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お前を本当の妻にする気はない? それは好都合です、私は三か月で帰国しますので!  作者: 千堂みくま


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1の3 嫌われてしまったようだ(エルヴィス)

 夫婦の寝室に戻ってきたエルヴィスは、ドアがやけに重い事に気づいた。

 取っ手を押そうとしてもびくともしない。

 ドア全体が、内側から何かで固定してあるかのようだ。


 仕方なく腕に神力を込めて、全身で押すようにしてドアを開ける。


(力加減を間違うと、ドアを壊してしまいそうだ)


 やがて何かがズズッと動く気配があり、ようやくドアは開いた。

 人が一人通れるくらいの隙間を作って、そこからするりと部屋に入る。

 室内に入ったエルヴィスは、ドアの様子を見て苦笑した。


「なるほど……。かなり嫌われてしまったようだ」


 花嫁は相当な苦労をしてチェストを動かしたようだ。

 かなり重かっただろうに――と考えつつも、エルヴィスとしては面白くなかった。


 いや、自分が悪い事は自覚している。

 巫女姫としての資質を確かめるために、無理やり口づけしようとしたのは失敗だった。

 それは認めるが、何も夫を締め出さなくてもいいではないか?


(きみはシェイラじゃないんだろう。そこまで俺を嫌わなくてもいいじゃないか)


 今夜は二人にとって初夜なのだから、花嫁には夫を受け入れる覚悟があっていいはずだ。

 過去には巫女姫が、そのまま帝国の皇妃として生涯を過ごした事例もあったはず……とそこまで考えて、ハッと気づいた。


(この姫は、シェイラと俺が不仲だと知っているのか)


 エルヴィスがこの部屋に来た時、彼女はかなり驚いた様子だった。

 まるで「来ないはずの夫が来た」とでも言いたげで、エメラルドの大きな瞳は零れ落ちそうな程見開かれていた。


 さらに、あの発言。


『そうですよね。よかった、安心しました』


 あれはシェイラとエルヴィスの事情を知っていなければ、出てこない言葉だ。

 恐らくシェイラはこの姫に、「エルヴィスは手を出さないはずだ」とでも説明したのだろう。


(この姫は何らかの事情があって、シェイラの身代わりを引き受けた……という事か)


 金銭か何か、褒美の取引があったのかもしれない。

 眠る姫の手の爪はよく見ると歪んでおり、彼女は日常的に家事をする日々を送っていたのだろうと思われた。

 王宮ではない場所で育った姫が、取引を持ち掛けられて身代わりを引き受けた――と考えるのが妥当だろう。


 エルヴィスは足音を立てないように、静かに姫に近づいて観察した。

 改めて見ると、よく似ている。


 花嫁はまるで子どものように体を丸め、小さくなって眠っていた。

 豊かな胸は彼女の腕によって押しつぶされているが、それとは対照的に腰は折れる程細い。


 出るべきところはしっかり出ている上に、顔は作り物のように整っている。まさに女神のごとき美しさだとエルヴィスは思った。

 見ていると何かせずにはいられなくなる。手を出しそうになる。


 エルヴィスは自身を落ち着かせるために、長く息を吐き出した。

 眠る姫をあまり直視しないように上着を脱ぎ、ボタンをいくつか外して、彼女の隣に体を横たえる。


 そのまま寝ようとしたが、隣が気になってどうも睡魔が襲ってこない。

 エルヴィスは内心ですまないと謝りながら、腕を伸ばして姫を背後から抱きしめた。

 細い体は柔らかくて、よい香りに包まれていた。


(温かい……。これくらいの役得は許してくれ)


 どういう訳か、花嫁を抱いていると自然と眠くなってきた。

 こんなに穏やかな気分になれたのは久しぶりだ。

 結界樹の力が弱まってから魔獣が増加し、ずっと討伐が続いて疲れきっていた。


 そして何よりも、いずれ自分も父と同じようになるのではないかという恐怖が常に心の内にあって、もう何年も熟睡したことはなかった。

 なのにこの花嫁を抱いていると、自然と眠くなる。


 見ていると手を出しそうになるのに、腕の中に抱きしめていると眠くなるというのは、矛盾しているような気もするが。


 この姫を、俺のものにしたい。


 自分はようやく、欲しいものを見つけたのだと思った。

 こんなふうに毎晩眠れたら、どんなに幸せだろうか。


「いつか、きみの本当の名を教えてくれ」


 エルヴィスの腕の中で、花嫁が「うぅん」と可愛い声で呟く。

 自然とエルヴィスの口元が緩み、彼はいつしか深い眠りに落ちていた。


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