↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お前を本当の妻にする気はない? それは好都合です、私は三か月で帰国しますので!  作者: 千堂みくま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/44

2の7 罪悪感


「何か?」


「色んな料理を作るかもしれないから、陛下が苦手な味を教えてほしいの。知っておいたら、避ける事ができると思うんだけど」


 エルヴィスのために料理を作ると約束したけど、一品だけとは言っていない。

 全てを同じ味にする訳にはいかないから、苦手な味を避けたいと伝えればいいのだ。

 ただここでザイオンに苦手な味を訊いたくせに、わざとその味付けにしたら、ザイオンには私の魂胆がバレてしまうだろう。


(今さらよ。いずれ離婚するつもりなんだから、覚悟を決めないと……!)


 離婚計画のためには、ザイオンにも嫌われたままの方がいい。

 ザイオンはしばらく私の様子を窺っていたけど、やがて一つの瓶を手に取った。


「この調味料は使わないでください。陛下は辛い物がお好きではありません」


 ザイオンが手に取った瓶は、中に赤い粉がぎっしりと入っている。恐らくトウガラシの類だろう。

 私はにこりと笑い、お礼を伝えた。


「教えてくれてありがとう。それは使わないようにするわ」


 ザイオンは頷き、厨房から出て行った。

 私が料理に毒でも入れたらどうするのかと思ったけど、その場合は容赦なく私を捕らえる理由ができるから、彼にとってはどちらでもいいのだろう。


(赤い粉なら、ちょうどよかったわ)


 これから作るのは、トマトのスープだ。

 赤い色なら誤魔化せるし、辛い味はトマトと相性がいい。

 煮込んで柔らかくなったトマトを潰して、細かく切った野菜と豆、そしてベーコンを入れて煮込む。

 人目を避けて先ほどの瓶を手に取り、大急ぎで鍋に加えた。


(あんまり辛いと可哀相だから……少しにしよう)


 赤い粉は小さじ一杯ほどにしておいた。

 トマトと同じ色だから全然目立たない。


 そして料理長にこのスープを昼食に出すように伝えて、私は厨房から出た。

 何気ない顔で綺麗なドレスに着替え、テレーゼに髪を整えてもらって食事の席につく。

 エルヴィスはもう怒ってはいなかった。


「俺のために農園まで行ってくれたんだな。ありがとう、奥さん」


 にこやかに笑うエルヴィスの顔を見ていたら、胸の奥がずきずきと痛くなってきた。


(わざと苦手な味のスープを出したら……、きっとあの笑顔は消えてしまうわよね)


 作っている間は、これでエルヴィスに嫌われるのだと、強い決意を胸に秘めていたはずだった。

 でも今の私は、彼の反応が怖くてたまらない。


 とうとう目の前に赤いスープが出されて、私は自分で作ったくせに、エルヴィスの皿をひっくり返したい気分になった。

 こんなもの、食べなくていいです――と叫んでしまいたい。


 怖くて俯いていると、向かい側のエルヴィスがスープを見て言った。


「なんだこれは……真っ赤だな」


「……私が作ったトマトのスープです。あまり野菜の味がしないように、細かく切ってあります。豆とベーコンも入れたので食べやすいと思います」


 ぼそぼそと自信のない声で説明したのに、エルヴィスは納得したのか、迷いなくスプーンで掬って口に入れてしまった。


(あっ、そんな大量に口に入れたら……!)


 少しは迷ってくれたらいいのに、彼は私を信じきって、辛いスープをがばっと口に入れてしまった。

 私は俯いて、自分のスープを見つめた。


 エルヴィスの反応が怖くて、顔を上げられなかった。

 心臓が弾けそうな程ドキドキして、胸が苦しい。


 どれだけ時間が経ったのか……多分たった数秒だったろうけど、彼が上機嫌な声で言った。


「とてもうまい。俺が好きな味にしてくれたんだな」


「……え?」


 せっかく妻が作ったスープだからと、無理をしているのだろうか。

 慌てて顔を上げたけど、エルヴィスには無理をしている様子は少しもなく、よどみなくスプーンを動かしている。


(好きな味? どういう事?)


 あの時確かにザイオンは、「これが陛下の苦手な味です」と言っていたはずだ。

 私も瓶を間違えたりせず、確実に赤い粉をスープに入れたのに。


(量が足りなかったのかしら?)


 スプーンを動かして、一口食べてみる。


「……っ!」


 たった少しの量なのに口から火が出そうなくらい辛くて、スプーンを落としそうになった。


「俺に合わせてくれたんだろう。でもきみには辛すぎるのでは……」


「へ、平気です。私が作ったのだから、責任を持って全部食べます」


 気を利かせたテレーゼが、グラスに水を注いでくれる。

 私はエルヴィスの後ろに涼しい顔で立つザイオンを睨み付けた。


(騙された……! ザイオンはどこまでも旦那様の味方なんだわ)


 思えば、最初から私はザイオンの術中にはまっていたのだ。

 本当は好きな味なのに、苦手だと伝えておけば、その調味料を使っても使わなくてもエルヴィスを守る事ができる。

 テレーゼも言っていた。「ザイオン様は陛下を守ろうと必死」だと。


(もう二度とザイオンの事は信じない!)


 涙目になりながら、必死で自分が作ったスープを食べた。

 もうしばらく辛い物はこりごりだと思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。