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お前を本当の妻にする気はない? それは好都合です、私は三か月で帰国しますので!  作者: 千堂みくま


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3の3 素晴らしい夜

 いつまでも私がサロンに入らないので、テレーゼが不思議そうにドアから顔を覗かせる。


「どうなさいました? 陛下がお待ちですよ」


「……やっぱり着替えようかしら。この恰好、恥ずかしい……」


 恥ずかしいのもあったけど、何よりエルヴィスの反応を見るのが怖かった。


「まぁ、何を仰います。女神のように神々しいですよ。さあ、参りましょう」


 うじうじしているとテレーゼは私の手を引き、やや強引にサロンへと連行される。

 足を踏み入れた時、ようやく私の覚悟が固まった。


(たくさんの人を巻き込んだドレスなのよ。今さら引けないでしょ!)


 なかばやけくそになって、カツカツと靴音を鳴らしながら窓際に置かれたテーブルへと歩いて行く。

 私の視界には、エルヴィスしか映っていなかった。


 彼も夜会服を着ていて、目を丸くして私を見ている。

 やがて彼は、ガタンと大きな音を立てて椅子から立ち上がった。

 何かにひどく驚いた様子で、私の心臓は破れそうなほどばくばくと激しく動いていた。


(怒った? 幻滅した?)


 彼に幻滅されるために作ったドレスなのに、何を言われるのかと怖くてたまらない。

 ほんの数秒が、泣きそうな程とてつもなく長く感じた。

 やがて彼は、噛みしめるように呟いた。


「なんて、美しいんだ」


 本心から出た言葉なのが分かって、私は涙が出そうになった。

 体から緊張が抜けて、私は自分がホッとしている事に気づいた。


(嫌われるためだったのに……)


 その目的は果たされなかったのに、なぜか私は安堵している。

 自分で自分が分からなくなってきた時、エルヴィスは私に歩み寄って、私の腰を抱き寄せた。

 そして耳元に口を寄せて、囁くように言った。


「奥さん」


「な……、何ですか」


 耳に吐息がかかって、ぞくりとする。


「素晴らしいドレスだが、これを着るのは俺の前だけにしてくれ」


 彼はそう言うと、唇を下に滑らせて、私の鎖骨に触れるだけのキスをした。くすぐったくて、唇から「あっ」と声が漏れた。


「他の男がこれを見たら、正気ではいられないだろう」


「まさか、そんな……」


 自分にそこまでの魅力があるとは思えなかった。

 でもエルヴィスは意地悪そうにニッと笑って、「自覚がないのか」なんて言う。


「危なっかしいな、きみは。……閉じ込めておきたくなる」


「えっ……、冗談でしょう?」


 そんな事をされたら、結界樹の浄化ができなくなる。

 エルヴィスは慌てる私を見てふっと笑い、「どうかな」と言った。


 そして私を椅子に座らせると、自分も席について、晩餐が始まった。

 先ほどは緊張のせいで見えていなかったけど、ザイオンもいたらしい。

 彼はエルヴィスの給仕をしながら、にやりと笑って私に訊いた。


「陛下が気に入ってよかったですね。ちなみに、思い通りのデザインでしたか?」


 私が派手なドレスを着ているので、店主がデザインを間違えたとでも思っているのかもしれない。


「……ええ。理想のドレスだったわ」


 ドレスは完璧だった。店主は私の願いをそのまま形にしてくれた。

 ただ、エルヴィスの反応が予想通りではなかっただけだ。


 清楚な女性が好きなはずの彼は、なぜかこのドレスを着た私を見て喜んでいる。

 でもそれよりも理解不能なのは、自分自身だった。


(計画が失敗したのに、何をホッとしてるのよ)


 私は破れかぶれになって、おいしい料理をお腹いっぱいに詰め込んだ。

 しばらくするとエルヴィスが立ちあがり、私に手を差し出して言った。


「せっかくだから、踊らないか?」


 やっぱり来た、と思った。

 この状況で断る勇気は私にはなくて、立ち上がっておずおずと彼の手を取る。


「私……、うまく踊れないかもしれません」


 うまくどころか、全く踊れない。

 不安そうにしたらエルヴィスは諦めてくれるかと思ったけど、彼は私の体を引き寄せると、「顔を上げろ」と言った。


「俺がリードする。きみは俺に合わせていればいい」


 いつの間にかザイオンがバイオリンを構えていて、テレーゼはピアノの前に座っている。

 二人の見事な演奏が始まると、エルヴィスが動き出した。


(え……?)


 どういう訳か、私の足は勝手にステップを踏み出した。

 エルヴィスが動く度に、彼に導かれるようにして勝手に私の体が踊り出す。


(私が踊っているんじゃない。旦那様に導かれているだけだわ)


 私はただ胸を張って、顔を上げてエルヴィスを見ているだけだ。

 それなのに自然と踊れている。


「楽しいか?」


 私はいつの間にか笑っていたらしい。

 ダンスで体は熱く、顔も火照ってはいたものの、それら全てが心地よかった。


「ええ、とても……! ダンスって、こんなに気持ちがいいんですね」


 少し汗ばむくらい踊ったところで、エルヴィスは私を連れて中庭に出た。


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