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お前を本当の妻にする気はない? それは好都合です、私は三か月で帰国しますので!  作者: 千堂みくま


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4の3 令嬢たちの批判

「私達の教室はここです」


 アンナが案内してくれて、窓際に置かれた長い椅子に座る。

 机も椅子も横に長くて、何人かで並んで使うらしい。

 私は一番窓に近い席に座り、アンナは私の隣に座った。

 ようやく落ち着いたかに見えたけど、廊下には何人も男子生徒がいて彼等から好奇の視線を感じる。


 そちらを見ると誰かと視線が合いそうだから、自然と窓の外へ目を向けた。

 何気ない動きだったけど、私の目は不思議な鳥に釘付けになった。


(鷹? こんなところに?)


 普段は山や森にいるはずの鷹が、木の枝にとまっている。

 こんな人里まで降りてくる事はまずないし、人間に慣れていないはずなのに、私をじっと見ている。


(瞳が金色だわ)


 皇族に関係のある鷹だろうか。

 思わずまじまじと見ていたら先生が教室に入ってきた。


「今日は農学の授業を行います」


 髪を高い位置できりりとまとめた、いかにも教師らしい雰囲気の女性だった。

 年齢はテレーゼよりも少し上かもしれない。

 隣に座るアンナが、小さな声で言った。


「マーサ先生は、農学や植物学を教えておられる方です。薬草にも詳しいんですよ」


 私もこそこそと頷きを返し、教科書に目を通す。


(旦那様は私のために、農学の授業を選んでくれたのね)


 私が皇城の農園でジャンにしつこく土の話を聞いていたから、興味があるかと思って手配してくれたのだろう。

 興味のある分野だけに、集中して授業を受けて、あっという間に一時限目が終わった。

 午前中の授業は三つあり、休み時間には皆、中庭でお喋りをしたりするらしい。

 私とアンナも庭に移動してベンチに座った。


「アンナも農学に興味があるの?」


 授業を受けながら、ずっと気になっていた。

 アンナは皇帝に命じられたから、私と同じ授業を受けたのではないのか。

 本当は興味のない分野の授業を、私のせいで受ける事になったのでは……。

 不安に思いながら尋ねると、彼女はふふっと笑った。


「私の父は、領地で醸造用の葡萄を育てているんです。国内有数のワインの産地なんですよ」


「ああ、それで……」


 納得していると、彼女はさらに言った。


「皇城にも毎年、ワインを送らせていただいています。陛下は皇妃様と、サングリアにして召し上がったとか」


 私はその時の事を思い出し、「あっ」と声を上げてしまった。


「とてもおいしかったわ。あのサングリアは、アンナの領地のワインを使っていたのね」


 おいしくて調子に乗って飲みすぎ、猛烈に眠くなってテーブルに突っ伏して……その後の事はほとんど覚えていない。

 翌朝に目が覚めたらちゃんと夜着だったので、テレーゼが着替えさせてくれたのだろう。


 でも調子に乗って二日酔いになったなんて、皇妃として情けなくて、とてもアンナには言えなかった。

 ぎこちなく笑っていると、ふっと視界が暗くなった。

 何事かと思って顔を上げれば、ベンチに座るアンナと私を、複数の女生徒が取り囲んでいる。

 中央に立つ銀髪の令嬢が、すっと前に進み出て見事なカーテシーをした。


「御機嫌よう、皇妃様。お会いできる機会をずっと待っていました」


 彼女は頭を上げると、背筋を伸ばして高らかに言った。


「私はレイチェル・ゼノンと申します。ゼノン公爵家の娘です。お見知りおきを」


 突然の登場で、私はしばらくぽかんとしていた。

 数秒後にようやくハッとして、「よろしくね」と答えたものの、レイチェルの紫紺の瞳には私を歓迎する光はなかった。


 冷ややかで、何の熱もなくて――私を仮の皇妃としか思っていない様子だ。

 でもそれも当然の事なので、私は気にしなかった。

 前回の巫女姫は浄化を終えて国に帰ったのだから、私もすぐに帰郷すると思われているのだろう。

 レイチェルは淡々とした口調で言った。


「皇妃様は、帝国の結界樹を浄化するために嫁がれたのですよね」


「ええ、そうよ。昨日、一回目の浄化をしたわ」


 私の言葉に、令嬢達は何かを確認しあうように頷いた。


 一体何を言いに来たのだろう。

 じわじわと緊張が高まった時、レイチェルは言った。


「どうかお願いです。完璧な浄化を施してください」


 私はしばし呆然とし、彼女の言葉の意味を考えた。


(完璧な……? 適当な仕事をすると思われてるのかしら……)


 少しショックだった。

 私としては、帝国に来てから怠惰な生活を送っていたとは思っていない。

 浄化の後だって、エルヴィスも、私に厳しいザイオンでさえ、大したものだと褒めてくれた。

 でも他の人間からすれば、適当な仕事ぶりに見えたのだろうか。


 釈然としないまま返事をしようとした瞬間、アンナがやや憤慨した様子で言った。


「レイチェルさん、その言い方は皇妃様に失礼です」


 すると周囲に立っていた令嬢達が、レイチェルを庇うように口々に言い始める。


「失礼ですって? アンナは祖国がどうなってもいいというの?」


「そんな事は言っていません」


 アンナは反論したものの、令嬢達には止まる気配がない。


「じゃあ黙っていて。皇妃様には、真実を知る義務があるんだから」


「直系の皇族が絶えかけているのは、きっと巫女姫のせいよ」


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