔を見た途端、私は持っていた鞄を落としてしまった。


「どうして……。どうしてあなたは、私と同じ顔をしているの?」


 まるで鏡に映った自分が抜け出てきたかのように、お姫様の姿形は私と瓜二つだった。

 違うのは髪の色だけで、私は薄桃色の髪なのに、彼女は紫色だ。

 お姫様の登場によって、私は今までの不可解な出来事の謎が全て理解できてしまった。


(だからハンスは、私の顔を隠そうとしてきたのね)


 ハンスが必死で私を隠してきたのは、恐らく、このお姫様に見つからないようにするためだったのだ。

 私が彼女に見つかると、何か不吉な事が起こるからだったのだ。


 その予感は外れてはいないようで、シェイラと呼ばれたお姫様の私を見る眼差しは、凍えそうな程冷ややかだった。

 彼女は私を一瞥すると、手に持った扇で私の帽子を叩き落とした。


「許可されてから口を開きなさい、無礼者。こんな汚い娘が私の妹だなんて信じられないわ……。でも顔は同じだから、身代わりにはちょうどいいわね。名案を思いついたお姉様に感謝しなくちゃ」


 汚い娘。身代わり。


 彼女の言葉には、これから私をどう扱うつもりなのかがはっきりと表れていた。

 どうやら私はお姫様の身代わりとなって、何かさせられるらしい。


(誰が言う事なんてきくもんですか)


 初対面で見下すような事を言われて、おとなしく命令に従う人間がいるだろうか。

 確かに私の服は立派な代物ではないけれど、決して汚くはない。


 なんだか猛烈に腹が立ってきて、私はお姫様を敵だと認識することにした。

 後ろで青ざめているハンスに、小声で話しかける。


「ハンス。私が彼らをひきつけるから、その間に逃げて。街で落ち合いましょう」


「手荒な事はしたくありません。どうか大人しくなさってください」


 不穏な気配を察知したのか、騎士が私達を取り囲んだ。

 彼らに向かってお姫様が命じる。


「ハンスを人質にしなさい。そうすればこの娘は抵抗できなくなるわ」


 同じ顔なのに、どうしてここまで非情な事を思い付くのだろう。

 命じられた騎士がハンスの腕を掴み、私から離そうとする。


「やめて、乱暴にしないで! ハンスは脚がうまく動かないのよ!」


「あなたが大人しく私達に付いて来るのなら、乱暴なんてしないわよ。……付いてくるわよね?」


 帯剣した騎士たちに、うまく歩けないハンスが取り囲まれている。ハンスは首を横に振っていたけど、私はお姫様を睨みながら答えた。


「行くわ。だから絶対に、ハンスに怪我をさせないで」


 悔しくて、私の声は震えていた。

 お姫様は――シェイラは満足げに頷き、騎士に命じて私を馬車に押し込んだ。

 こうして私とハンスは、ほぼ強制的に王宮へと連行された。





 王都は山の近くにある街の何倍も広かった。


 門から円形に街が広がり、その一番奥に女王が暮らす王宮があった。

 王宮の奥には白樺の森があったが、一本の真っ白な木だけが群を抜いて高く、空を貫きそうな程だった。


 この時はまだ知らなかったけど、その背の高い木が結界樹だったらしい。

 純白の結界樹と色を揃えたかのように王宮も白く、瀟洒な見た目をしていたけど、私はすっかり騙された気分だった。


(ハンスが王族の話をしたがらなかったのは、彼らを知っていたからなのね)


 自分が憧れて誇りに思っていたアシュロムの王族は、人間として立派とは言い難い性格をしていた。

 おまけに私自身も彼女達の血族だったなんて、悪夢でしかない。

 憂鬱な気分で門をくぐり、王宮に到着すると、すぐに湯浴みをするように命令された。


「変な病気をうつされると困るわ。爪の中まで、綺麗に洗いなさい」


 シェイラの命令で、大勢の侍女が私の服を無理やり剥ぎ取って、全身をくまなく洗った。

 私が着ていた服はシェイラが始末するように言ったので、王宮にあったドレスを着せられた。

 髪にごてごてと飾りをつけられて、騎士に取り囲まれながらどこかへ歩かされる。


(ハンスは無事なの……?)


 私は健康体だから、何をされてもどうという事はない。

 でもハンスが痛みを我慢して何かさせられていたら、どうしよう。

 不安なまま通路を歩いていると、突き当りに両開きの大きな扉がある。


「ティナ王女をお連れしました」


 騎士が言うと扉がゆっくりと開いた。

 足元に敷かれた赤い絨毯は細長く、遠い玉座まで続いている。

 その絨毯の途中にハンスが両膝をついていて、彼を見つけた私は思わず走り出していた。


「ハンス! よかった、無事だったのね」


 ドレスを持ち上げながら駆け寄ると、玉座に座った誰かが呆れた声を出した。


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